神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

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魔神討伐

第106話 始まり

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 ユーリ=カウペルス伯爵は馬車から降りて、案内されるままカグラ達の馬車へ向かう。それはどれもこれも馬がいない不思議な乗り物であった。

「あなたが、この隊の代表でございますか?」
「ああ精霊国の王。カグラ=カンナギだ」
「王? これは失礼をいたしました」
 他国だろうが王は王。
 きちんと伯爵は礼を取る。

「実は、私たちの後方からアンデッド達が追ってきております。戻られた方がよろしいかと具申いたします」
 伯爵は現状を踏まえて報告をする。
 だがカグラの答えは驚くものだった。

「いやその話を聞いて、見に来たのだ。背後に術者とかがいる様子はあるか?」
 そう聞かれて、伯爵は驚く様子を見せたが、考え込む。

「噂では、バークヘア=ウィリアム子爵家の周囲から、始まったと伝えられています」
「バークヘア? ひいぃ」
 なぜかヴァイオレットが、その名を聞いた瞬間におびえ始める。

 整合性を持たせるために、完全には消されていない忌まわしい記憶。
 その中で、幾度か聞いた名前。
 そう盗賊の副官だった男。

 当然彼女達の記憶を見たカグラも知っていたが、少し思い出すのに時間がかかった。
「ああ。大丈夫だ。そうかあいつか……」
 ヴァイオレットを抱きしめながら落ち着かせる。
 記憶を思い出したおかげで、少し周囲に怒気が漏れる。

「ひっ……」
 伯爵の後ろにいた奥方のシーラ。長男レオン。長女エノーラ。次女カタリーナが同様におびえる。
 そして、執事オティスと侍女リリス。
 彼等の目は、怪しく光る。


 だがまあ、その話を聞いて、カグラの気持ちは決まり、先へ進むこととなる。
 伯爵達も、やっと逃げてきた道を逆戻りである。

 彼等が言っていたことは本当で、追ってきたように死人達が増え始める。
 だが、必死で逃げていた時とは違い、彼等は、そう非常識だった。

 アンデッド達を倒すには、燃やすか浄化をするしかない。
 そう燃やす……

「あのお方達は、人間なのでしょうか?」
 長女エノーラが、ついに口にしてしまう。

「そんな事を言うでは無い」
 そう言いながら、伯爵も呆れる。

 最初は、兵達が矢ではない武器。筒を向けて何かつぶてを飛ばしていた。
 だが体が壊れようが、悪しき魂を持った者達は動きを止めない。
 そのため、伯爵が燃やすか浄化が必要ですと情報を教えた。
 彼等の馬車は静かだが、併走をしているこちらの馬車はガラガラと騒がしく、聞こえたのかは分からなかったのだが、次の瞬間……

 見渡す限りの平原部分が一気に燃えた。
 そこからは、馬車のスピードを落とし、奴らが来れば進行方向が火に包まれる。

 その炎は、魔術師が数百人は必要だろうという規模。
 それを、わずかな時間でポンポンと撃つ。
 娘が呆れてもおかしくない。
 伯爵ですら信じられないのだ……


「このような…… 彼等、精霊国とは何だ? おいリリス…… どうしてお前はあの方の名前を名乗ったのだ、喋りにくくてかなわん」
 この数年、彼が口癖のようにぼやいていたこと。
「わたくしはあくまでも私、リリス様とは違います。お気になさらぬよう」
「この情報を連絡してくれ」
「はい。すぐに」
 
 執事オティスと侍女リリスが、伯爵達が驚き外を見学している間に、こそこそと相談をして、どこかへ使い魔を飛ばす。
 そう彼等は、暗黒聖教関係者。
 そして当然、カグラ側の幾人かはその事を感知する。

 一番リリスに恨みのあるバーリフェルトだが、金級とはいえ人間。
 名前を聞いてちょっと不快な気がするだけで、使い魔などは気がつかなかったようだ。

 そうそして、伯爵の治める村や町は終わっていた。
 カグラは浄化をして回り、さらに伯爵達を驚かす。

 そして、その浄化の光を少し浴びてしまい、使用人二人の化けの皮がはがれることになる。
 黒い煙を吐き、目は赤く、魔法を撃とうとしながら燃え尽きる。

「すみませんね。分かっていたのですが、同じ馬車だったので攻撃が出来ませんでした」
 そう言ってカグラはにっこり。

 その笑顔を見て、長女エノーラと次女カタリーナ達の目が奇妙にとろける。
 恐怖からの脱出。
 救出されて、非常識な強さを魅せられて、最後に笑顔。
 そう相手は、王様。

 こんなん好きになってまうヤロー。でへへと、貴族の娘らしく欲望が鎌首を持ち上げる。

 そして自身の屋敷を見ていて、地下室に怪しい儀式跡と被害者の遺骨が積まれていて驚く事になる。

 これを行った二人は、先ほど浄化されたのだが、死ぬ前に術式が発動。
 より上位の者達へ連絡が行ったようだ。

 これにより、モナリチア王国へ教団の連中が集まってくることになった。
 バーリフェルトが愛して? やまないリリスもだ。


「何? 精霊国の連中だと」
「モナリチア王国だとよ」
 しばし考えていたが、決定をする。
「奴らは強かったが、倒せないほどではない。早めにやるぞ」
「そうね」
 国の管理から外れて、彼等はこのわずかな間に人外へと足を踏み出していた。
 そう人間からすれば極悪非道。

 被害者達の嘆きは彼等の糧となり、当社比二十パーセント以上のパワーアップをしていた。
 そう彼等は悪魔。
 魔神と同じくその力に上限はない。

 今回決断をした行動は正しかったのか、いま、それは判らない。
 ただかれらのボスであるカグラが居ることが、どのような結果をもたらすのか、この時の彼等には分からなかった。

「鬱陶しい羽虫は速やかに潰すのが正解だ。さあ行くか……」
 彼等はモナリチア王国へ出発をする。
 黒馬の引く怪しい真っ黒な馬車に乗って。


 時を同じくして、カグラも宣言をする。
「バークヘア=ウィリアム子爵家を潰すぞ。あいつは生かしておけない。さあ行くか……」
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