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幕間 『出戻り』達の平穏ならざる日常
第69話 夏直前だよ、バーンズ家全員集合!
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明日は六月最終日。
そういえば今月はまだ集まってなかったなー、と気づく俺。
ちょっとミフユに相談。
「あ、そーねー、何だかんだ忙しかったし、都合がつく子だけでも呼びましょっか」
ということとなりまして、一応、全員にアポ取り。
「む、問題ありませぬぞ。ひなたも明日は休園日ゆえ」
シンラ、ひなた、OK。
「え~? いつもの~? ちょっと遅れるかもだけど、いいよぉ~」
スダレ、遅刻するとのことだが、OK。
「ああ、定例の。……お嬢来ます? ……来る? う~ん、今回はパスで!」
ケント、パス。珍しいな。つか、タマキと何かあったんか?
「いつものかー、行く行く! え、ケントしゃん来ないの? え~、マジで~!?」
タマキ、OKだけど露骨に不満げ。絶対何かあったよね、これ?
「はい? 宴会? ああ、こっちでもやるんですね。ええと、食べ物出ます? 飲み物は? お酒はないけど父様達の奢り、ですか。なるほど。……行きます!」
シイナ、OK。完全にタカりに来てるの、たくましくて笑うわ。
そんなこんなで、やや急ではあるものの翌日にバーンズ家集合と相成りました。
会場は、ミフユのツテで前回と同じく例のホテルの最上階。
もちろんワンフロア貸し切りさ。
そろそろ、このワンフロア貸し切りとかいうブルジョワにも慣れてきたな……。
――今回も、家族で飲んで騒ぐぞー! お酒はなし! ひなた小さいから!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
当日、ひとまずシンラ、ひなた、タマキ、シイナ、俺とミフユ、集合。
「スダレは二時間ほど遅れるそうなので、そのときにまた乾杯ってことで~」
「了承いたしましたぞ、父上」
「りょーしょーましたぞー」
うなずくシンラに、ひなたが追随する。何かあれね、ほっこりするね。
「うわ、うわ、本当にみんな集まってる。……うわ。うわぁ。うわぁぁぁぁ」
何でおまえは半べそかいてんだよ、シイナ……。
「ケントしゃん……」
そしてこっちはすっかり萎んでるタマキ。
「……ミフユさんや、うちの長女に何かあったのかい。ケントも来ねーし」
「さ~ぁ? ミフユちゃん、わかんな~い」
と、肩をすくめるミフユ。嘘だろ、絶対トボけてるだけだろ、ババア。
「ま、そのときが来たら、ケントかタマキからあんたの方に話が行くわよ」
「何それェ、超気になるんですけど~……」
気になって夜しか眠れない系のアレなんですけど~……。
「いいのよ。家族思いもいいけど、外野が立ち入っちゃいけないコトもあるでしょ」
「……う~ん、まぁ、了解」
ミフユの言うことにも一理あるとは思うので、モヤモヤはするがしばし様子見で。
「さて、それじゃあ今集まれるメンバーは集まったなー。乾杯するぞー」
「父様、お酒はないんですよね? 弱いお酒もないんですよね?」
乾杯直前、そんなことを言い出すシイナ。
「ねーっつってんだろーが! おまえちょっと見ない間に酒飲みになったんか!?」
「いえ、せっかくのタダメシなので、タダ酒も欲しかっただけです」
「酒飲みかどうかはともかく厚かましくなったのは理解したわ」
「私、バーンズ家で随一の庶民派感覚の持ち主なので! バーンズ家で随一の!」
それは誇ることでもないし自慢することでもない件。
「…………ま。いいか。じゃあグラス持てー、乾杯するぞー」
「なので、こんなホテルの高いお部屋に来て膝が笑っています。大ダメージです!」
「うるせぇ、いいから乾杯すんだよ、庶民派ァ!」
付き合ってたらいつまで経っても乾杯できねぇ! こうなりゃもう強行だッ!
