奴隷から友達になるための遊戯

おはぎのあんこ

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2.木津②

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 翌日、6限目の授業は現代社会だった。

 話の流れで、教師は現代にも残る奴隷制について話をした。


 帰り際、葉名たち3人はまだその話をしていた。
「今の時代、奴隷制なんてありえないよな」
「本当に、人を牛や豚みたいに労働させるなんてありえないよ」

 俺は辺見のことがあって肩身が狭い。冷や汗をかく。

「そういや、あの豚、どうなった?」
 美々が何とない風に聞く。
「あぁ、すっかり元気なくしてるみたいだ。大学も休学しているらしい」
「当然だな。エミと同じ苦しみを味わうべきだ」
 葉名、能登は頷き合って言う。

 俺は3人に聞く。
「あの豚って何の話?」

 3人は笑顔になる。目尻は下がり、口端は上がった満面の笑みだ。
 しかし、その目の奥には闇がある。

「何でもないよ」
「そうだ。言い忘れてたけど、今日は俺らに付き合えよ」
「お前、最近1人で帰っていただろ? たまには俺らと帰ろうや」

 もともと俺と帰るの怠そうにしていたのに都合が良いな、と俺は思う。

 でも、悪い気はしない。むしろ嬉しい。俺は素直に付き合うことにする。
 辺見には「今日は俺は行けない。1人で行け」とメッセージを送った。



 3人と俺は電車に乗り、馴染みのない駅で降りた。
「〇〇団地」という駅名通り、団地の中にある駅だ。
 なぜここで降りるのか、俺には分からない。


「ここら辺はゴーストタウンみたいになっているんだ」
 3人は迷いのない足取りで団地の一角にある商店街の中に入る。
 商店街とはいっても、営業している店なんて1つもない。闇に沈んだ空間が仕切られているだけだ。
 入ったのも非常口みたいなドアだったし、そもそも立ち入り禁止になっている場所なのだろう。


「ここだよ。俺らのリノベーション住宅。住んではないけど」
 能登は自慢げに手を差し出して言う。


 そこは厨房みたいな部屋だった。
 広いスペースに作業台がいくつもある。理科実験室のようでもある。天井から何本もチェーンがぶら下がっている。何のために使うのかは分からない。
 高い所にある窓から光が差しているだけで、薄暗くて不気味だ。

「どこがだよ。全然リノベーションっぽくない」
 俺は率直に思ったことを言う。

「そんな入り口で判断すんなよ」
「もっとこっち来いよ」
「ほら、もっと、こっち……」


 3人はちょうど部屋の真ん中にある作業台から俺を手招く。
 俺はそこへ行く。
「この台の前に立って」

 葉名に言われ、俺は教室の机の2倍程の大きさの作業台の前に立つ。
 台は黒く塗られている。何も載っていないように見えるが、わざわざ3人がここに呼んだのだから何かあるのかもしれない、と目を凝らす。

「よしっ、準備は良いな」
 美々が言うと、俺の後ろに立っていた能登が抱きついてきた。

「うわっ! 何すんだよ!」

 左横にいた葉名が俺の両腕を物凄い力で掴む。
「えっ? 何!?」
「良いぞ。頼む」
 葉名は俺の声を無視して、美々に声を掛ける。

「よっしゃ」
 美々は天井からぶら下がっているチェーンを2つ引っ張る。

 その先端にあるものが手枷だと分かったときには、もう片方の手首に掛けられていた。
 すぐにもう1つの手枷も掛けられて、俺の両手首は2つのチェーンに繋がってしまう。


「これでもう逃げ出せないな」
 美々は満足げに頷く。
 俺は状況が飲み込めず、困惑する。

「そうそう。こいつ、あの豚の話を聞きたがっていたじゃねぇか。今ここで話そうや」
 俺の制服のズボンのベルトに手を掛けながら能登が言う。嫌な予感しかしない。

「OK。木津、世の中にはクズが意外といるんだよ。エミは分かるよな」
「お前、木津にエミの話したことないだろ……エミは葉名の元カノだよ。3か月前まで付き合ってた」
 そっか、と葉名は美々と見合わせて笑う。

