出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です

はんぺん千代丸

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第四章 佐村家だらけの死亡遊戯

第55.75話 佐村龍哉の暗躍

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 佐村龍哉は、自宅で昨年放映されたインタビューを見返している。
 ホームシアターの大画面に、女子アナウンサーの笑顔がアップで映っている。

『佐村さん一家の休日の過ごし方は、どんな感じなんですか?』
『僕達はですねぇ~、いつも一緒なんですよ。この家でね、色んなことを話したり、買い物に行ったり、遊びに行ったり、まぁ、色々ですね~』
『えー、本当にいつもご一緒なんですねぇ! 今どき珍しいのでは?』

 自然な調子で驚く女子アナに、応じたのは龍哉の隣に座る妻の春乃だ。

『珍しいのかもしれませんね。でも、珍しいってなってる方が寂しいと思うんです、私。やっぱり、家族は一緒に過ごすのが自然なんじゃないかな、って。夫と結婚して、子供が生まれてから、強くそう感じるようになったんです』

 そう語る春乃の顔は、本当にそれっぽい表情で、とても作り笑顔とは思えない。
 だからこそ、この女を妻に選んだ。人前に出ることに慣れ切ってる、この春乃を。

『鷹弥君はどうかなー? お休みの日にお父さんとお母さんと一緒って、どう?』

 女子アナウンサーが、間抜けなこと質問する。
 何だその『どう?』は。台本にもあった通りだが、アバウトすぎて返答に困る。
 だが、当時小学三年生の息子の鷹弥たかやは、それにしっかり答えた。

『僕は、パパとママと一緒で嬉しいです。二人が仲良くしてるのが大好きです』
『うわぁ~、何ていい子なんでしょう! すごい!』

 女子アナウンサーが感嘆の声をあげるが、鷹弥は自分の指示通りに演じただけだ。
 小学校に上がる前から、鷹弥には演技の指導をし続けている。

 全ては、こうした外への露出のときに佐村家の円満を演出するため。
 家族の仲は良好で、最高の父と最高の母に恵まれた、最高の息子。鷹弥の役だ。

 そう、役だ。
 自分が演じるのは最高の父という役。春乃は最高の母という役。
 そうして電波に乗って画面に映る佐村家は、さぞかし理想の家族に見えるだろう。

 そうでなければ困る。
 自分の家族は理想の家族。自分は理想の父親。
 その評判こそが、次の仕事に、次の儲けに、次の人脈開拓に繋がる。

 佐村龍哉には座右の銘がある。
 それは自分が作った造語でしかないが――、『きんは金でなくともよい』。

 金塊は、表面だけ輝いていれば、中身まで黄金である必要はない。
 メッキでいい。表面さえ煌びやかなら、人はそれを重宝し、重用し、持て囃す。
 それが、今年で三十三歳になる佐村龍哉の人生訓であった。

 事実、このインタビューの放送後、仕事が溢れるほどに舞い込んできた。
 その影響は、放映から一年過ぎた今でも続いている。
 世の中、とかく美談と醜聞は優れた消費コンテンツなのである。

「ま、そのためのインタビューだったしねぇ~」

 ソファに背を預け、龍哉は笑う。
 インタビュー現場は自分の『自宅』。白と茶色を基調とした立派な一軒家だ。
 作りたてのセットのように汚れが少なく、生活感が感じられない。

 自分で演出しておきながら不思議でならないのが、この辺りだ。
 他の芸能関係のお宅訪問企画でもままあることだが、生活感が薄すぎる家が多い。

 まさか、本当にそんな場所に暮らしてるとでも思っているのだろうか。
 芸能人は私生活まで綺麗好きで、掃除も完璧で、汚れなどあるはずがない、と。

 そんなバカなことがあるものか。
 実際はテレビに出た家に住んでいないか、もしくは使っていないだけだ。
 使っていないというのは、仕事が忙しすぎて、家にほとんどいないということ。