「はい、それじゃあ! カンパァ――――イッ!」
「「かんぱーい!」」
カチンカチンと、グラスとグラスが重なる音が幾つもして、宴会開始。
っつっても、思い思いに飲んで食って話すだけど、決まった進行なんぞ別にない。
シンラとシイナが話している。
「シイナよ、おまえとこうして再び巡り合えたこと、兄は心より嬉しく思うぞ」
「は、はい。あの。シンラ兄様も、お変わりないようで……、エヘヘ」
「うむ、余と決して視線を合わせようとしないその態度、実に懐かしきこと」
「胃が痛いんですよぅ、皇帝陛下とお話しするとか、胃がキリキリするんですぅ~」
「ハハハハ、おかしなヤツめ。こちらにおいては余はただのサラリーマンであるぞ」
「じゃあ『余』とか言わないくださいよ~! 態度が皇帝なんですよ、兄様!」
うん、それは俺も思う。
そういえば、シンラとお袋、今どうなってるんだろう。
あとでそれとなく確認しておくかなー。
「う~、ケントしゃん……」
「ちょっと都合がつかなかっただけでしょ、いつまでもしょげてんじゃないの」
こっちでは、未だショボンなままのタマキに、ミフユがはっぱをかけに行ってる。
「だってさ~、おかしゃん」
「せっかくの集まりなんだから、シャキッとしなさい。あんた、一番上なんだから」
「う~……、うん!」
と、タマキが顔をブルンブルン振って、
「そうだな、よし! オレ、バーンズ家の一番おねーちゃんだモンな!」
「そうよ、その調子よ。ほら、みんなとお話してきなさい」
「は~い!」
こういうときの切り替えの早さは、やっぱタマキだなーって感じる俺である。
「ねぇねぇ~」
と、俺の背中を誰かがポンポンと叩いてくる。
振り返ると、何か大きな紙を持ったひなたが俺のコトを見上げていた。
「お、どうした、ひなた?」
「これ見て~」
と、見せてきたのは画用紙で、そこにはクレヨンで何かグシャグシャ描いてある。
「おとうさんだよー! 幼稚園で描いたのー!」
「おお、これシンラかー、いいじゃん。上手く描けてるじゃねぇか」
「でしょ~!」
エヘン、と自慢げに胸を張るひなた。
もちろん、画用紙に描かれてるのはかろうじて人の顔とわかる感じの絵。
だが、その下に下手な文字で『おとうさん』と書いてあるのが結構ポイント高い。
「いかがです父上。ひなたが、余のために描いてくれたのです。余のために!」
「出たなバカ親バカ。よりによって俺に父親マウントか、この野郎……」
ひなたの後ろで、同じように胸を張ってふんぞり返るシンラがクソムカつく。
「おまえよー、お袋とはどうなん? 最近、その話、聞かないじゃん?」
「うむ、それなのですが、いやはや美沙子殿はなかなかに難敵でありまするな」
「ん? どゆことよ?」
「余がその件について話そうとすると、見事にかわしてゆかれるのです!」
「ああ、なるほど。お袋の『重要な話に参加しないスキル』は凄まじいからな……」
「まこと、難攻不落と呼ぶにふさわしい。されど、余は諦めませぬぞ」
「ひなたには母親が必要だモンなー」
「然り。今のところ、美沙子殿が最有力候補ゆえ余は攻めの手を緩めませぬ」
今のところ、か。
じゃあ、他の有力候補が現れたらそっちに移ったりするんだろうか。
あー、移るかもしれんなー。
シンラは皇帝だから、情よりも理と利を優先する。何よりひなた第一だし。
う~ん、けど、まぁ別にいいか。
お袋に俺が力を貸す理由なんてねぇし。生かしてやってるだけで十分だろ。
