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第五章 ホミネス=ビーバレで再編は進む

第69話 面倒だから統合しよう

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 辺境伯アーランが居なくなり、うだうだしていた者達。
 そこに、一人の老人が現れる。
 だが背筋は伸び、貴賓が全身から滲んでいる。

「何だあんた?」
 ぶっきらぼうに兵は問いかける。
 ただ服装とかを考え、あまり無下なことが出来ないという常識は、働いたようだ。

「私は、セバスン=サミュエル。あなた方は、メリディアム国の辺境伯アーラン=ヤッチマッタナー侯爵の兵でお間違いはありませんか?」
「あっ。ああそうだが」
「此方で、何をされておるのかと思いまして、声をかけさせて頂いた次第でございます。確か、我が国へ攻めてきて、その途上であったと思いますが?」
 そう聞かれて、兵達は、顔を見合わせる。

「そうなんだが、辺境伯ヤッチマッタナー侯爵が王都へ、増援を願いに行って帰ってこないんだ」
「そうでございますか。それは大変でございましょう。皆さん、此処で長らくおられて、随分お疲れの様子。我が国では考えられないような扱い。休戦中という事なら、少しおもてなしをいたしましょう。いかがでしょうか?」

 兵達は、考える。
 相手は身なりの良いじいさんだが、敵国の人間。
 だが、街道脇の野原で、もう一月以上。いい加減兵糧でやってくる、日持ちのするガチガチのパンと薄味のイモスープ。最近は、干し肉など入ってこない。
 日の当たる場所で干され、豪雨の中で震え。
 はっきり言って、疲れていた。

 元々よくわからない、今回の遠征。
 話を聞けば、アスビョルン=オッデレータ侯爵はミッドグランド王国から何故か一人で帰っており、その途中で、盗賊か野盗に殺されたという話。
 それを、言いがかりとして、攻めてきた。
 兵達も、理屈が会わないことは、重々承知をしている話。

「どうする?」
「このじいさんを攫って、開門を願えば良いんじゃ無いか?」
「だが、一人でここに来るってことは、単なる使者で俺達の反応見るための、かわいそうなじいさんじゃないのか?」
「あー殺されたら、それを理由に総攻撃か? 服装を整えたということは、重鎮だったとでも、言うつもりなのか? ミッドグランド王国もエグいことを考えるなぁ」
 セバスンをちらっと見る、兵士達の目が憂いを浮かべる。

「どこも大変だよなぁ。上はろくでなしばかり」
「良いじゃ無いか。停戦をして。どうせやることはないんだ」
「ああ俺達のような兵を殺したって意味は無いしな。考えすぎだぜ」
 少し兵達は疲れていた。
 まともな考えが、きちんと出来ない程度には。

 皆殺しにして、意味が無いわけはない。
 自国の門の前に陣取る兵達。
 食事に毒を混ぜ殺害し、危険を排除する。
 経費を掛け、自国の兵達を危険にさらし、対応することに比べれば、安いものである。幾ら装備差で危険は無いと言っても、それはそれ。

 疲れていた兵達を、団体用魔道自動車が迎えに来る。
 中に入ると、空調が効き快適。
 乗り込むと同時に、清浄な水が配布され、それは普段使っている粗末な木の器ではなく、宝石として扱われる水晶で作られた器。
 幾人かは、驚き取り落としそうになる。

 よく見ると、配るためのピッチャーも水晶で、氷が入っている。
 さっきまで飲んでいた、泥水とは違う。
 一口飲むだけで、体全体が浄化されるようだ。

「ああっ。これは天国だ」
 兵達の大半はこれだけで、半分落ちた。

 だが、彼らの想像を覆す、もてなしを受けることになる。
 団体用魔道自動車は静に移動を開始。

 いつの間にか、新たに作られた建物へ運ばれていく。
 ホテルに入れるわけにはいかないので、収容所を作った。
 今回は、メリディアム国の兵に使用するが、これから先、この国の常識を知ってもらうための研修施設に使う予定となっている。

 建物の脇に団体用魔道自動車が入れる、屋根付きの空間があり、そちらで止まると、順に降ろされる。

 かわいい若い娘が現れて案内を始める。
「この先で、お風呂。つまり浴場で戦場の疲れと汚れを落としていただきます。その際札を渡しますのでなくさないでください。帰りにお荷物と交換いたしますので。それではこちらへお越しください」
 そのかわいいお尻に、兵達の目が釘付けとなる。

 言われた通り、籠と手首に巻く札を貰う。
 籠と、札の番号が同じようだ。
 アラビア数字のために意味は分からないが、書いているものが同じであることは理解できる。

 あっそうそう、この時第二王女ダーシャは、辺境伯アーラン=ヤッチマッタナー侯爵と共に王都へと帰りすでにこの場にはいない。

 
 三千を超える兵達を飲み込み、対応が出来る浴場。
 壁には、順路と入浴の決まりが書いてある。

 洗髪剤を使っても泡が出ない場合は、泡が出るまで洗うべし。
 この固まりは、海綿と言いお湯に柔らかくなるまでつけること。
 体用の洗剤をつけ、よく泡立てる。
 すぐに泡が消える場合は、消えなくなるまで、お湯で流しては洗うを繰り返すこと。

 耳の後ろも洗うこと、等々細かな注意書きが並んでいる。
 日本人なら、『注文の多い料理店』かと警戒するところだ。

「ああ゛っ。このぬくい湯はいいなあ」
「そうだな。疲れが抜けるのは良いが、眠くなるぞ」
「そう言えば、死にかかっていたけが人も、あっという間に治っていたぞ」
「そんなの、メリディアム国なら白金貨一〇枚積んでも無理だぞ」
「それで思いだしたんだ、この国。裏で、神の国と噂されるリギュウムディ王国と繋がっているという噂を」
 そうこの男。マリチオニス辺境伯が抱える、兵士団長ヒエロス=イウスティツエ。こそっと紛れ込んでいた。

 本来、関所の脇はマリチオニス辺境伯が管理をしている土地。
 そこへ、すぐ脇の山側を管理しているはずの、辺境伯アーラン=ヤッチマッタナー侯爵が兵を連れ、雪崩れ込んできた。
 王家の命令書を見せびらかし、押し通った。
 そして、マリチオニス辺境伯は兵士団長ヒエロスと、部下数人を紛れ込ませていた。

 そして、兵士団長ヒエロスは数日前、望とあっていた。
「じゃあ面倒だし、王を倒して統合しようか」
 彼は軽くそう言って、作戦が始まった。
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