出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です

はんぺん千代丸

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第四章 佐村家だらけの死亡遊戯

第58話 殴っていいと言われたらそりゃ殴る

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 ほとんど土下座に近い様子で、佐村夢莉は謝り続けた。

「ごめんなさい、ごめんなさい! ……私、知らなかった。まさか兄が、佐村勲が、自分の娘にそんなことをするゲスだったなんて、知らなかったの、ごめんなさい!」

 膝をつき、深くこうべを垂れさせて、彼女は謝り続けている。
 その謝罪は、言い訳ではない。保身のためでもない。本当に心からの謝罪だった。

「美芙柚ちゃんにとって、金鐘崎君がどれだけ大事な人かも、全然理解していなかった。子供だからって、ちゃんと見ようとしなかった。ごめんなさい、本当に……」

 声を震わせて詫び続けるその姿に、俺は感じる。
 ああ、この人はまだまともだ。俺達が見てきた中では、だいぶマシな大人だ。

 頭が硬い部分もあるし、独善的でもある。
 でも、自分の非を認めて、子供が相手でもきちんと本気で謝れる人だ。

 ちゃんと反省をしてくれる。
 それだけでも、他と比べればかなり違うように思えた。
 俺はチラリとミフユの方を流し見る。

 無言、無表情。
 その顔つきから読み取れるものはあるが、どうするか――、とか思ってたら、

「美芙柚ちゃん、私を殴って!」

 頭を伏せたまま、佐村夢莉がそんなことを言い出した。

「お嬢さん!?」
「いいのよ、高市。これは私が受けなきゃいけない罰なのよ」

 気色ばむケンゴを抑え、夢莉は強い意志をもって言い放つ。
 言い出したら聞かない性格ってヤツはこれだから……。俺は知らんからなー。

「夢莉叔母様、本当に、殴っていいんですね?」
「ええ、いいわ。あなたを傷つけた私は、罰を受けなきゃいけないのよ。だから!」

 と、決意と共に顔をあげた夢莉が見たものは――、

「じゃあ、遠慮なく」

 部屋にあったデケェ金庫を触手で高々持ち上げてる、NULLの姿だった。

「やめ――」
「ハイハ~イ、ケンゴあっそぼ~ぜ~!」

 止めに入ろうとするケンゴを、タマキが横からインターセプト。邪魔はさせんよ。
 そして、金庫を見上げる夢莉が、NULLの前に立つミフユに言う。

「あの、美芙柚ちゃん……」
「何かしら、叔母様」
「そんなモノで殴られたら、さすがに私、死んじゃうん、だけど……?」

 ミフユは、顔に満面の笑みを浮かべた。

「うん、死ね」

 ゴシャッ。


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 夢莉が跳ね起きた。

「……はっ!!?」

 ベッドに寝かせられていた彼女は、身を起こすなりこっちに気づく。

「あ、叔母様、おはようございま~す」

 モッチャモッチャとピザを食いながら、ミフユが軽く手を振った。
 俺とタマキは残る一つのを巡ってジャンケン勝負を繰り広げ、ケンゴはベッド脇。

「お嬢さん、気がつかれましたか」
「た、高市……、私、生きて……?」

 自分が生きている事実が信じられないのか、夢莉は自分の手をまじまじ見つめる。
 だが、しっかり生きている。ばっちり生命活動続行中である。

「私、金庫で殴られて、それで……」
「どんな夢見てるんですか、叔母様。殴りはしたけど、それで気絶したんでしょ」
「そう、なの……?」

 夢莉が、答えを求めるような目でケンゴを見る。
 ボディガードはいかつい顔のまま、一度コクリと首肯しただけ。

「そう、か。そうよね」

 自分の護衛の反応を見て、夢莉はようやく納得がいったようだった。

「そんな、金庫で殴り殺すなんて、そんなことあるワケないわよね……」

 いや、金庫で殴り殺したよ。
 ミフユが、夢莉を、金庫の角で頭グシャッと殴って、一撃即死だったよ。

 そりゃあねぇ、ミフユ切れさせておいて、殴るだけで終わるかって話ですよ。
 仕返しはきっちりしないと、ね。それはそれってヤツですわ。

 ケンゴがそれを黙ってるのは、すでに両者間で話がついているからだ。
 護衛対象を守れず死なせたケンゴに、俺はこう囁いた。

 ――夢莉を蘇生すれば、死なせた事実も消えてなくなるぞ。あとはおまえがそれを黙ってさえいれば、俺達も夢莉を殺したことは本人に伝えずにおくけど、どうする?

 ってな。
 結果、ケンゴは乗ってきた。取り引きは無事に成立したのだ。

 俺達は、ミフユがケジメをつけられてWIN!
 ケンゴも、護衛対象を守れなかった事実をもみ消すことができてWIN!

 まさにWIN-WINってヤツだ。
 いやぁ、やっぱり取り戻せる命って安いし軽いし容易いよなー!
 あ、ちなみに『異階化』は、もう解いてあります。

「はぁ……」

 顔に手を当てて、夢莉が陰鬱なため息をつく。

「美芙柚ちゃん、聞いて」
「何です?」
「私は、あなたの後見人候補から降りるわ。弁護士さんにも、そう伝えておきます」

 おっと、何やら変な流れになってきたぞ?