「むむむ、このサンドイッチ、美味しいですね。母様、これどこのお店のものですか? ……えっ、あそこの通りにそんなお店が。ちょっと調べますね。……うわ、高ッ、でも店長さんカッコいい! 独身でしょうか? あ、妻子持ちだ。ちぇ~」
……シイナが何やら一人百面相をしておるなぁ。
あいつ、今年で二十六だっけ。
アラサーってヤツ、になるのかな。今の様子を見るに、彼氏いないんだろうな。
異世界でもその辺をずっと気にしてたモンな。
最終的に結婚できたけど、それもお見合い結婚だったし……。
「ああああああ~、このお肉、おいひぃ……。超おいひぃ……。お、お酒、チューハイが欲しくなります。いや、これなら日本酒、ビールもありでしょうか……!」
――次から少しは酒も用意した方がいいんだろうか。ミフユと相談しよう。
「そういえばよー、おまえらって、今はどんな生活してるん?」
これは、ふと気になった俺からの質問。
異世界では家族だった俺達も、こっちでは赤の他人なワケで、気になるよね。
知ってどうなるってものでもないが、宴会での余興だわな。
――まずは、シンラ。
「余につきましては御存じでありましょう。市内の商社に務めておりまする。こちらでの両親は健在ではありまするが、ほぼ没交渉にて。いわゆる長男教の毒親でした」
長男教ってのは、親が長男を最優先する家族を指す言葉だな。
シンラは確か、次男だったんだっけな。扱いに格差があったんだろうなー。
「大学に進む折、こちらの大学を選びまして、それを機に家を出たのでございます」
「ございますー!」
自分の真似をするひなたを、シンラが優しく撫でた。
――続いて、タマキ。
「オレは両親はいないなー。二年前に事故で死んじゃった。俺もそのとき『出戻り』したんだけどさ。あと俺、こっちじゃクォーターなんだ。父方のじいちゃんがブラジル人なんだってさ。会ったことないけど。こっちに来るまでは母方のじいちゃんとばあちゃんと住んでたぜー。マガコーに進んだときに一人暮らし始めたんだ!」
女子高生の一人暮らしとか、それだけ聞くと色々危なく思えるが、タマキである。
こいつの馬力をどうにかできる人類とか、微塵も想像できねーや。
――次に、シイナ。
「普通の家に生まれて、普通ややオタ寄りに育って、普通に高校を出て、普通に短大を出て、普通に就職しようと思ったら大きな病気やっちゃって『出戻り』して、占い師になりました。……占い師って、普通ですよね? 普通、です、よね?」
あ、うん。……普通、かなぁ?
シイナはきっと、バーンズ家を反面教師にして育っちゃったんだろうなー。
本当、やたら『普通』であることにこだわってるし。
だが、自称『庶民』のこいつを、俺は普通と思ったことは一度もない。
何なら、個性豊かなバーンズ家の中でも、指折りどころか随一の個性派まである。
こいつのとびっきりの特異性に頼ることも、この先、あるだろう。
――最後に、俺とミフユ。
「俺達は、語るまでもないかなー。今はただの小学生やってるし」
「そうよねー。どこにでもいる小学生やってるわよねー」
「「ない。それはない」」
ウチの長女と長男が、ものすごい真顔で声を揃えて否定してくる。
あ~ん? どういう意味だよ、そりゃあよ~!
「こぉんにちはぁ~! きたよ~ん!」
「こんにちは、お邪魔させてもらいますね」
と、そこに新たな参加者登場。スダレと――、え、誰?