 俺は軽くショックを受ける。
 同じグループなのに、俺は友達が誰と付き合っていたかすら知らなかった。
 分かってはいたが、俺と葉名たちはその程度の仲だった……


 能登は俺のベルトを緩め、ズボンを下ろす。葉名は話を続ける。

「まぁ、そういう訳で、エミとは3か月前に別れたんだが……1か月前に連絡があってね。泣きながら……男に騙されて睡眠薬を飲まされた挙句、レイプされたことを告白してきたんだ……」
「えっ……」
 冷たい空気に剥き出しの脚が触れてスースーする。


「俺しか頼る人がいなかったんだろう。警察には話したくないと言われたけど……エミとは一度は付き合った仲だ。復讐したいと思うのは当然じゃないか。美々も能登も賛成してくれたし……」

 能登は俺のボクサーパンツのゴムに手を掛ける。背中に冷たい汗が流れる。
「復讐って……まさか……」

「分かった?」
 能登は楽しそうに言う。

「そう。約2週間前、俺らはあの豚野郎を騙してここに呼び出して……お前と同じように拘束して輪姦まわしてやったんだよ」
 美々も楽しそうに言う。

「その動画をエミに送ったら喜んでもらえたよ」
 葉名は一段と楽しそうに言う。


 能登が俺のパンツを下ろす。
「ィヒッ」
俺は変な声を出してしまう。必死で思考を纏めようとする。
「でもっ、そのエミって奴も、豚野郎とかいう奴も、俺知らないんだけど?! 俺は何で今その豚野郎と同じことになってんの?!」
 考えても分からないから聞くしかない。

「直接は関係ないけどさ。まぁ応用で分かるだろ? 人間を人間とも思わない豚野郎さんよ」
 美々の声が俺の耳に刺さる。

「もう良いだろ。さっさと種明かしして始めよう。もう出てきて良いぞ。」
 葉名は部屋の片隅の方に呼びかける。


 すると、作業台の1つから見慣れた顔が出てくる。
 俺は振り返ってその名を呼ぶ。
「辺見……」

 薄暗闇の中で辺見の白い顔が浮かび上がって見える。いつも教室で見るような、何を考えているか分からない顔をしている。


「辺見くん、準備は整ったよ。これでOKかい?」
 能登が俺のケツを叩きながら言う。
 辺見は黙って頷く。


「辺見……何で……」
 体が熱くなってくる。
 辺見にこんな姿を見られるのがものすごく恥ずかしい……他の誰に見られるよりも。


「最初は俺らのうっかりミスだったんだ」
 辺見の代わりに葉名が説明する。
「豚野郎に復讐して良い気になっていた俺らは、放課後に教室でその話をしていたんだ。誰もいないと思っていたんだけど、辺見くんがいてね」

 あはは、と美々は笑う。
「存在感なさすぎて気づかなかったんだよなぁ……それで変な空気になって、何となく『辺見くんも復讐したい人がいたらいつでも言って』って声を掛けたんだ」

「冗談半分だったんだけど、辺見くん『いる』って即答して、みんな驚いたんだよなぁ。しかも、それが木津だったからさらに驚いた」
 能登は言う。

「木津……正直、俺らはお前と付き合いたくないと思っていたし、避けたことも何度もあったけど、付き合い辛いだけで根は悪いやつではないと思っていたよ。でも、辺見の話を聞いて考えが変わった」
 俺の首にナイフを突きつけるような声で葉名は言う。
「お前、おばあちゃんの世話を辺見に押し付けて、貰ったお金は独り占めしてるらしいじゃねぇか。辺見は嫌がっているのに、お前は脅して働かせて……辺見は疲れ切っているじゃないか。どこまで卑劣なんだよ、お前は」

「違う……」
 俺は否定する。

 間違ってはいない部分もあるが、辺見は最初から嫌がっていなかった。
 俺の誘いに「良いよ」って言った笑顔を俺は確かに覚えている。
 それからも、辺見が嫌だと意思表示したことは一度もない。

 でも、辺見は葉名たちには違うことを伝えたらしい。


「何が違うんだよ。辺見が嘘をついているとでも言うのか?
 美々が責める口調で言う。
「辺見……何で?」

 ヒョロリとした木のような辺見は、俺の問いかけに何も答えず、俺と目も合わせない。

「もう良いじゃないか。サッサと終わらせて楽になろうぜ」
 能登が俺の尻を掴む。

「やめろ……」
 本能的な恐怖に俺は震える。

「木津。見苦しいぞ。腹を決めて、罰を受けろ」
 美々は言う。

「悪いことばかりでもないぞ」
 葉名は俺の耳の側で囁く。
「俺らはいつまでも引き摺るタイプじゃない。ここでバシッと罰を受けたら、また前と同じようにお前と友達になれる」

