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第四章 佐村家だらけの死亡遊戯
第60話 佐村甚太の脱落:後
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狩っていく。
狩っていく。
目につく端から、獲物を順繰り狩っていく。
「アハハハハハハハハハァ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
笑って、鉈を振るって、目の前の人間のカタチを、歪めて潰して壊していく。
血が溢れる。
肉が断たれる。
骨が砕けて。
人が死んでいく。
悲鳴。悲鳴。絶叫。絶叫。嘆き。嘆き。どうして。何で。なぜこんなことを。
もちろん、仕返しだからだ。
俺と、ここにいる人間の間には何もない。
面識もない。
興味もない。
恨みもないし。
罪なんてあるはずがない。
仮に罪があるのだとしても、俺はそれを認知していない。
だからここにいる佐村甚太以外の人間は、俺に殺される謂れなど全くない。
――だが、死ね。
ヘリで襲ってきた連中は、夢莉の部屋にいた俺達を巻き込んだのだから。
俺も、この建物にいる人間のほとんどを巻き込んで殺す。
蘇生もしない。
全てが終わったあとは、ゴウモンバエの餌にする。
ここにいるおまえ達もまた『佐村甚太の財産』の一部だから、消す。諸共消す。
裸の女を拝める幸運を噛みしめながら、この場で俺に殺されていけ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
地上一階までを制圧した。
そこにいた人間は、一人残らず鏖殺した。
警備員も、職員も、事務員も、男も女も老いも若きも、問わず、残らず、殺した。
現在は、地上二階へと上がる最中。
階段を昇り切ると、そこには多数の警備員が待ち構えていた。
「いたぞ、あの女だ!」
声がする。
こいつらには、俺の姿が裸の女に見えている。
知覚をあざむく幻影の魔法だ。
「アハハハハハハハハハハハハハハハ……」
「笑ってやがる」
「とっくに壊れてるんだ、ブチ殺せ!」
壊れてる?
俺は正常だよ、確実にな。ただ、楽しいんだ。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
これから『佐村甚太の所有物』であるおまえ達を殺すのが、楽しみなんだよ。
「来るぞ、構え!」
警備員達が、号令のもとに一斉に俺に何かを向ける。
銃、ではない。近い形状をしているが、拳銃とはわずかに違う気がする。
「撃てェ!」
掛け声と共に、軽い音が幾つも重なって俺の体に針のようなものが突き刺さる。
それはごく細いワイヤーで本体に繋がっていて、俺は悟った。これは電撃の――、
「ガッ!?」
全身が、強烈な電撃に焼かれる。衝撃に意識がくらんだ。
「おお、効いたぞ! よし、あとは警棒で制圧――」
「全快全癒」
だが、傷は消える。
電撃によるダメージも、綺麗さっぱりなくなる。
「アハッ、ハハッ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
「え、もう復帰し……」
遅いぜ、俺はもう、間合いを詰めた。
鉈が、空を裂いてブゥンと重く音を立てる。その刃が、警備員の首を捉えた。
肉の潰れる感触は、もはや慣れ切って何とも思わない。
だが、首を飛ばせたのはなかなか気持ちがよかった。力の入れ方がよかったか。
「ひっ!」
と、他の警備員達が首をなくした同僚を目の当たりにして息を飲む。
そこにつけ込んで、俺は一つの魔法を発動させた。
「恐慌」
相手に瞬間的に強烈な恐怖を感じさせる魔法だ。
それだけで、警備員達は総崩れになる。
「うわぁ、うわあああああああああ!」
「あ、ぁ、あ……」
その場から逃げ出そうとする者、腰を抜かしてへたり込む者など、反応は様々。
中には、近くにあった窓を開けて、そこから飛び降りた者もいたが、しかし、
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
外から、絶叫が迸った。
バカだねぇ。誰も逃がさないよう、敷地内にはゴウモンバエを大量召喚済みさ。
庭に逃げたって、ハエにたかられて餌になって終わりだ。