「あらスダレ、来たのね。……って、そちらの男性はどなた?」
お土産代わりらしきお菓子と飲み物を持ってきたスダレの隣に、男が立っている。
何というか、妙にスダレと印象がかぶる、眼鏡をかけた若い男だ。
よれよれのスーツに、銀縁の眼鏡。
人のよさそうな柔和な印象の顔はシンラほどではないが、随分と整っている。
男は、俺達に向かってせわしなくペコペコと頭を下げてくる。
「八重垣簾の夫の八重垣淳と申します」
「「旦那さんだァァァァァァァ――――ッ!」」
途端に盛り上がるミフユとタマキ。うっさいわ、おまえら……。
「えええええええ、スダレ姉様、既婚者? 既婚者!? き・こ・ん・しゃ!!?」
シイナはシイナで魂の叫びを響かせておるわ……。
「あ~、おシイちゃんだ~! 久しぶりぃ~、懐かしいねぇ~!」
「ええ~い、寄るな寄るなです! 既婚者は敵! 既婚者は、私の敵ですッ!」
「うにゅ~? ノンアルコールビール買ってきたけど、飲む~?」
「飲みます、ただちに休戦協定を結びましょう! 恒久的平和の実現です!」
はっや、やっす。
おまえは本当にそれでいいのか、シイナ……。
「あはは、賑やかですね」
「あ~、え~と……」
朗らかに笑う淳に、さて、俺はどう接したモンかと頭を悩ませる。
スダレの旦那さんかぁ。それも驚いたけど、俺らの関係性は何と説明したモンか。
「ああ、大丈夫ですよ、アキラさん」
考えあぐねていたところに、淳がそう言ってきてくれる。
「実は、僕も『出戻り』なので、皆さんの事情についてもスダレから聞いています」
「え、そーなの?」
それなら話が早いんだけど、夫婦揃って『出戻り』か。珍しい。
俺とミフユは、あっちでは夫婦だけどこっちじゃまだ同級生でしかないしな。
「いやぁ、僕も伝説の『バーンズ家』にお会いできるなんて、思ってませんでした」
「ん? 伝説の……?」
「はい。僕が生きていた時代は、皆さんの時代より三百年ほどあとなんです」
なぬ、そんなこともあるんか!?
「改めて自己紹介を。僕は八重垣淳。あっちでの名をジュン・ライプニッツ。『探究者にして探検家』なんて呼ばれたこともある、しがない学者だった者です」
そう言って、ジュンは俺に向かってまた頭を下げてきたのだった。
腰、低いなぁ……。
そういえば今月はまだ集まってなかったなー、と気づく俺。
ちょっとミフユに相談。
「あ、そーねー、何だかんだ忙しかったし、都合がつく子だけでも呼びましょっか」
ということとなりまして、一応、全員にアポ取り。
「む、問題ありませぬぞ。ひなたも明日は休園日ゆえ」
シンラ、ひなた、OK。
「え~? いつもの~? ちょっと遅れるかもだけど、いいよぉ~」
スダレ、遅刻するとのことだが、OK。
「ああ、定例の。……お嬢来ます? ……来る? う~ん、今回はパスで!」
ケント、パス。珍しいな。つか、タマキと何かあったんか?
「いつものかー、行く行く! え、ケントしゃん来ないの? え~、マジで~!?」
タマキ、OKだけど露骨に不満げ。絶対何かあったよね、これ?
