出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です

はんぺん千代丸

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第五章 夏休み、宙色市歴史探訪

第84話 観神之宮はそこにある

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 辿り着いた『天陵寺』で、俺達は二つ目の祭器を見つけた。

「こりゃわかりやすいわ……」

 お寺の境内の一角に置かれた石塔がそれだ。
 一目でわかった理由は、その表面に魔法文字がこれでもかと刻まれていたから。

 俺達が使っている金属符に刻まれたものと同じ系統だ。
 この『天陵寺』では不可思議塔と呼ばれ、ちょっとした名物になっているらしい。

「この塔を寄進されたのは、江戸時代の末期頃らしいですね」

 頼んだら、住職さんが調べてくれた。
 しかし、寄進した人間の苗字まではわからなかった。
 名前は喜兵衛というらしい。

「江戸時代にはありふれてた名前っぽく聞こえるわね」

 そもそも、その名前が本名かさえ定かじゃない。
 まぁ、そこは大した問題じゃない。『七つ目石』に続き、二つ目の祭器はあった。
 これで、宙色市内に三極式儀典の魔法が用いられていることがほぼ確定した。

 いったい、どういった内容の儀式魔法であるのか。
 新たなヒントとしては不可思議塔に刻まれていた魔法文字だ。

「金属符に使われているものとよく似た魔法文字、魔法紋様でありましたな……」
「空間とか、次元とか、そういったものに関わる儀式魔法の可能性が高いな」

 もはや言うまでもなく、金属符は特定の空間を世界から切り離すものだ。
 それに近い効果の魔法文字だとしたら、やはり空間に関する効果なのだろう。

「う~ん、真相に近づいてる気はするが、まだわからんなぁ……」

 三つ目の祭器と、儀式の中心となる神器。
 それらを見つければ、さすがに詳細も明らかになるだろう。

「さて、そうなると三つ目の祭器の在り処を見つけるところからだな」
「地図を」

 寺の入り口で、シンラが宙色市のマップを広げる。
 市内名所スタンプラリー用のものでいらんイラストも入ってるが、そこは我慢で。
 俺達四人の視線が、マップへと注がれる。

「まずは『七つ目石』がここだ」

 俺は、赤いペンで『七つ目石』がある市内北西部に丸を描く。

「次に『不可思議塔』がここですな」

 シンラが、俺達が今いる市内南西部の『天陵寺』をまるで囲う。
 使われている儀式魔法の様式は『三極式儀典』。効果範囲は正三角形になるはず。

 すでに二つがわかっているのだから、残る一つを探し出すのは簡単だ。
 皆が注目する中、シンラが定規とペンで二つの祭器からラインを伸ばしていく。

 真っすぐ続く二つの赤い線の先、交差する部分があった。
 そして、描かれたのは、間違いなく正三角形。三つ目の祭器の場所が判明した。

「ここは……」
「港ね」
「ああ。三つ目の祭器があるのは、宙色市の東の端っこ。星海港ほしうみこうだ!」

 次に向かうべき場所が、決まった。


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 宙色市内にある唯一の港、星海港。
 実は宙色市でも最も歴史がある場所で、港自体は戦国時代以前からあるのだとか。

 それを知ったときは『スゲー!』って思った。
 思ったんだけど……、その、当の港が、ものすっごくちっちゃいんです。

 一応、埠頭もあるし、倉庫区画とかもあるよ。
 あるんだけど、それが小さいし、ショボい。数時間もあれば歩き尽くせる程度。

 ただ、この港にある市場はなかなかいい感じなのだ。
 到着した頃は丁度お昼どきなのもあって、市場によって昼飯食べることになった。

「あい、らっしゃいらっしゃい、エビ、タコ、イカ、全部安いよ!」
「こっちは今運ばれてきたばっかりの魚がいっぱいだよ、お安くしておくぜぇ!」

 市場がある建物に入ってみれば、そこかしこから威勢のいい呼び声が聞こえる。
 何ていうのかな、非常に活きがいい。客も多くて、活気があって賑やかだ。

「食べるところ、空いてるかしら……?」

 ミフユがそんな心配をするが、俺もちょっとそこが不安。
 丁度昼時なのもあって、飯食える店には絶対に客が押し寄せてるだろ。

「父上、母上、御心配は無用にて。こちらへ」
「何よ?」
「ん~?」

 シンラの案内に従って、俺達は市場の二階に向かう。
 そこは休憩所があったり、食堂があったりするが、やはりどこも満杯だ。
 だが、シンラはその辺りはすり抜けて、さらに奥へ奥へと突き進む。

「若、何か歩みに淀みがないですね」
「そうだな、初めてここに来た、って感じじゃなさそうだ」

 ケントとヒソヒソ話していると、シンラが足を止める。
 そこは市場二階の端の端、テーブルは幾つかあるが、市場の人がたむろしている。
 ここ絶対、関係者以外立ち入り禁止の場所ですよねぇ!?