佐村甚太だけは俺の手で殺すのでハエには手を出さないよう命令してある。
あいつら、ハエのクセに魔獣だから結構知能が高かったりするのだ。
「さて」
俺は、恐怖に屈して動けずにいる他の警備員達を見据える。
解体を始めよう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
地上三階。
ここに、佐村甚太がいる。
ここはワンフロア丸々、甚太の仕事部屋になっている。
何なんだろうね、上流階級の人間は。ワンフロア丸々っていうのが嗜みなのかね。
階段を上がりきって、部屋に出る。
すると、そこには警備員とは違う黒スーツの男達がいた。SPか。
「き、来たぞ、殺せ! あの女を、殺せ!」
聞き覚えのあるだみ声。
男たちの向こう側に、樽みたいなだらしない体型をした佐村甚太の姿があった。
「見つけましたよ、旦那様ぁぁぁ~……?」
揶揄するように、粘り気のある声で甚太を呼ぶ。
すると彼はその顔を嫌悪と恐怖に歪め、自分を守るSPに怒鳴り散らした。
「殺せェ、あの女に思い知らせてやれ!」
SPが一斉に銃を構える。
暴徒制圧用の電撃銃ではない、人を簡単に殺しうる本物の拳銃だ。
「撃ち殺せェ!」
の声と共に、SP達が一斉に銃を発射。
無数の銃声が三階に響き渡り、数多の弾丸が容赦なく俺の身を貫いていく。
「全快全癒」
傷が消える。俺はそのまま前に歩き出す。
銃撃の嵐はさらに続いて、治った体は瞬く間に破壊されていく。
「全快全癒」
傷が消える。俺がさらに前に歩いて甚太に迫る。
銃撃の数が減ってきた。それでも人を殺すには十分。俺の体に風穴が空く。
「全快全癒」
傷が消える。俺はさらにさらに歩いて、SP達も動揺し始める。
銃撃はいよいよ減って、だが俺の急所を的確に穿ち、前進を阻もうとする。
「全快全癒」
傷が消える。そして俺は、SPの前まで到着した。
鉈を振り上げる俺を、SPの男が恐怖に見開いた目で見上げる。
「徒労、お疲れ」
振り下ろした。グチャッ、と肉が潰れる音がした。
頭部の半ばを失ったSPの体が、グラリと傾いでそのまま床に倒れ伏す。
「拘束しろ!」
だが、仲間を失いながらも他のSPが俺を捕らえにかかった。
ここは警備員とは大違い。さすがに練度が高い。称賛したいくらいだよ。でも、
「滑落」
魔法によって、SP達の靴の摩擦を極限まで減らし、その場に転倒させる。
やっぱり、訓練を積んでいても、魔法がない世界じゃこんなモンなんだろうな。
「な、た、立てない……!?」
立とうとしても足が滑り続けて立てずにいるSP達。
もはや、俺にしてみれば狩られるのを待っている獲物にしか映らない。
「佐村甚太に雇われたのが、あんた達の運の尽きだったな」
小さくそう呟いて、俺は鉈で一人一人丁寧に殺して回った。
甚太に、これから訪れる自分の運命を見せつけるように、悟らせるために。
「旦那様ぁ、お待たせしました~。次は旦那様をミンチにする番ですゥ~」
「ひっ、ひぃ、な、何故だ……、何故、どうしてだ!」
わざとらしくしなを作ると、追い詰められた甚太は呼吸を乱しながらそう叫ぶ。
「お、おまえには、十分な金を払っているはずだ! その恩を裏切りおって、この恥知らずめ! 許さん、絶対に許さんぞ! おまえの家族を、は、破滅させて……!」
「長い」
鉈を、甚太の右肩に叩き込んだ。
「ひッ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!?」
ああ、いい悲鳴ですねぇ。高級豚の鳴き声だぁ。響きからして違うぜ。
「だ、誰かァ! 誰かいないかぁ、この女を止めろ、この女を~!」
「旦那様ぁ、私ぃ、旦那様にあんなことやこんなことされちゃってぇ~、心が壊れちゃいましたぁ。だからぁ、旦那様も壊したいなって思うので、壊しますねぇ~♪」
「誰か! 誰かいないのか、金なら払う! だから、誰かワシを助けろォォォォ!」
「無駄ですよぉ~、だってこの建物にいるのはもう、私と旦那様だけですから」
「うわぁ……。あああああああああああああああああああああああ!」
恐怖に耐えきれず、甚太が逃げだした。
俺は、走ったりはせずに一歩一歩、血の足跡を残しながらそれを追っていく。
階段を駆け下りていく音がする。
甚太は、これから俺から逃れるために隠し場所を探すだろう。
だが、それはできない。無理だ。あいつに逃げ場はない。