「はい? 宴会? ああ、こっちでもやるんですね。ええと、食べ物出ます? 飲み物は? お酒はないけど父様達の奢り、ですか。なるほど。……行きます!」
シイナ、OK。完全にタカりに来てるの、たくましくて笑うわ。
そんなこんなで、やや急ではあるものの翌日にバーンズ家集合と相成りました。
会場は、ミフユのツテで前回と同じく例のホテルの最上階。
もちろんワンフロア貸し切りさ。
そろそろ、このワンフロア貸し切りとかいうブルジョワにも慣れてきたな……。
――今回も、家族で飲んで騒ぐぞー! お酒はなし! ひなた小さいから!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
当日、ひとまずシンラ、ひなた、タマキ、シイナ、俺とミフユ、集合。
「スダレは二時間ほど遅れるそうなので、そのときにまた乾杯ってことで~」
「了承いたしましたぞ、父上」
「りょーしょーましたぞー」
うなずくシンラに、ひなたが追随する。何かあれね、ほっこりするね。
「うわ、うわ、本当にみんな集まってる。……うわ。うわぁ。うわぁぁぁぁ」
何でおまえは半べそかいてんだよ、シイナ……。
「ケントしゃん……」
そしてこっちはすっかり萎んでるタマキ。
「……ミフユさんや、うちの長女に何かあったのかい。ケントも来ねーし」
「さ~ぁ? ミフユちゃん、わかんな~い」
と、肩をすくめるミフユ。嘘だろ、絶対トボけてるだけだろ、ババア。
「ま、そのときが来たら、ケントかタマキからあんたの方に話が行くわよ」
「何それェ、超気になるんですけど~……」
気になって夜しか眠れない系のアレなんですけど~……。
「いいのよ。家族思いもいいけど、外野が立ち入っちゃいけないコトもあるでしょ」
「……う~ん、まぁ、了解」
ミフユの言うことにも一理あるとは思うので、モヤモヤはするがしばし様子見で。
「さて、それじゃあ今集まれるメンバーは集まったなー。乾杯するぞー」
「父様、お酒はないんですよね? 弱いお酒もないんですよね?」
乾杯直前、そんなことを言い出すシイナ。
「ねーっつってんだろーが! おまえちょっと見ない間に酒飲みになったんか!?」
「いえ、せっかくのタダメシなので、タダ酒も欲しかっただけです」
「酒飲みかどうかはともかく厚かましくなったのは理解したわ」
「私、バーンズ家で随一の庶民派感覚の持ち主なので! バーンズ家で随一の!」
それは誇ることでもないし自慢することでもない件。
「…………ま。いいか。じゃあグラス持てー、乾杯するぞー」
「なので、こんなホテルの高いお部屋に来て膝が笑っています。大ダメージです!」
「うるせぇ、いいから乾杯すんだよ、庶民派ァ!」
付き合ってたらいつまで経っても乾杯できねぇ! こうなりゃもう強行だッ!
「はい、それじゃあ! カンパァ――――イッ!」
「「かんぱーい!」」
カチンカチンと、グラスとグラスが重なる音が幾つもして、宴会開始。
っつっても、思い思いに飲んで食って話すだけど、決まった進行なんぞ別にない。
シンラとシイナが話している。
「シイナよ、おまえとこうして再び巡り合えたこと、兄は心より嬉しく思うぞ」
「は、はい。あの。シンラ兄様も、お変わりないようで……、エヘヘ」
「うむ、余と決して視線を合わせようとしないその態度、実に懐かしきこと」
「胃が痛いんですよぅ、皇帝陛下とお話しするとか、胃がキリキリするんですぅ~」
「ハハハハ、おかしなヤツめ。こちらにおいては余はただのサラリーマンであるぞ」
「じゃあ『余』とか言わないくださいよ~! 態度が皇帝なんですよ、兄様!」
うん、それは俺も思う。
そういえば、シンラとお袋、今どうなってるんだろう。
あとでそれとなく確認しておくかなー。
「う~、ケントしゃん……」
「ちょっと都合がつかなかっただけでしょ、いつまでもしょげてんじゃないの」
こっちでは、未だショボンなままのタマキに、ミフユがはっぱをかけに行ってる。
「だってさ~、おかしゃん」
「せっかくの集まりなんだから、シャキッとしなさい。あんた、一番上なんだから」
「う~……、うん!」
と、タマキが顔をブルンブルン振って、
「そうだな、よし! オレ、バーンズ家の一番おねーちゃんだモンな!」
「そうよ、その調子よ。ほら、みんなとお話してきなさい」
「は~い!」
こういうときの切り替えの早さは、やっぱタマキだなーって感じる俺である。