「やぁ、シゲさん。こんにちは!」

 シンラが、そこにいるガタイのねじり鉢巻きのおじちゃんに気さくに話しかける。
 おじちゃんはジロリとシンラを見て、

「お、風見の旦那じゃねぇかい、どうしたんだい、今日はまた?」

 おじちゃん、笑うと一気に相好が崩れたな。何か、大型犬みてぇな印象だ!

「実は、親戚の子供達と一緒にこの辺に遊びに来ててね。お昼をこの市場で食べようって話になったんだけど、どこも満杯で。っていうワケなんだけど――」
「あ~、時間が時間だから仕方がねぇな。いいぜ、こっちで食っていきな!」

「助かるよ。でも、取り引きのときに手加減はしないよ?」
「それはそれさ。あんたと俺の付き合いだ。好きなモン頼んでいきな!」

 シゲさんとやらは、陽気な調子でシンラの肩をポンと叩き、どこかへ行った。
 俺達がその様子をポカンと見ていると、シンラからようやく説明が入る。

「余の勤める会社がここと取引がありまして、余が取引全般を仕切っている役を負っておりまして、かの重村しげむら氏――、シゲさんとは五年来の付き合いになりまする」
「マジか~、人の縁ってのは、どこで繋がってるかわからんモンだな~……」

「シゲさんはこの市場の上の人間なので、彼が『好きなモノを頼め』と言った以上は、本当に好きなモノを頼んでも大丈夫でしょうな。席はこちらを使えましょうぞ」
「「「やったぁ~~~~!」」」

 海の幸を前にはしゃぐ小二×2と、中二×1であった。


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 イカ、タコ、エビ、マグロ。大変美味しゅうございました……。
 大トロとウニは、小二の舌にはちょっと美味しさがわからんかった。何か悔しい。
 案外美味しかったのが、卵焼き。……これも悔しい。

「フ、庶民舌の上にお子様舌なんて、大変ねぇ。モノの美味しさがわからなくて」
「え、何? その庶民舌のお子様舌が一番長く味わってきたものが何か知りたい?」
「やめてよッ!?」

 顔を真っ赤にして叫ぶミフユ。
 フフフ、愚か者め。伊達にあっちで生涯添い遂げておらぬわ。

「で、話を本筋に戻しまして――」
「三つ目の祭器」
「あっさり、見つかっちゃったねぇ……」

 そう。見つかってしまったのだ。
 三極式儀典、その三つ目の祭器となっているものが、探して五分も経たずに。

「これ?」
「然り。間違いございますまい」

 ミフユが疑わしげに見つめているが、シンラはそう断言する。
 それは、市場の裏手にあった。古びたお地蔵様だった。

「誰がいつ、これをここに置いたのか、全ては不明。されど確かに感じまする」
「魔力か。現在進行形で稼働してるんだな、こいつは」
「然様にてございます」

 シンラがうなずく。
 お地蔵様は、市場の裏手の、木が植えられているエリアの一角にあった。
 市場自体が壁になって、大波が来ても無事でいられる場所だ。

「これで祭器は三つ。正三角形が揃いましたな」
「ってことは、あとは神器っすね」

 シンラが言い、ケントが続く。
 俺とミフユは互いに顔を見合わせてうなずいた。もう考えるまでもない。

 儀式魔法の中心となる神器が置かれた場所。
 そこが、残る七星句の最後の一つ『観神之宮』であるに違いない。

「マップで確認いたしましょう」

 シンラが、再び宙色市のマップを広げる。
 そこに、今さっき見つかった三つ目の祭器の場所を書き加える。宙海港だ。

 これで正三角形ができあがった。
 元々三角形に近い形状をしている宙色市を、ほぼ網羅する大きさだ。

「神器は、この正三角形の中心にあるはずよね……」
「ふむ、実際に線を伸ばしてみなければ、詳しい場所はわかりませぬな」

 シンラが、定規とペンを使って三本の線を引いていく。
 正三角形のそれぞれの角から内側に向かって描かれていく三本の線。
 それが交わるところは――、

「ここは……」
「何区だ?」
「調べてみるわね」

 ミフユが、スマホのマップ機能を使って、地図の場所を探し始める。
 するとすぐ見つかったらしく、その場所の名を読み上げた。

「ここ、天都原区あまつはらくだわ」
「……何?」

 聞こえた名前が信じられず、俺は聞き返してしまう。

「だから、天都原区。そこの――」
「もしかして、四丁目か?」

 そして、調べ終えたミフユよりも先に、俺がその場所の名を告げていた。

「……うん、そう、だけど」

 ミフユが、そしてケントとシンラも、驚きを顔に浮かべて俺を見る。
 一方で、俺は無意識のうちに笑みを浮かべていた。

 そうか、なるほどな。
 探していた『観神之宮』は、そこにあったのか。

「そこの住所は、宙色市天都原区四丁目17-2……」

 詳細な住所を語る俺の脳裏に、幼い日の記憶がグルグルと巡っていく。

「俺が、前に住んでいた家だよ」
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