神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

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トシュテン商会の娘イーリス

第45話 あっちもこっちも

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「すっかり、お心を奪われてしまいましたな」
 執事長が、食器類を片付けながら、そんな事を王妃に語りかける。

「あら、それはカリオルトロス家の落日。その一節ね」
 カリオルトロス家の落日。それは、大泥棒にその身を捧げた愚かなクライナ姫の物語。

 王妃トリアーヌ三十二歳。ニコ国にロジーヌが拉致されて落胆をして、救出後、その後に見た娘の姿。
 その後、ひどく落ち込んでいたが、王からの報告と自身の目で確認した元気そうな娘の姿。それを見て、少しは元気になっていた。

 そのすべてに絡み、奇跡を起こしたカグラ。
 その紹介で、やって来た商会。

 ミノヤキーノ商会。
 同じく娘が盗賊に拉致されて、同じ様な悲劇の後、カグラによる奇跡で元気になった娘を持つ商会。

 娘が彼を懸想しているところまで同じとは……
 だが、王妃もカグラをその目で見て、自身も若ければと少し考えてしまった。

 その商会が持って来たものは、美しき白磁の食器類と、食事専用のカトラリー一式。

「失礼でございますが、カグラ様が仰るには、手づかみで食すのは獣と一緒、人間なら道具を使い。優雅に食すものと仰っておりました。最も彼のお方はお箸という二本の棒を器用に使われておられましたが」
 店主ターナボッターはそう言って、簡単な食事を振る舞って行った。

 それは簡単なサラダと、ステーキ。
 柔らかな天然酵母発酵パンと、コンソメというスープ。
 そして、アイスクリームという至高のデザート。

 食器の美しさと、その振る舞われた料理の食味。
 王妃は一発で魅了された。

 少しずつ残し、厨房方に味見させて、再現を望んだが不可能だった。

 そして、食器の購入と引き換えに、それを調理した料理人の名前を聞き、ため息をつく。

 そう、またもやカグラ……

 すべてに絡むカグラ。

 特権を使い、城に招聘をして取り込むのは可能だろうか?
 王に相談をすると、無下な言葉で却下されてしまう。
「やめておけ。彼の者。我らででは御し得ない。客人として遇してもよいが、嫌な予感がする」
「嫌な予感でございますか?」
「ああ。無理強いをすると、居なくなるような気がしてな。然すればロジーヌの幸せを奪うような事にもなりかねん」
 王のその言葉に、王妃は絶句する。

「市井にありて、あのような成功をおさめたのに。それを、手放すと?」
 王妃の言葉に王は笑顔で返す。

「彼の者にとって、あれが他愛のない手慰み程度だとわしは考える」
「そんな。あの紙を作る機械だって……」
 そう言いかけて、黙って調べたことを王に暴露してしまったことに気がつく。

「まあよい。だが、あの手の者はそっとしておくに限る。これから先何を見せてくれるのか、わしは楽しみだ」
 そう言って王は、ご機嫌な笑みを見せる。

 だが王家が起こした一連の動きは、一部の商人達を苦しめる。

 ヨウシア王国、王家御用達。
 ロイヤルポコペン商会は、代々王家へ食器類などをおさめてきた。
 店主トンマーゾと妻エバルネは、顔を突き合わせて一つの皿を眺めていた。

「これが、白磁と呼ばれている食器だそうだ」
 白い肌、金糸による装飾が美しく、それに点々と赤や緑の塗りが入っている。

「こんな物、一体どうやって作ったの?」
 光にかざすと、発色の美しさが際立つ。

 従来の焼き物はもっと無骨で、まだ釉薬の概念すらあまりなかった。
 灰釉が見いだされて、それを用いてより思った姿を焼くのが、この時代の流行だった。

 そもそも、銀食器などが毒判別用に発展をしていた経緯もあるのだが、ロイヤルポコペン商会では、元々民相手に食器を売っていた経緯がある。そうなれば安く、貴族には少し不人気な、焼き物と木製食器を作っていた。

 そのため、利ざやの大きな、大皿等の納品が不要と言われて、今回被害が大きかった。

 理由を聞くと、この皿が貸し出されて、店主達は落ち込むことになった。

「ともかく、何とかしないと。うちは終わりだ」
 王国御用達というプライドもある。

「調べねば」
 無論造り方を盗むため、走り回ることになる。

 だが、店先で普通に売られていて愕然とする。
 無論王家用の物とは違い、装飾とかがされていない質素な物だったのだが、普通の焼き物も釉薬が掛けられ、いつの間にか色とりどりになっていた。

「何時からこんな事に?」
 無論、最近だが、それを知らなかったようだ。さらに落ち込む。

「ええい。窯を探そう」
 そう思い立った、トンマーゾ達。
 だが、山の中では無く、なぜか近所の紙卸し、トシュテン商会から荷が運ばれてくる。

「窯場は一体どこなんだ?」
 二人は困惑をする。

 そう常識の範囲外。
 比較的小さな家。まさかその地下に、広大な工場が稼働しているとは、夢にも思わなかった。

 主の動力は炭による蒸気機関。いま、カグラは石炭や泥炭を探している。
 そして、その熱は様々なものに利用される。

 二十四時間風呂は沸き、温室、動力、料理。
 それも、地下で繋がり。ミノヤキーノ商会とトリヤキー商会へも供給されていた。

 製紙には水も必要なので、地下数十メートルから、綺麗な地下水がポンプにより引き上げられている。
 無論それも、三軒の店では水道により供給された。

 それは王様にバレた後、水道設備の敷設へと繋がっていく。
 そうこの三軒が、王都において重要な商店へとなっていくのだが、それはもう少し後の話し。
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