「ねぇねぇ~」
と、俺の背中を誰かがポンポンと叩いてくる。
振り返ると、何か大きな紙を持ったひなたが俺のコトを見上げていた。
「お、どうした、ひなた?」
「これ見て~」
と、見せてきたのは画用紙で、そこにはクレヨンで何かグシャグシャ描いてある。
「おとうさんだよー! 幼稚園で描いたのー!」
「おお、これシンラかー、いいじゃん。上手く描けてるじゃねぇか」
「でしょ~!」
エヘン、と自慢げに胸を張るひなた。
もちろん、画用紙に描かれてるのはかろうじて人の顔とわかる感じの絵。
だが、その下に下手な文字で『おとうさん』と書いてあるのが結構ポイント高い。
「いかがです父上。ひなたが、余のために描いてくれたのです。余のために!」
「出たなバカ親バカ。よりによって俺に父親マウントか、この野郎……」
ひなたの後ろで、同じように胸を張ってふんぞり返るシンラがクソムカつく。
「おまえよー、お袋とはどうなん? 最近、その話、聞かないじゃん?」
「うむ、それなのですが、いやはや美沙子殿はなかなかに難敵でありまするな」
「ん? どゆことよ?」
「余がその件について話そうとすると、見事にかわしてゆかれるのです!」
「ああ、なるほど。お袋の『重要な話に参加しないスキル』は凄まじいからな……」
「まこと、難攻不落と呼ぶにふさわしい。されど、余は諦めませぬぞ」
「ひなたには母親が必要だモンなー」
「然り。今のところ、美沙子殿が最有力候補ゆえ余は攻めの手を緩めませぬ」
今のところ、か。
じゃあ、他の有力候補が現れたらそっちに移ったりするんだろうか。
あー、移るかもしれんなー。
シンラは皇帝だから、情よりも理と利を優先する。何よりひなた第一だし。
う~ん、けど、まぁ別にいいか。
お袋に俺が力を貸す理由なんてねぇし。生かしてやってるだけで十分だろ。
「むむむ、このサンドイッチ、美味しいですね。母様、これどこのお店のものですか? ……えっ、あそこの通りにそんなお店が。ちょっと調べますね。……うわ、高ッ、でも店長さんカッコいい! 独身でしょうか? あ、妻子持ちだ。ちぇ~」
……シイナが何やら一人百面相をしておるなぁ。
あいつ、今年で二十六だっけ。
アラサーってヤツ、になるのかな。今の様子を見るに、彼氏いないんだろうな。
異世界でもその辺をずっと気にしてたモンな。
最終的に結婚できたけど、それもお見合い結婚だったし……。
「ああああああ~、このお肉、おいひぃ……。超おいひぃ……。お、お酒、チューハイが欲しくなります。いや、これなら日本酒、ビールもありでしょうか……!」
――次から少しは酒も用意した方がいいんだろうか。ミフユと相談しよう。
「そういえばよー、おまえらって、今はどんな生活してるん?」
これは、ふと気になった俺からの質問。
異世界では家族だった俺達も、こっちでは赤の他人なワケで、気になるよね。
知ってどうなるってものでもないが、宴会での余興だわな。
――まずは、シンラ。
「余につきましては御存じでありましょう。市内の商社に務めておりまする。こちらでの両親は健在ではありまするが、ほぼ没交渉にて。いわゆる長男教の毒親でした」
長男教ってのは、親が長男を最優先する家族を指す言葉だな。
シンラは確か、次男だったんだっけな。扱いに格差があったんだろうなー。
「大学に進む折、こちらの大学を選びまして、それを機に家を出たのでございます」
「ございますー!」
自分の真似をするひなたを、シンラが優しく撫でた。
――続いて、タマキ。
「オレは両親はいないなー。二年前に事故で死んじゃった。俺もそのとき『出戻り』したんだけどさ。あと俺、こっちじゃクォーターなんだ。父方のじいちゃんがブラジル人なんだってさ。会ったことないけど。こっちに来るまでは母方のじいちゃんとばあちゃんと住んでたぜー。マガコーに進んだときに一人暮らし始めたんだ!」
女子高生の一人暮らしとか、それだけ聞くと色々危なく思えるが、タマキである。
こいつの馬力をどうにかできる人類とか、微塵も想像できねーや。
――次に、シイナ。
「普通の家に生まれて、普通ややオタ寄りに育って、普通に高校を出て、普通に短大を出て、普通に就職しようと思ったら大きな病気やっちゃって『出戻り』して、占い師になりました。……占い師って、普通ですよね? 普通、です、よね?」
あ、うん。……普通、かなぁ?