 そう言って、葉名は俺の肩をポンポンと叩いた。
 その顔は嘘のない笑顔だった。



 無理矢理レイプしてきた奴らと友達でい続けることなんてできるのか? と俺はぼんやり思う。
 でも、結局それでも俺は葉名たちと友達でいたい、と思うタイプなのかもしれない。
 


 いつの間にか、俺の体の震えが止まった。

「じゃあ、俺からいきますか」
 能登が自分のズボンのベルトを緩めた。


 ……それから起こったことを説明するのはかなりキツい。


 3人は俺にブツを突っ込み、射精するまで逃さなかった。
 特に最初は酷くて、経験のない俺の入り口が能登を拒み、それでも無理に能登が捩じ込んだせいで粘膜が裂けて出血した。
 能登はその血を竿に擦りつけて潤滑剤のようにしてもう一度突っ込んだ。
 体が真っ二つに裂けるんじゃないかと思うほどの痛みが走った。

 痛みは慣れていったが、どうしようもない嫌悪感が湧き上がり、口の中が苦かった。
 悲しみと屈辱で心がいっぱいになり、泣きたくないのに涙が出た。


 正気を保つための防衛本能なのか、俺は絶えず声にならない声を上げ、それを聞くことで俺は自分がここにいることを確認した。

「あああっ……ああっ……あっ……」
「初めてのクセして感じてるのか? 結構イケるクチなんだな」
 美々が俺の中で動きながら言ったが、全く感じてなどいなかった。
 苦しみと違和感しかなかった。



 でも、俺の頭の片隅に、甘く痺れる部分がある。


(辺見……)


 振り返って辺見の顔を見る。

 その顔は相変わらず気持ちの読み取れない無表情だ。
 視線は真っ直ぐに俺を見ている。


(辺見……)


 ものすごく恥ずかしい姿を見られているという羞恥心で指先まで満たされていく。
 でも、なぜか嫌だとは思わない。


(辺見は俺のこの醜い姿を見て何を思っているんだろうか?)


(辺見は嬉しいのか? 怒っているのか?)


(辺見の気持ちが知りたい…)


 不快な感覚に何度も現実に引き戻されながら、俺は辺見のことを考えてしまう。



 ……俺は3人から解放された。

 3人はスッキリした、晴れやかな顔で辺見を見る。
「お先ー」
「どうぞー」
「辺見くんでも性欲くらいあるよね?」

 3人は口々に辺見を誘う。

 辺見は顔色を変えずに早口で言う。
「ごめん。みんなに見られながらするのは恥ずかしくてできないよ……みんな帰ってもらえるかな?」

 その言葉の不遜な響きに3人は気分を害する。

「自分は俺らを見物しといてそれかよ」
 美々は不機嫌さを隠さずに言う。

「ごめん……でも、本当に無理……」
 弱々しい声で辺見は言う。

「つまんねえヤツ。ぼっちと付き合うのは本当につまんねえな」
 能登も辺見を責める口調で言う。

「お礼はするよ……」
 辺見は俯く。

「俺らもまあまあ楽しんだから良いじゃん。辺見も、俺らのことは気にせず楽しんでくれよ。」
 葉名は明るく言う。

 あとの2人もこれ以上ここにいても良いことがないことを悟ったのだろう。
 あっさりと3人は去っていった。



 俺は無防備に剥かれた体のまま、辺見の前に差し出さる形になる。

 辺見は俺の背中を撫でながら言う。
「木津くん」

 振り返ると、辺見は笑っていた。
 昨日、おばあちゃん家のキッチンで見せた微笑みと同じ笑い方だった。


 瞬間、俺はなぜか「嬉しい」と思った。
 なぜか「これは良いことだ」と思った。


 体は痛くてボロボロで、また辺見としなくてはいけないと思うとすごく怖かった。
 しかし、そんなことを打ち消す感情が俺を包んでいく。


 それは、今までに感じたことのない安心感だった……
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