堕ちたαの罪と愛

おはぎのあんこ

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第1章

8.脱出②

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 非常ベルが、鳴り続けている。
 遥可と将大は、入り組んだ廊下を走る。


 案内係の男と出会う。
「火事ですか?」
 男は遥可に聞く。
「ああ、そんな感じ。ちょっと悪ふざけしちゃった。あんた達も逃げた方が良いよ」

「分かりました。でも、その前に…"それ"をこちらに渡してください」
 男は将大を指差して言う。
 将大は不安げに遥可の方を見る。

「あんたさあ…"それ"じゃなくて、名前があるんだよ、人間なんだから。誰のものとかなくて、自分の意思で逃げられるんだ」
 遥可はそう言って、男に強い眼差しを向ける。

「…仕方ありませんね」
 男はスマホをポケットから出して、誰かと通話する。
 すぐに、大柄の男が数人やってくる。
「返していただきます」
 男たちは将大の腕を掴んで連れて行こうとする。
「やめて…」
 将大は怯えている…

「待てよ、そいつは俺たちと一緒にここを出るんだ」
 別の数人の男たちがやって来る。
 その男たちは、連れて行こうとする男たちから将大を解放しようとする。

「なんなんだ、お前らは?」
「俺らは遥可の友達だよ」

 体格的には不利に思われたが、腕力は遥可の友達の方があったらしい。
 将大を奪い返し、走って逃げる。

「こっちだ!」

 複雑に廊下や階段が組み合わさった建物の中を、自分の縄張りのように駆け抜けていく。
 外に出る。
 消防車が来たところのようで、人だかりができている。

「こっちこっち!」
 遥可の別の友達が車を用意してくれていた。
 それに遥可と将大は乗り込む。
「俺の突拍子もない計画に協力してくれてありがとな。またお礼するよ」
 遥可が外にいる友達に言う。
「ありがとう…」
 将大も小さな声で礼を言う。

「あっという間だったな」
 流れる景色を見ながら遥可が言う。
「最初聞いたときは驚いたよ。いくら遥可とはいえ、あのZを敵に闘うなんて…」
 運転している松浦という男が言う。

 遥可は笑って言う。
「どうしたら良いか悩んだよ…将大に会う前に、長い廊下を通る。そこにはドアがいくつもあって、他の男や女が客を取っている…それを思い出して、気づいたんだ。そこに俺の友達を送り込んだら、助けてもらえるって」

「最初に火事を起こしたの?」
 将大が聞く。
「あれは、発煙筒。煙は出るけど、炎は出ないよ」
「そうなんだ…」

「下調べに友達を何回かZにやって、色々調べてもらった。中で道に迷ったら意味ないから…将大のところにも来たはず」
「えー!分からなかった…すごく優しいお客さんがいたから、その人かな…」
 遥可の友達に抱かれたのが恥ずかしい、と将大は赤面する。

「信じられないな」
 運転席の松浦が言う。
「何が?」
 遥可が聞く。
「後ろにいる将大くん?が遥可の友達を刺したんだろ?とてもそんな奴には見えないよ」

 しばらくの沈黙の後に、将大が口を開く。
「…どうして俺なんかのためにここまでしてくれたの?」
「スパイダーマンならそうすると思ったから」
 遥可は即答する。

「え?」
 将大は困惑する。
「俺さ、中学まで生まれも育ちもニューヨークなんだよね。だから、スパイダーマンはガキの頃からの憧れの存在なの。もし、スパイダーマン…ピーター・パーカーでも良いけど…が俺と同じ状況になったら、絶対助けに行くよな、って思ったんだ」
「そうなんだ…」
「ほんと遥可って面白いよな。なんか器がでかいというか」
 松浦が笑う。

 日が暮れる前に、大学に通う遥可のために遥可の親が借りているマンションに着いた。

 遥可と将大はマンションの中に入る。
 広いエントランスホールを抜けて、専用エレベーターで部屋まで行く。
 ドアを開けて入ると、遥可1人の部屋とは思えない程広く、綺麗に整えられた部屋…


「とりあえずシャワー浴びる?お前に合いそうな服出しとくわ」
「うん…」

 将大は玄関先に立って 遥可を見つめる。

「…何?」
「ほんと…ありがとうね。助けてくれて、本当に嬉しかった」
 本当に嬉しそうに将大は遥可を見て言う。
「良いんだよ。俺が勝手にやったことだから」
 そっけなく遥可は返す。


 シャワーを浴びて、将大はタオルで髪を拭いて出てくる。
「着替え用意しといたよ」
 遥可が服を渡す。
 着替えて将大は思わず呟く。
「服着たのすごい久しぶり…」

「あ、首輪…」
 遥可は将大の首輪を引っ張ってみる。
 頑丈な黒い革の首輪には鍵がかけられている。
「鍵がないから、なんとかして外さないと。ホムセン行ってカッターでも買うかな…」
「急がないから良いよ…」
「でも、親御さんが見たらショック受けるでしょ。将大はαなのに、こんなΩみたいなのしてたら」
「そのことなんだけどさ…」
 
 将大は床に膝をついて頭を下げる。
「しばらく俺をここに置いて欲しい。俺の親には知られないようにして…ごめん、助けてもらっただけでも十分過ぎるのに、勝手なお願いだけど…お願い!!」
 遥可はびっくりする。
「えっ?親御さん心配してないの?」

 頭を上げた将大は哀しげに笑う。
「心配なんかしてないよ。俺をあの店にやって性玩具に堕としたのは、俺の父親なんだから」


 将大は今まで自分の身に起きたことを遥可に話し始めた…
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