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天気があまり良かったものだから、僕は散歩に出かけた。
真上から太陽が「帽子を被った方が好い」と注意をしてきたから、「それら君が少しだけ後ろに下がれば好いじゃないか」と言ってやった。
海辺を歩いていると、向こうから釣り人が歩いて来た。
「どうだい今日は釣れた?」僕が聞くと釣り人は苦い顔をした。
「いいや、からっきし駄目なんだ。最近、奴らも知恵を付けやがったから。」
「そうなんだ。まあ、お魚たちも釣られっぱなしじゃ居られないからね。」
そう言って僕は思わず笑みを漏らした。昨日の事だ。僕が小さな手漕ぎボートに寝ころんで空を眺めていると、海からこんな会話が聞こえて来た。
「まったく、こうも夕飯に針が付いていると、やりにくくって仕方がない!」
「昨日は、誰が釣られたんだ?」
「ああ、可哀そうに!あの子は結婚したばかりだろう。」
「ひどい事だ。」
「よし、では、こうしよう」海で一番賢い魚が切り出した。「上から虫が落ちて来たら、先ずこう聞くんだ。『恐れ入りますが、背中に痛みはありませんか?』って。それから食べると好い。」
「それは名案だ。」
「それが好い。そうしよう!」
この様子であれば、今日、魚たちは必死になって問い続けたらしい。釣り人が首を傾げるのを見て、魚たちはどれほど愉快だったろう。
「何がおかしい?」釣り人はむっとして言った。
「魚たちも色々考えるさ、食われる身だもの。」
「俺も食わなきゃ死ぬ身だぜ。」
「僕らはもっと生きる工夫をするべきなんだよ、きっと。」
「何だか説教臭いな。」
「じゃあ、ついでにもう一つだけ言うね。君はエサを工夫すべきだ。閉口令を引いたりしてね。」
「どういう事だ?」釣り人にはピンとこないようだった。
「自分で考えなきゃ。」そう言って、僕は楽しそうにその場を去った。魚たちと釣り人の駆け引きをずっと見守っていたい。そう思った。
ー☆ー
夜、空が騒がしかった。まるで、ファンデーションの粉が散るように、雪がひらひらと舞い降りて来る。見上げると月がおめかししていた。僕は、羊たちが口々に噂し合う声を聞いた。
「きっと、デートだわ。」
「でも、誰と?」
「きっと、太陽のやつさ。」
「それはないよ、今頃彼はブラジルにいるんだから。」
「それじゃあ、誰だろう?」
羊たちが何時までもやかましく言い合うので、僕は、少しだけ静かにしてくれるように言った。それでも彼らはなかなか静まってはくれない。羊はとてもおしゃべりで、噂が好きなんだ。僕は、辺りを見回して何とか牧羊犬を探そうとしてみた。―が、そう上手く事は運ばない。
「今夜の君は、とても綺麗だね。」僕は月に向けてそう言った。
月は僕に微笑んで、その円い頭に飾り付けた一番星を僕の方へ泳がせた。僕はそれを受け取ると、しばらく手の中で転がして、やがてポケットにしまい込んだ。
「ありがとう。」僕は言った。
「いいえ、こちらこそ。」月は言った。
翌朝、淹れたコーヒーがあまりに苦かったので、月にもらった一番星を少しだけ砕いて入れた。とても甘くて、温かくて、朝だというのに眠くなってしまった。夢との境界で、僕は「金平糖って、こんなだったかな」なんて考えていた。
真上から太陽が「帽子を被った方が好い」と注意をしてきたから、「それら君が少しだけ後ろに下がれば好いじゃないか」と言ってやった。
海辺を歩いていると、向こうから釣り人が歩いて来た。
「どうだい今日は釣れた?」僕が聞くと釣り人は苦い顔をした。
「いいや、からっきし駄目なんだ。最近、奴らも知恵を付けやがったから。」
「そうなんだ。まあ、お魚たちも釣られっぱなしじゃ居られないからね。」
そう言って僕は思わず笑みを漏らした。昨日の事だ。僕が小さな手漕ぎボートに寝ころんで空を眺めていると、海からこんな会話が聞こえて来た。
「まったく、こうも夕飯に針が付いていると、やりにくくって仕方がない!」
「昨日は、誰が釣られたんだ?」
「ああ、可哀そうに!あの子は結婚したばかりだろう。」
「ひどい事だ。」
「よし、では、こうしよう」海で一番賢い魚が切り出した。「上から虫が落ちて来たら、先ずこう聞くんだ。『恐れ入りますが、背中に痛みはありませんか?』って。それから食べると好い。」
「それは名案だ。」
「それが好い。そうしよう!」
この様子であれば、今日、魚たちは必死になって問い続けたらしい。釣り人が首を傾げるのを見て、魚たちはどれほど愉快だったろう。
「何がおかしい?」釣り人はむっとして言った。
「魚たちも色々考えるさ、食われる身だもの。」
「俺も食わなきゃ死ぬ身だぜ。」
「僕らはもっと生きる工夫をするべきなんだよ、きっと。」
「何だか説教臭いな。」
「じゃあ、ついでにもう一つだけ言うね。君はエサを工夫すべきだ。閉口令を引いたりしてね。」
「どういう事だ?」釣り人にはピンとこないようだった。
「自分で考えなきゃ。」そう言って、僕は楽しそうにその場を去った。魚たちと釣り人の駆け引きをずっと見守っていたい。そう思った。
ー☆ー
夜、空が騒がしかった。まるで、ファンデーションの粉が散るように、雪がひらひらと舞い降りて来る。見上げると月がおめかししていた。僕は、羊たちが口々に噂し合う声を聞いた。
「きっと、デートだわ。」
「でも、誰と?」
「きっと、太陽のやつさ。」
「それはないよ、今頃彼はブラジルにいるんだから。」
「それじゃあ、誰だろう?」
羊たちが何時までもやかましく言い合うので、僕は、少しだけ静かにしてくれるように言った。それでも彼らはなかなか静まってはくれない。羊はとてもおしゃべりで、噂が好きなんだ。僕は、辺りを見回して何とか牧羊犬を探そうとしてみた。―が、そう上手く事は運ばない。
「今夜の君は、とても綺麗だね。」僕は月に向けてそう言った。
月は僕に微笑んで、その円い頭に飾り付けた一番星を僕の方へ泳がせた。僕はそれを受け取ると、しばらく手の中で転がして、やがてポケットにしまい込んだ。
「ありがとう。」僕は言った。
「いいえ、こちらこそ。」月は言った。
翌朝、淹れたコーヒーがあまりに苦かったので、月にもらった一番星を少しだけ砕いて入れた。とても甘くて、温かくて、朝だというのに眠くなってしまった。夢との境界で、僕は「金平糖って、こんなだったかな」なんて考えていた。
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