 龍哉も、このインタビューのときはわざわざ新築の一戸建てを借りた。
 そこを自宅として紹介し、インタビューの会場に使った。全ては演出のために。

 では、今、このインタビュー映像を見ているのはどこか。
 もちろん自宅だ。会場として借りた都内の一軒家ではなく、天月市の自宅。
 辺りにゴミ袋が積み上げられた、生活感あふれる、忌むべき自分の家であった。

「…………」

 戸が開いて、春乃が入ってくる。
 下着姿で、髪は乱れたまま。化粧もしていなくてすっぴんで、目にクマがある。
 画面に映っている凛々しく美しい姿とは、それこそ天と地の差だ。

 春乃は、挨拶をしなかった。
 龍哉もまた、春乃に見向きもしなかった。

 息子の鷹弥は今日は学校から帰って部屋から出てきていない。
 どうせまたゲームをしているのだろう。だがそれでいい。相手をするのも面倒だ。
 と、そこまで考えて、思い出した。

「来月、また家族参加のイベントに出る。台本を取り寄せておくぞ」
「そ。わかったわ」

「鷹弥にも言っておいてくれ。台本はあとで渡す」
「わかったわ」

 素っ気ない切り出し、素っ気ない応答。
 そこに夫婦の情はなく、あるのは淡々とした仕事に関する情報のやり取りのみ。

 春乃を妻として愛したことはない。
 ただ、彼女が自分の妻という役割に一番ふさわしいから選んだだけだ。
 彼女が浮気していようがどうでもいい。興味もない。

 息子の鷹弥も含め、龍哉の家族は仕事の同僚でしかない。
 妻は妻ではなく妻という役を演じているだけ。息子も同様。自分も同じ。
 それで生活が成り立っているのだから、このままが一番いいに決まっている。

 春乃もそれを理解しているから、離婚を言い出さずにいるのだ。
 仲が冷めきっているも何も、最初から、この家族に愛情な存在していなかった。
 生きるため、食べていくため、人脈を広げるためのメッキに過ぎない。

「ああ、だから、何としても手に入れなきゃなぁ、美芙柚ちゃん……」

 インタビューが終わり、消えた画面を前に、龍哉は呟く。
 佐村美芙柚。両親を痛ましい事故で失い、孤独の身になった哀れな少女。

 この間まで話題になっていた彼女を引き取れれば、間違いなく大きな話題になる。
 孤独の少女に救いの手を差し伸べた愛情深き男、佐村龍哉。

 素晴らしい話だ。とてつもない美談だ。
 マスコミに任せれば、放っておいても派手に飾ってくれそうだ。

 もちろん、その装飾の中には遺産関連の悪評も混じるだろう。
 だが、龍哉にとって佐村勲の遺産は、むしろ敬遠したいシロモノだった。

 龍哉が欲しいのは称賛だ。自分に対する美辞麗句だ。
 程々の大金は羨望を生みだすが、過ぎた大金は嫉妬と反発の元にしかならない。
 だから、もし美芙柚を引き取ったら、遺産は全て寄付するつもりだった。

 それを美談に仕立て上げて、また自分を中心とした話題を演出するのもいい。
 口さがない輩は金で人気を買ったとでもいうのだろうが、その通りだ。
 そうした多くの実績と、それに伴う名声が、社会における自分の地位を保証する。

 世論とは、世間とは、輝けるメッキをこそ重宝する。
 そこに中身は必要ない。ただ表だけ輝かせれば、それで勝手に憧れてくれる。

 だから、佐村龍哉には佐村美芙柚がどうしても必要だった。
 これまでにない輝きを放つメッキを、自分に上塗りしてくれるだろうから。
 そのためにも――、

「……さて」

 龍哉がスマホを手にして、どこかに電話をかける。
 コールは三度、相手が出た。

「もしもし、守谷亭さん? 俺よ、俺。龍哉ですよ~。あのね、ちょっとお話しが」

 朗らかな声で龍哉は話す。
 その後ろを通り過ぎる春乃に気づくこともないまま。

 ――佐村龍哉の家族は、メッキの下で今日もまた腐り爛れていた。
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