マトリョシカ

アジャバ

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MARIHUANA

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 静が憂鬱に飲み込まれた日々、あの時期に彼女の身に何が起こったのか、私には最早知る術は無い。

 私は、高橋や伊藤との交流の中で静の話が挙がる度に体をびくつかせずにはいられなかった。そうして浮き立つ心を抑えながら、当たり障りのない相槌を打つのに終始する。さもなくば、再び静に取り憑かれてしまうに違いなかった。高橋の話から知れたのは、相変わらず静に良い噂が立たぬ事、何人もの男が彼女の犠牲になった事。そして、彼女が今もなお、いや、それ以上に益々美しい事。

 私は、静を思う。

 フィリピン男は、Marihuanaから一度で足を洗ったらしいが、私は、もう駄目であろう。私は、本当に馬鹿だ。ふとした瞬間に静の事を思い出して、もう何を失っても構わない、とまで思い詰めてしまう。もう再会する事のない、私の青春のすべてを奪っていった美しき悪魔。私は、今にも耐え切れずに彼女の本当の名前を叫ぶだろう。しかし、もし、それによって、私が狂人と化してしまっても、きっと、私は幸福であるに違いない。
 
 差し出されたコーヒーを拒んだ、賢明なる老人よ! 貴方は、不幸者である。私は、ウェルテルの出会った、あの狂人の様に、狂う事を良しとして受け入れよう。一度、最高のecstasyを知ってしまった者は、進んで狂うのが好いだろう。そうすれば、いつまでも、ecstasyの中に身を置くことができる。それは、傍目には不幸であろうが、私には関係の無い話である。
 
 今、私はこの物語を書き終え、日常へと帰る。退屈なる循環の中に帰らざるを得ない。であれば、私は、私の愛した悪魔の名を叫んでみるとしよう。害毒なるMarihuanaを、喜んで、再び吸い込もう。彼女の名前は。

End
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