何故なら、すでに全ての部屋、全ての窓に、魔法による施錠をしてあるからだ。
鍵があってもなくても関係ない。
あいつが逃げ込める部屋は、もうこの屋敷には一つしか残っていない。
ひたり、ひたりと俺は歩いていく。
楽しみながら、笑いながら、愉しみながら、嗤いながら。
「旦那様ぁ~、どこですか~? 何で逃げるんですか~? 旦那様~?」
「ひっ、ひぃいぃぃいぃぃぃぃぃぃいぃい!」
甚太の声は、案外近くから聞こえた。
開かない部屋の扉を開けようと躍起になっていたのだろう。無駄、無駄、無駄。
逃げる甚太の足音が聞こえる。
俺はそれを、歩きながら追っていく。
甚太にとっては、いちいち逃げられない事実を叩きつけられる道行きだろう。
部屋のドアを開けようとしても開かない。そして俺が迫ってくる。
「ああ、ぁぁぁぁ、あ、あああああああああああああああああああああああああ!」
悲鳴が響く。幾度も、幾度も、俺が呼ぶたび、近づくたび。
それが俺の心に鎮座する黒い塊を少しずつ溶かしていく。だが、まだ足りない。
地上二階から一階へ。
地上階から地下階へ。
だが無理、ダメ。どこに逃げようとも、扉は開かず、逃げ場はない。
そしてついに、地下三階。寝室が並ぶ甚太の聖域。
「ひぃっ、ひぃぃ、はぁ、ぜぇ……」
甚太は息を切らせながら、必死に逃げ続けた。う~む、運動不足甚だしい。
そして地下三階にある寝室のドアを一つずつ確認していくが、もちろん施錠済み。
「そんな、そんな、ぁ、ああ、ぁぁぁ、あ……」
甚太の声には、明らかに絶望がにじみ始めていた。
必死だろう。一生懸命だろう。
金があろうとなかろうと、こんなスリルはなかなか味わえまい。
それから、次の寝室。
そこが終着点だ。佐村甚太にとっての、人生の終着点。終わりの場所だ。
「あ、開いた……!」
これまでどこも開かなかったドアがついに開いた。
追い込まれて極限状態に陥った甚太にしてみれば、まさに希望に見えただろうな。
ちょうど、甚太がその寝室に入ったのを確認した俺は、扉の前に立った。
「旦那様ぁ~、どこですか、旦那様ぁ~?」
あえて、扉の近くで声を出す。
すると中から「ひっ、ひぃ!」という高級豚の鳴き声が聞こえてくる。
その反応をしばし楽しんだあとで、俺は唱えた。
「縛れ」
扉の向こうからジャララと金属の擦れる音がする。
「な、何だ、何だァ、これはァ……!?」
甚太が逃げ込んだ寝室は、俺が『隙間風の外套』を置いてきた部屋だ。
外套のポケットには、束縛用の鎖など、幾つかの道具をあらかじめ入れておいた。
「うお、ぉ、動けん……、な、何で……!」
鎖は、佐村勲を束縛したものと同じもの。
つくづく、この一族は同じような末路を辿るんだな。笑うわ。
「……お、おまえは、何でおまえがここに!?」
寝室の中で、甚太の驚く声が聞こえる。
そりゃ、驚くよな。
散々逃げてやっと辿り着いた先で、自分を追ってきた女と遭遇したんだから。
だが、そっちが本物。
そしてその女が、佐村甚太の死神だ。外套には、ダガーも入れておいた。
「何だ、その刃物は……? 何故それをワシに向ける! やめろ、や、やめろ、近づいてくるな! クソッ、クソォ! 動けん、鎖が、クソォォォォォォォ!」
扉の前で、変装の魔法を解いた俺が、耳を澄ませて聞いている。
「やめろ! お、おまえのために、ワシがいくら使ったと……! だからやめろ、やめて、やめてくれ! か、金なら払う、金なら、幾らでも、あ、ぁ、あぁ……」
「さむら、じんた、しね、しね、……しね!」
一拍の、間。
直後、刃が肉を貫く小さな音。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァ――――ッッッ!」
俺は、肩を揺らした。
「ク、ッフフフ。佐村甚太、これがおまえへの応報だ。クハハハハハ、アハハハハ! アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! ヒハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! 恨みは無料で買えるんだぜ、よかったなぁ! ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
