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第1章
7.脱出①
しおりを挟む二週間ほど経った、土曜日の夕方。
将大はベッドに一人横たわっていた。
さっきの客はΩオメガの男だったな…と将大は思い返す。
「αアルファの癖に抱かれて悦ぶんだ?変態だね。今から俺ので何回イけるか数えよう。イく毎にピンを見えるところに刺したげる」
どっちが変態なんだか分からないことを言われた。
結局八回もイったから、乳首やお腹や太ももなんかに八本のマチ針を刺された。
容赦なく深く、貫通して刺された。
合計十六個の穴が体に開いた。
マチ針を抜いたら、小さな玉の形に血が吹き出た。
αの体を好きなようにできる、というだけで暴力的になるβやΩの男たち…
日頃αに嫌な思いをさせられている仕返しなんだろうか?
「αに生まれただけで勝ち組だ」という声もよく聞いた。
生まれながらに幸不幸が決まっている世界なんだろうか、ここは…
将大はため息をつく。
そろそろ次の客が来るだろう、と将大は思う。
十分休んだはずなのに、体がだるい。
媚薬打たれたから元気になるはずなのに、やりたいと思わない。
ずっと寝ていたい …
土曜日の夜が一番客が来るから、こんなことではいけないのに、力が出ない。
瞼が降りていく…
「どうぞ。お楽しみください」
案内係の声がして、扉が開いた。
「あれ?泣いてるの?」
ふざけつつも温かい声。
二週間前にも聞いた声。
将大が目を開けると…
モノトーンの服が似合う、長身で手足の長い体。
自然な感じに整えた黒髪。
細い目だが鼻筋の通った、品の良い顔立ち。
人懐っこい笑顔。
「遥可…」
「俺のこと恋しくて泣いてたの?」
「そんなわけない」
「将大、立って」
将大はベッドから降りる。
「スピード勝負だからね」
遥可は、手早く鞄の中のものを出す。
シートをベッドの上に敷き、怪しげなものをその上に出して弄る。
将大に背を向けているので、よく見えない。
やがて…
ものすごい煙が上がる。
火災報知器のけたたましい音が鳴る。
「逃げよう」
遥可は将大に自分の着ていたコートを着せて手を引く。
走ることなんて全然していなかった将大は、少しよろけながら引っ張られていく。
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