オーバー・ドーズ・ファンタジア!

アジャバ

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フランケンシュタイン『作られたものの恋』

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 翌日、アリスとチクタク、そしてパーシーの三人が訪問すると、アガルはすぐにその扉を開けた。まるで、今日は来訪者に備えていたかのように。彼は、弱々しくも友好的な笑顔を見せた。

 「どうかしましたか?」アガルは言った。
 「R・キャロル探偵事務所のアリスと言います。お聞きしたいことがありまして。」アリスはそう言うと室内にちらりと視線をやって、「入っても?」と聞いた。
 「ええ、勿論。勿論ですとも!」彼は平然を装って言ったが、その語尾の微かな震えをチクタクは見逃さなかった。

 室内は閑散としていた。彼が、ピグマリオン・コンプレックスそのものであると言うのであれば、人形やぬいぐるみの一つでもあっていいものである。しかし、見渡す限りにそうしたものは置かれていなかった。アガルは、三人をソファへ案内した。

 「ところで?」アガルは聞いた。不自然な自信が見え隠れする。
 「突然すみません。昨日も訪問したのですが・・・」
 「え、そうだったんですか!」声がひっくり返った。「どうも留守にしていたようで・・・」

 アガルは何かを隠している。チクタクは無言のままにそう結論付けた。間違いなくアリスも気が付いているだろう。不自然なまでに閑散とした部屋の床には薄っすらと埃が覆っていたが、所々、円形に埃の無い箇所があった。これは、つい最近まで何かが置かれていたことを物語っている。

 「とてもシンプルなご自宅ですね。生活感が無いというか。」アリスは言った。
 「ええ、趣味という趣味もないもので。」必死に頭を巡らせるようにアガルは答えた。

 「アガルさん、単刀直入ですがこの女性に覚えはありませんか?」アリスに促されてパーシーが写真を見せた。アガルはそれを見て一瞬身をすくめた。それからすぐに気が付いたように、いいえ、とだけ答えた。

 「行方不明なんです。」瞬きせずにアリスは言った。
 「それは、何と言ったらいいか・・・」目を逸らして言った。

 「この方、パーシーさんの伴侶だった人なんです。」アリスがそう言うのを聞くと、アガルは一瞬だけアリスを見て、それからパーシーの方を見た。チクタクは、その表情にどこか優越感が昇るのを見た。
 「そうですか。それはご愁傷様です。」アガルは言った。

 「二十年来付き合って来た彼女だそうです。」アリスは言った。
 「・・・」

 「本当に愛し合っていらっしゃって、どうにか見つけたいのです。」
 「・・・」

 「何かご存知ではありませんか?」
 「・・・」

 「アガルさん、何がそんなに可笑しいんでしょうか。」アリスは言った。
 「え、まさかそんなはずはありません。」驚いたようにアガルは言った。

 「あなたさっきから…ずっと笑ってますよ?」アリスは言った。

 「・・・ははっ!」アガルは笑い始めた。それは徐々に、やがて大きな高笑いになった。両手で顔を覆って必死に抑えようとしながら、それでも抑えきれないようにけたたましく笑う。

 「・・・あなたですね?」アリスは言った。
 「はい、そうです。」大したことではないというように平然と言った。パーシーは頭に血を登らせて立ち上がると、アガルの胸倉を掴もうとした。
 「パーシーさん!」チクタクがそれを制する。

 「”パラフィリア”・・・それも三重のパラフィリア。そうですね?」
 「・・・僕は、無力です。」アガルは言った。
 「無力?」
 「いえ、は無力なんですよ。これは個性であって長所にも特殊能力にもならない。言わば、呪いのようなものでしょう。生まれた時から僕らは縛られていて逃れられない。抑えられない衝動がです。・・・悲劇的でありませんか。」

 「どうして居留守を使ったり、嘘を付いたりするんですか。」チクタクは聞いた。
 「当然じゃないですか!嘘を覚えないと、僕みたいなやつは生きていけない。嘘を付かずにこの衝動を放てばいいんですか。冗談じゃない。」

 「メアリーはどこだ?」息を荒げてパーシーは聞いた。
 「好きに連れて帰って下さい、この奥にいますから。」アガルは奥の部屋を指差した。

 パーシーは大股でそちらへ歩くと、勢いよくその扉を開けた。中には・・・数多の機械人形があった。六畳ほどの部屋に積み重なるようにして詰め込まれている。パーシーは掻き分けるようにしてメアリーを探した。

 「窃盗ですか?それとも誘拐?」笑いながらアガルは尋ねる。
 「です。」チクタクは被せるように言うとパーシーを追い駆けて奥の部屋へ向かった。

 「同行をお願います。」アリスは言った。
 「抵抗はしません。僕らに武力は無い。非力な種族なのですから。」
 「・・・」

 「一つだけ言わせて下さい。」アガルは言った。
 「はい。」
 「僕らは神様に設計された通りに動いただけなのです。人間の三大欲求が食欲・性欲・睡眠欲であるように、人間がその欲求を抑えられないように、僕らもシステムされた欲求に抗えないだけなのです。これは罪でしょうか。持ち合わせた欲求が、偶然にもルールを逸脱してしまうものだっただけで、僕らは裁かれるのです。ええ、わかっています。僕のしたことは罪です。ただ・・・このやり切れない気持ちを聞いて欲しかっただけです。」
 「・・・」アリスは何も言えなかった。
 「探偵さん、僕を連れて行って下さい。」アガルは静かに笑った。

 「アガル・マトフィリア。」アリスは言った。
 「そうです。僕は、人形性愛者です。」何でもないように言った。

 「クレプトフィリア。」アリスは言った。
 「そうです。僕は、窃盗性愛者です。」眉をひそめて言った。

 「コキュフィリア」アリスは言った。
 「ええ、そうです。僕は・・・」アガルは涙を流した。

 「メアリー、メアリー!」パーシーの号哭が聞えた。アリスは急いでそちらへ向かった。
 「メアリーさんが・・・動かないんだ。」チクタクが震えながら言った。見ると、パーシーの腕の中でぐったりと力なく横たわる女性の姿があった。メアリーはぴくりとも動かない。
 「アガルさん!」アリスは血の気が引いた顔をして振り向いた。
 「僕じゃない・・・」アガルは言った。

 ―機械人形はもって十五年が限界。
 アリスとチクタクは顔を見合わせる。
 
 「急いで!」アリスは言った。「ウーダンさんのところに!」
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