俺が腹を抱えて笑っている間にも、扉の向こうでは肉を貫く音が続いていた。
佐村甚太は、こうして己の人生から脱落した。
狩っていく。
目につく端から、獲物を順繰り狩っていく。
「アハハハハハハハハハァ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
笑って、鉈を振るって、目の前の人間のカタチを、歪めて潰して壊していく。
血が溢れる。
肉が断たれる。
骨が砕けて。
人が死んでいく。
悲鳴。悲鳴。絶叫。絶叫。嘆き。嘆き。どうして。何で。なぜこんなことを。
もちろん、仕返しだからだ。
俺と、ここにいる人間の間には何もない。
面識もない。
興味もない。
恨みもないし。
罪なんてあるはずがない。
仮に罪があるのだとしても、俺はそれを認知していない。
だからここにいる佐村甚太以外の人間は、俺に殺される謂れなど全くない。
――だが、死ね。
ヘリで襲ってきた連中は、夢莉の部屋にいた俺達を巻き込んだのだから。
俺も、この建物にいる人間のほとんどを巻き込んで殺す。
蘇生もしない。
全てが終わったあとは、ゴウモンバエの餌にする。
ここにいるおまえ達もまた『佐村甚太の財産』の一部だから、消す。諸共消す。
裸の女を拝める幸運を噛みしめながら、この場で俺に殺されていけ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
地上一階までを制圧した。
そこにいた人間は、一人残らず鏖殺した。
警備員も、職員も、事務員も、男も女も老いも若きも、問わず、残らず、殺した。
現在は、地上二階へと上がる最中。
階段を昇り切ると、そこには多数の警備員が待ち構えていた。
「いたぞ、あの女だ!」
声がする。
こいつらには、俺の姿が裸の女に見えている。
知覚をあざむく幻影の魔法だ。
「アハハハハハハハハハハハハハハハ……」
「笑ってやがる」
「とっくに壊れてるんだ、ブチ殺せ!」
壊れてる?
俺は正常だよ、確実にな。ただ、楽しいんだ。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
これから『佐村甚太の所有物』であるおまえ達を殺すのが、楽しみなんだよ。
「来るぞ、構え!」
警備員達が、号令のもとに一斉に俺に何かを向ける。
銃、ではない。近い形状をしているが、拳銃とはわずかに違う気がする。
「撃てェ!」
掛け声と共に、軽い音が幾つも重なって俺の体に針のようなものが突き刺さる。
それはごく細いワイヤーで本体に繋がっていて、俺は悟った。これは電撃の――、
「ガッ!?」
全身が、強烈な電撃に焼かれる。衝撃に意識がくらんだ。
「おお、効いたぞ! よし、あとは警棒で制圧――」
「全快全癒」
だが、傷は消える。
電撃によるダメージも、綺麗さっぱりなくなる。
「アハッ、ハハッ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
「え、もう復帰し……」
遅いぜ、俺はもう、間合いを詰めた。
鉈が、空を裂いてブゥンと重く音を立てる。その刃が、警備員の首を捉えた。
肉の潰れる感触は、もはや慣れ切って何とも思わない。
だが、首を飛ばせたのはなかなか気持ちがよかった。力の入れ方がよかったか。
「ひっ!」
と、他の警備員達が首をなくした同僚を目の当たりにして息を飲む。
そこにつけ込んで、俺は一つの魔法を発動させた。
「恐慌」
相手に瞬間的に強烈な恐怖を感じさせる魔法だ。
それだけで、警備員達は総崩れになる。
「うわぁ、うわあああああああああ!」
「あ、ぁ、あ……」
その場から逃げ出そうとする者、腰を抜かしてへたり込む者など、反応は様々。
中には、近くにあった窓を開けて、そこから飛び降りた者もいたが、しかし、
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
外から、絶叫が迸った。
バカだねぇ。誰も逃がさないよう、敷地内にはゴウモンバエを大量召喚済みさ。
庭に逃げたって、ハエにたかられて餌になって終わりだ。
佐村甚太だけは俺の手で殺すのでハエには手を出さないよう命令してある。
あいつら、ハエのクセに魔獣だから結構知能が高かったりするのだ。
「さて」
俺は、恐怖に屈して動けずにいる他の警備員達を見据える。