シイナはきっと、バーンズ家を反面教師にして育っちゃったんだろうなー。
本当、やたら『普通』であることにこだわってるし。
だが、自称『庶民』のこいつを、俺は普通と思ったことは一度もない。
何なら、個性豊かなバーンズ家の中でも、指折りどころか随一の個性派まである。
こいつのとびっきりの特異性に頼ることも、この先、あるだろう。
――最後に、俺とミフユ。
「俺達は、語るまでもないかなー。今はただの小学生やってるし」
「そうよねー。どこにでもいる小学生やってるわよねー」
「「ない。それはない」」
ウチの長女と長男が、ものすごい真顔で声を揃えて否定してくる。
あ~ん? どういう意味だよ、そりゃあよ~!
「こぉんにちはぁ~! きたよ~ん!」
「こんにちは、お邪魔させてもらいますね」
と、そこに新たな参加者登場。スダレと――、え、誰?
「あらスダレ、来たのね。……って、そちらの男性はどなた?」
お土産代わりらしきお菓子と飲み物を持ってきたスダレの隣に、男が立っている。
何というか、妙にスダレと印象がかぶる、眼鏡をかけた若い男だ。
よれよれのスーツに、銀縁の眼鏡。
人のよさそうな柔和な印象の顔はシンラほどではないが、随分と整っている。
男は、俺達に向かってせわしなくペコペコと頭を下げてくる。
「八重垣簾の夫の八重垣淳と申します」
「「旦那さんだァァァァァァァ――――ッ!」」
途端に盛り上がるミフユとタマキ。うっさいわ、おまえら……。
「えええええええ、スダレ姉様、既婚者? 既婚者!? き・こ・ん・しゃ!!?」
シイナはシイナで魂の叫びを響かせておるわ……。
「あ~、おシイちゃんだ~! 久しぶりぃ~、懐かしいねぇ~!」
「ええ~い、寄るな寄るなです! 既婚者は敵! 既婚者は、私の敵ですッ!」
「うにゅ~? ノンアルコールビール買ってきたけど、飲む~?」
「飲みます、ただちに休戦協定を結びましょう! 恒久的平和の実現です!」
はっや、やっす。
おまえは本当にそれでいいのか、シイナ……。
「あはは、賑やかですね」
「あ~、え~と……」
朗らかに笑う淳に、さて、俺はどう接したモンかと頭を悩ませる。
スダレの旦那さんかぁ。それも驚いたけど、俺らの関係性は何と説明したモンか。
「ああ、大丈夫ですよ、アキラさん」
考えあぐねていたところに、淳がそう言ってきてくれる。
「実は、僕も『出戻り』なので、皆さんの事情についてもスダレから聞いています」
「え、そーなの?」
それなら話が早いんだけど、夫婦揃って『出戻り』か。珍しい。
俺とミフユは、あっちでは夫婦だけどこっちじゃまだ同級生でしかないしな。
「いやぁ、僕も伝説の『バーンズ家』にお会いできるなんて、思ってませんでした」
「ん? 伝説の……?」
「はい。僕が生きていた時代は、皆さんの時代より三百年ほどあとなんです」
なぬ、そんなこともあるんか!?
「改めて自己紹介を。僕は八重垣淳。あっちでの名をジュン・ライプニッツ。『探究者にして探検家』なんて呼ばれたこともある、しがない学者だった者です」
そう言って、ジュンは俺に向かってまた頭を下げてきたのだった。
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「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
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