堕ちたαの罪と愛

おはぎのあんこ

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第2章

15.証の夜①

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 龍我は約1カ月入院した後、退院した。

 退院はしたものの、傷の痛みが中々引かないので、長く家で休んでいた。


 そんな中、龍我の両親があるパーティーに出席することになった。
「帰りは朝になるから一晩1人になるよ。理斗くんに来てもらったら?」という両親の提案で、理斗は龍我の家を訪れることになった。
 もちろん、入院していたときに理斗はお見舞いに行ったし、退院してからも会いには行っていた。
 でも、家で2人きりになるのは事件以来初めてだった。


 夕食に宅配のピザとアイスクリームを食べた。
 その後、アメコミが原作の映画をソファに座って2人で見る。

「こんな風に過ごすの本当に久しぶりだね」
 理斗が言う。
「そうだな」

 お互い何か言おうとしたけど、余計な一言にしかならない気がして、口をつぐむ。
 代わりに、どちらからともなく手を繋ぐ。

 理斗は泣き出してしまう。
「まだ泣くシーンじゃないだろ」
 龍我が言う。
「だって、龍我が生きてるから…!ここに龍我が生きてるって実感できるから、嬉しくて…」
 テレビに顔を向けたまま、涙が流れるに任せる理斗を見て、龍我の胸も熱くなる。


 映画は思ったより大作で、なかなか終わらない。
 最近睡眠不足だった龍我は途中で寝てしまう。


 …腹の傷がビリッと痛む。
 混沌とした意識の中で、龍我は目を開けようとする。

「龍我…こんなに痛々しい傷がまだ残っているんだね…」

 理斗の声がする。テレビの音はしない。

「刺されたとき、痛かったよね。怖かったよね…いっぱい苦しんだよね…」

 理斗の思いつめたような声に、龍我は目を開けるのをやめる。

  「本当は、俺が刺されるはずだったんだ…俺は高須将大に刺したくなるほど憎まれていた。だから、俺が刺されるべきだった。なのに、龍我が刺された…」

 理斗が涙声になる。

「龍我にはいつも助けられてるのに、あんな時でさえも俺は助けられてしまった。俺がトロかったから…!俺は医大生なのに、俺は助けるどころか助けられて、何もできずにパニックになってた…俺は本当にダメだね…」

 理斗は龍我の髪を撫でる。

「ねぇ龍我?医大に合格したとき、みんな褒めてくれたんだ。『県内有数の進学校である我が校でも、医大に現役合格したΩは鈴川だけだ』って…笑っちゃうでしょ?龍我がいなかったら、俺はΩの自分に負けてたよ。龍我がいたから、俺はΩであることで起こるトラブルから自分を守ることができたんだ」

 理斗はTシャツをめくって龍我の腹の傷を指でなぞる。
 ビリビリとした痛みで龍我は声を出しそうになるけど、我慢する。

「俺はαの龍我に守られ、助けられてばかりのダメなΩだから…せめて、俺の体にも傷をつけて欲しい…うなじを噛んで、俺を番にして、永遠に消えない傷を刻んで欲しい…」


 理斗が腹の傷を舌を使ってピチャピチャと舐める。
 さすがに龍我は大声を出して起き上がる。

「うああああっ!!!」

 理斗はハッとした顔で龍我を見る。

「ごめん、龍我。俺どうかしてた…まだ傷が痛むのに、俺サイテーなことした。本当ごめん」
「理斗…」


 床にぺたんと腿をつけて座っている理斗を龍我は抱きしめる。

「理斗、考え直せ。俺なんかで本当に良いのか?」
「『俺なんか?』」
 不思議そうに理斗が聞く。

「一度番になったら、一生取り消すことはできない。理斗はΩの中でも選ばれた人間…αの俺よりもずっと賢いんだ。これから先、もっと理斗に相応しい人に出会えるかもしれない。本当に番になりたいと思える、番になるべき優秀なαに出会えるかもしれない…」

「そんなのどうだって良い!」
 理斗は強い口調で言う。

「俺はそんな未来なんかいらない!そんな幸せなんか欲しくない…俺は龍我がいないと生きていけないから。龍我に相応しいΩになりたい…身も心も龍我のモノになりたい。その証が欲しい…」

 理斗は自分のうなじを撫でる。

「たとえいつか龍我が他のΩと番になって俺を捨てたとしても、俺は龍我のことを恨まないし、後悔しない。ずっと俺は龍我のモノだから。他のαでは癒されない発情に苦しむことで、そのことが実感できるのなら、きっと俺は幸せだから…」

 理斗の迫力に押されて呆然としている龍我の頬を撫でて理斗は言う。

「俺を龍我のΩにして?」


 そして…
 龍我のαが目覚めていく。

 発情期ではないはずなのに、理斗からフェロモンが出ているように龍我は感じる。


 理斗の潤んだ目。
 紅く色づいた唇。
 細く艶めかしい身体。

 …もう全部食べてしまいたい。

「ごめん、我慢できない」
 龍我は理斗を押し倒した。


 本能が止められなくて、理斗を逃したくなくて…
 動けないように、ガッチリ手足を押さえつける。

 理斗は全く抵抗せず、濡れた瞳で龍我を見る。

「龍我になら何されても良い」
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