解体を始めよう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
地上三階。
ここに、佐村甚太がいる。
ここはワンフロア丸々、甚太の仕事部屋になっている。
何なんだろうね、上流階級の人間は。ワンフロア丸々っていうのが嗜みなのかね。
階段を上がりきって、部屋に出る。
すると、そこには警備員とは違う黒スーツの男達がいた。SPか。
「き、来たぞ、殺せ! あの女を、殺せ!」
聞き覚えのあるだみ声。
男たちの向こう側に、樽みたいなだらしない体型をした佐村甚太の姿があった。
「見つけましたよ、旦那様ぁぁぁ~……?」
揶揄するように、粘り気のある声で甚太を呼ぶ。
すると彼はその顔を嫌悪と恐怖に歪め、自分を守るSPに怒鳴り散らした。
「殺せェ、あの女に思い知らせてやれ!」
SPが一斉に銃を構える。
暴徒制圧用の電撃銃ではない、人を簡単に殺しうる本物の拳銃だ。
「撃ち殺せェ!」
の声と共に、SP達が一斉に銃を発射。
無数の銃声が三階に響き渡り、数多の弾丸が容赦なく俺の身を貫いていく。
「全快全癒」
傷が消える。俺はそのまま前に歩き出す。
銃撃の嵐はさらに続いて、治った体は瞬く間に破壊されていく。
「全快全癒」
傷が消える。俺がさらに前に歩いて甚太に迫る。
銃撃の数が減ってきた。それでも人を殺すには十分。俺の体に風穴が空く。
「全快全癒」
傷が消える。俺はさらにさらに歩いて、SP達も動揺し始める。
銃撃はいよいよ減って、だが俺の急所を的確に穿ち、前進を阻もうとする。
「全快全癒」
傷が消える。そして俺は、SPの前まで到着した。
鉈を振り上げる俺を、SPの男が恐怖に見開いた目で見上げる。
「徒労、お疲れ」
振り下ろした。グチャッ、と肉が潰れる音がした。
頭部の半ばを失ったSPの体が、グラリと傾いでそのまま床に倒れ伏す。
「拘束しろ!」
だが、仲間を失いながらも他のSPが俺を捕らえにかかった。
ここは警備員とは大違い。さすがに練度が高い。称賛したいくらいだよ。でも、
「滑落」
魔法によって、SP達の靴の摩擦を極限まで減らし、その場に転倒させる。
やっぱり、訓練を積んでいても、魔法がない世界じゃこんなモンなんだろうな。
「な、た、立てない……!?」
立とうとしても足が滑り続けて立てずにいるSP達。
もはや、俺にしてみれば狩られるのを待っている獲物にしか映らない。
「佐村甚太に雇われたのが、あんた達の運の尽きだったな」
小さくそう呟いて、俺は鉈で一人一人丁寧に殺して回った。
甚太に、これから訪れる自分の運命を見せつけるように、悟らせるために。
「旦那様ぁ、お待たせしました~。次は旦那様をミンチにする番ですゥ~」
「ひっ、ひぃ、な、何故だ……、何故、どうしてだ!」
わざとらしくしなを作ると、追い詰められた甚太は呼吸を乱しながらそう叫ぶ。
「お、おまえには、十分な金を払っているはずだ! その恩を裏切りおって、この恥知らずめ! 許さん、絶対に許さんぞ! おまえの家族を、は、破滅させて……!」
「長い」
鉈を、甚太の右肩に叩き込んだ。
「ひッ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!?」
ああ、いい悲鳴ですねぇ。高級豚の鳴き声だぁ。響きからして違うぜ。
「だ、誰かァ! 誰かいないかぁ、この女を止めろ、この女を~!」
「旦那様ぁ、私ぃ、旦那様にあんなことやこんなことされちゃってぇ~、心が壊れちゃいましたぁ。だからぁ、旦那様も壊したいなって思うので、壊しますねぇ~♪」
「誰か! 誰かいないのか、金なら払う! だから、誰かワシを助けろォォォォ!」
「無駄ですよぉ~、だってこの建物にいるのはもう、私と旦那様だけですから」
「うわぁ……。あああああああああああああああああああああああ!」
恐怖に耐えきれず、甚太が逃げだした。
俺は、走ったりはせずに一歩一歩、血の足跡を残しながらそれを追っていく。
階段を駆け下りていく音がする。
甚太は、これから俺から逃れるために隠し場所を探すだろう。
だが、それはできない。無理だ。あいつに逃げ場はない。
何故なら、すでに全ての部屋、全ての窓に、魔法による施錠をしてあるからだ。
鍵があってもなくても関係ない。
あいつが逃げ込める部屋は、もうこの屋敷には一つしか残っていない。