「兄の遺した一人娘のあなたを、放っておけないと思ったの。私なら、あなたのこともわかってあげられる。力になれるって思ってた。でも、思い上がりだったわね」
「夢莉叔母様……」

「自分でも、思い込みの激しい性格なのはわかってるつもりなんだけど、やっぱりダメね。身近な相手ほど視野狭窄になっちゃうみたい。ごめんなさいね、これまで」
「いえ、そこさえわかってもらえれば、わたしはいいんですけど」

 ミフユも容赦ねぇな……。
 一回殺して仕返しも済ませた相手なのに、全く遠慮しないぞ、こいつ。

「とりあえず、お腹すきませんか? まだパスタが少し残ってますよ」
「そうね。確かに少し空腹だわ。御馳走になろうかしら」

 夢莉が力なく笑ってベッドを降り、激闘の末に俺がジャンケンで勝ったとき。
 外から、何やらバリバリとけたたましい音が聞こえてきた。

 タマキと、一瞬遅れてケンゴが壁の一角を占める大窓へと目をやる。
 直後に感じたのは、悪寒。戦慄。背筋が凍える。
 俺も窓に目を走らせる。だがそのとき、すでに銃口はこちらに向けられていた。

 窓の外に、ヘリコプター。
 そして、開け放たれたヘリのドアの奥に、自動小銃を構える何者かの姿。

「伏せ――」

 叫ぶより早く、銃口から火が瞬く。
 発射された弾丸は、厚手のガラス窓を容易く粉砕し、部屋の中へと殺到する。
 止まらない銃声が耳をつんざき、部屋の中をいいように壊していく。

 散る火花。
 壊れる家具。
 砕ける音と立ちこめる煙。

「弾切れか。オイ、出せ。ひくぞ!」

 小銃を撃った男の声がして、制止していたヘリが動き始めようとする。
 ベッドを盾にして身を低くくしてた俺は立ち上がって、部屋の中を確認した。

「大丈夫か!?」

 夢莉は、ケンゴが身を挺して庇っていた。
 タマキも特に目立った外傷はない。だが――、

「おとしゃん、おかしゃんが!」
「……ミフユ?」

 ミフユが、床に倒れていた。
 死んでない。生きてる。だが、絨毯にジワリと赤いものが広がるのが見えた。

「大丈夫よ、この程度」

 と、強がるも、痛みに顔をしかめる。
 その姿を見た瞬間、俺の理性は即座に消し飛んで、俺は、ヘリの方を振り向いた。

「……殺す」

 右手に鉈、左手に斧。
 俺は全力で駆け出して、ブチ破られた窓からヘリに向かって思い切り跳んだ。

「な……!?」

 それを見ていた小銃の持ち主が、驚きの声をあげる。
 ああ、知るか、知るか知るか知るか知るか。殺す。殺す殺す殺す殺す。殺す!

 跳躍時に飛翔の魔法。
 そのまま、ヘリの中へと突撃して、金属符を叩きつける。
 ヘリの内部がこれで『異階化』を果たす。

「な、何だこのガキ……ッ!」
「うるさい、死ね」

 俺は鉈を叩きつけて、自動小銃を半ばから叩き折った。
 そして、狭い空間の中にマガツラを実体化させるが、ダメだ、抑えきれない。

 マガツラの像がほどけて、黒い炎となって俺の周りに渦を巻く。
 激情のままに、憤怒のままに、俺はそれを受け入れて異能態カリュブディスへと変質する。

「――『兇貌刹羅マガツラ・セツラ』」

 呟いて、小銃を失った目の前の射撃手の顔面を掴んで、白い炎を噴出する。

「ぎ、ぃ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」

 狭い空間に響き渡る、断末魔の絶叫。
 だが、亡却の炎に存在を根底から焼き尽くされ、男はやがて硝子の像になる。
 ガシャン、と、俺は男の顔面を握り潰し、存在を抹消した。

「一人」

 ヘリの中には、今の射撃手を含めて三人。残るは二人。

「うああ、うぁ、あああああああああああああああああああああああああああ!」

 二人目が、恐怖に駆られて俺に銃を連射する。
 だが弾丸は俺に届く前に白い炎に焼かれ、銃撃という事実自体が抹消される。

「ひ、ひぃ! ……ひぃぃぃぃぃいぃぃ!」
「おまえも消えろよ。この世界から」

 泣き喚く二人目の首を掴んで、白炎で焼却する。
 それは数秒もかからず、二人目も硝子の像となったあと、砕け散って消えた。

 金属符がカタカタと揺れている。
 空間にも亀裂が入り始め、『異階化』が俺の力に耐えきれず崩壊し始める。

「二人。残りはおまえだ」

 俺はそんなことは意に介さず、残った操縦手へと近づいて、手を伸ばそうとする。

「う、っぁ、あああああああ、さ、佐村だ! 俺達の依頼人は、佐村甚太ってヤツだぁ! 俺達はあいつに頼まれてやっただけなんだァァァァァ――――ッ!」
「――そうか。知ったことかよ」

 泣きながら自白する操縦手の後ろ頭を掴んで、俺はそのまま力を行使する。
 そして、数秒後には『異階』が崩壊。現実空間へと帰還する。

 そこに、ヘリはなかった。自動小銃で破られたガラス窓も健在だった。
 俺の炎に存在を焼かれ、部屋への襲撃自体が『なかったこと』になったからだ。
 窓の向こうで、タマキと無傷のミフユが不思議そうな顔で俺を眺めていた。

 だが、俺は覚えている。
 ホテルを襲って、ミフユを傷つけた連中の依頼人の名を。

「……佐村、甚太」

 次の仕返しのターゲットが、決まった。
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