神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

文字の大きさ
36 / 117
最悪な国、ニコ国

第35話 革新

しおりを挟む
 お茶を入れて、皆に振る舞いながら話を聞く。

 なぜか、すべて俺が振る舞う事に。
 まあ道中で茶の木を見つけて、採取して蒸して揉み、一部はそのまま乾燥させて、一部は発酵した。そのため緑茶と紅茶は大量に持っている。

 そして、おやっさんが胃潰瘍になった原因。
 そう、店が、上手くいっていなかった。
 話を聞くと、鹿とかにかじられて、山に紙の素材がないという……?
「えっ? 素材がない?」
「山へ行っても、元々多くなくて、あっても皮を鹿にかじられて……」

 日本人で、紙と言えばコウゾ三椏ミツマタ雁皮ガンピなどを思うが、実際多くは木を粉砕して、パルプを作り紙にする。

 だが、この世界では紙の木と言う木の皮を使うらしい。
 コルクのような部分、実際にコルク形成層と言われてどんな木にもある。
 それが、薄くはがれる木を使っているらしい。
 イメージとしては、薄ーいコルクボード。乾燥すると固くなるタイプらしい。

 そいつが、なぜか増えた獣たちにかじられて数がないと仰る。

「木を、畑に植えて増やさないのでしょうか?」
「はっ? 木ですよ、木を畑に植えて?」
 どうも畑に植えるのは、麦とか野菜だけのようだ。

 だけどどこかで、果樹園は見た気がするんだが?
 葡萄も木だよな?

「まあいい。木を削って紙を作ろう」
「ですから、その木が食われて」
「いや普通の木だ」
 そう言うと、馬鹿にしたような感じで、にへらと笑いやがった。

「蜂の巣は原料が木だろうが?」
 そう言うと、はっとした顔で驚く。

 要するに木を破砕して、パルプを作れば良い。
 木材パルプの発明は千八何十年だったはず。俺にもきっと作れるさ。

 そうして適当な木をゴリゴリ粉砕して、煮込みさらに崩す。
 ドロドロなパルプに、接着剤となるゼラチンをまぜる。
 にかわと言うもの、文字通り動物の皮とか腱を煮込み、ドロドロしたものを使う。

 そして、網で漉く。
 製法は和紙のそれだ。
 ただしベルトの上に網を置き、そいつがパルプと膠の混合液タンクを抜けてくる。出てきた物をローラーで圧着して軽く乾燥、そして紙ははがされて、さらに圧着しながら乾燥をして、終了後巻き取られる。
 ベルトは、クルクルとひたすら回り続けて、紙のローラーが作られる。
 斑とかを補正するガイドなどを作り、少し目が荒いが、この世界ならなんとか製品として使える紙の量産に成功をした。

 そして、紙の作成に、実はこの世界にない蒸気機関を造った。
 いや、木を削るのも大変なんだよ。
 思いつく簡単な動力は、水車か蒸気機関だったんだ。

 おかげで、お風呂も作れたし、色々と便利になった。
 この開発、実はこの国からお金が出た。


 ―― 数ヶ月前、先ずは、胃潰瘍になるほど困っている、スキフネーさんを助けるために、丁度紙作りなどを始めようとしていたときだった。至高の極達がやってきて、すごい勢いで女の子二人を押しつけていったんだよ。
 ロジーヌとヴァイオレットという子達。
 
 後日偉そうな人がやって来て、よろしく頼むとお願いされて、お金がね潤沢に増えて、つい…… 暴走気味に、色々と始めてしまった。



 他の二軒は、なんとか俺が渡したもので商品を作り、その間に仕入れ馬車が走ったとか。

 だけど、その間にヨウシア国は兵を挙げて、ニコ国と戦闘となった。 
 そしておもしろいことに、ヨウシア国が兵を挙げる少し前、ニコ国は旧ダミアン国、新制モナリチア王国へ兵を出したのだが、その土地を治める貴族が知り合いだったらしく兵達が止まる。

 街道を封鎖して、ニスカ国に勝手に兵が入ったということで、当然だが国として兵を挙げる。
 まあ侵略とも取れる行為。
 話し合えばなどと言うことは通じない。追い出さなければ街道の自治権を盗られてしまう。まあ実効支配という奴。

 戦争を仕掛けた、旧ダミアン国とは戦争が起こらず、周囲の国と戦争になる。
 それも、土地的に両側から挟まれた状態での戦争だ。

 山脈を越えれば、 ヴィレムセン商国へとたどり着けるのだが、それは基本無理である。

 ここに来て、ニコ国の新王は何か目算が狂ったらしく、あわて始める。

「どういう事だ? ダミアン国を手に入れるのではなかったのか?」
「それがそのお、すでにダミアン国が無くなっていたのでさぁ。仲間を集めて、戦争をしようとしたら、王は倒れ、その仲間にしようとした人達も貴族に戻っていたとか?」
 副官バークヘアの描いた絵図。いきなり最初からもくろみが崩れた。
 無論、仲間とする気だった貴族達と戦う気は無い。
 

「ええい。やかましい、言い訳など要らん!!」
 王がそう言った時、ラルスの雰囲気が変わる。
 周囲の兵達の手前、王の言う事を聞いているが、この国の大部分は、副官バークヘアが掌握している。

「ああっ? 色々と誤算がでることもあらあ。ぎゃあぎゃ言うんじゃねえよ」
「なっ何だ? 王に向かってその口の利き方は」
「やかましい。もう良いや。おい、そいつを牢にでも放り込んでおけ」
「はっ」

 そう先日の失敗から、兵達のトップをすげ替えた。

 この国は現在、盗賊達に実権を掴まれてしまっていた。
 こうして、政権交代は静かに終わり、周囲国との戦争が始まろうとしていた。

 だが所詮は盗賊、戦争においてもずるをして、相手国を怒らせることになる。

「やっと諦めたか」
 ニスカ国に側方から分断され、息絶え絶えだったニコ国軍は、自らの旗を逆に取り付けて振る。

 そう降伏の証。
 
 ニスカ国辺境伯、ニコ国討伐隊ゴットハルト=ナンデンヤルカ侯爵は、やっと終わったと笑顔を漏らす。

 少数の隊を連れ、調印のために敵の隊長が設けた席へと向かう。

「もっと早く決断すれば良かったものを」
 馬上から、ゴットハルト=ナンデンヤルカ侯爵は言い放った。
 敗軍の将は、ニコ国第一次遠征軍大将コズール=クラッカー伯爵。当然元盗賊だ。彼に向かって。

「そうだな。仰るとおりだ。じゃあな」
 そう言うと彼らは、逃げ出してしまった。

「なっ、何が起こった?」
 その返事の代わりに、矢が雨となって振ってきた。

「おのれ、卑怯なぁ……」


「ニコ国討伐隊ゴットハルト=ナンデンヤルカ侯爵が殺されました。敗戦の宣言後に奇襲です」
「なんだと、おのれどこまでも。絶対許すなぁ」
 こうして、意外と戦乱は長期化をすることになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

処理中です...