ひたり、ひたりと俺は歩いていく。
楽しみながら、笑いながら、愉しみながら、嗤いながら。
「旦那様ぁ~、どこですか~? 何で逃げるんですか~? 旦那様~?」
「ひっ、ひぃいぃぃいぃぃぃぃぃぃいぃい!」
甚太の声は、案外近くから聞こえた。
開かない部屋の扉を開けようと躍起になっていたのだろう。無駄、無駄、無駄。
逃げる甚太の足音が聞こえる。
俺はそれを、歩きながら追っていく。
甚太にとっては、いちいち逃げられない事実を叩きつけられる道行きだろう。
部屋のドアを開けようとしても開かない。そして俺が迫ってくる。
「ああ、ぁぁぁぁ、あ、あああああああああああああああああああああああああ!」
悲鳴が響く。幾度も、幾度も、俺が呼ぶたび、近づくたび。
それが俺の心に鎮座する黒い塊を少しずつ溶かしていく。だが、まだ足りない。
地上二階から一階へ。
地上階から地下階へ。
だが無理、ダメ。どこに逃げようとも、扉は開かず、逃げ場はない。
そしてついに、地下三階。寝室が並ぶ甚太の聖域。
「ひぃっ、ひぃぃ、はぁ、ぜぇ……」
甚太は息を切らせながら、必死に逃げ続けた。う~む、運動不足甚だしい。
そして地下三階にある寝室のドアを一つずつ確認していくが、もちろん施錠済み。
「そんな、そんな、ぁ、ああ、ぁぁぁ、あ……」
甚太の声には、明らかに絶望がにじみ始めていた。
必死だろう。一生懸命だろう。
金があろうとなかろうと、こんなスリルはなかなか味わえまい。
それから、次の寝室。
そこが終着点だ。佐村甚太にとっての、人生の終着点。終わりの場所だ。
「あ、開いた……!」
これまでどこも開かなかったドアがついに開いた。
追い込まれて極限状態に陥った甚太にしてみれば、まさに希望に見えただろうな。
ちょうど、甚太がその寝室に入ったのを確認した俺は、扉の前に立った。
「旦那様ぁ~、どこですか、旦那様ぁ~?」
あえて、扉の近くで声を出す。
すると中から「ひっ、ひぃ!」という高級豚の鳴き声が聞こえてくる。
その反応をしばし楽しんだあとで、俺は唱えた。
「縛れ」
扉の向こうからジャララと金属の擦れる音がする。
「な、何だ、何だァ、これはァ……!?」
甚太が逃げ込んだ寝室は、俺が『隙間風の外套』を置いてきた部屋だ。
外套のポケットには、束縛用の鎖など、幾つかの道具をあらかじめ入れておいた。
「うお、ぉ、動けん……、な、何で……!」
鎖は、佐村勲を束縛したものと同じもの。
つくづく、この一族は同じような末路を辿るんだな。笑うわ。
「……お、おまえは、何でおまえがここに!?」
寝室の中で、甚太の驚く声が聞こえる。
そりゃ、驚くよな。
散々逃げてやっと辿り着いた先で、自分を追ってきた女と遭遇したんだから。
だが、そっちが本物。
そしてその女が、佐村甚太の死神だ。外套には、ダガーも入れておいた。
「何だ、その刃物は……? 何故それをワシに向ける! やめろ、や、やめろ、近づいてくるな! クソッ、クソォ! 動けん、鎖が、クソォォォォォォォ!」
扉の前で、変装の魔法を解いた俺が、耳を澄ませて聞いている。
「やめろ! お、おまえのために、ワシがいくら使ったと……! だからやめろ、やめて、やめてくれ! か、金なら払う、金なら、幾らでも、あ、ぁ、あぁ……」
「さむら、じんた、しね、しね、……しね!」
一拍の、間。
直後、刃が肉を貫く小さな音。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァ――――ッッッ!」
俺は、肩を揺らした。
「ク、ッフフフ。佐村甚太、これがおまえへの応報だ。クハハハハハ、アハハハハ! アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! ヒハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! 恨みは無料で買えるんだぜ、よかったなぁ! ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
俺が腹を抱えて笑っている間にも、扉の向こうでは肉を貫く音が続いていた。
佐村甚太は、こうして己の人生から脱落した。
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