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序.※この話の登場人物は全て架空の存在です
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開かれた大扉の向こうに立っていたのは、黒い甲冑を着込んだ歴戦の勇士だった。
黒髪を無造作に伸ばし、その顔をボロ布で半ば覆い隠した、褐色の肌の男。
纏う甲冑は傷だらけで、腰には長剣を携え、擦り切れたマントを羽織っている。
私を睨みつけるその視線にあるのは闘志、そして殺意。何と単純で獰猛な光だろう。
「よくぞ来た、英雄よ」
玉座にて、私は彼を歓待する。
石畳と太い柱だけがある冷たく広い玉座の間に、久々に訪れた熱の塊である彼を。
「貴様が、白き魔王ロンヴェルディアか」
私を誰何するその声は、さながら地獄に吹きすさぶ乾き切った風の音色。
「いかにも。私こそがロンヴェルディアだ。黒き英雄ラングリッド・エヴァンよ」
口角を吊り上げて、私は英雄ラングリッドにそう返す。
「その全身より漂い新鮮なる血の匂い。実にかぐわしい。この城にいる魔族を全て屠り、我がもとに辿り着いたと見える。素晴らしい。我が城に死屍累々たる屍山血河を築いたことで貴様は己の強さを私に証明したのだ。容貌魁偉とはまさに貴様のことだな、英雄よ」
血に汚れた彼を、穢れなき私が笑う。
黒き彼とは対照的に、私は白い。どこまでも白い。穢れなき白こそが、この私だ。
見るがいい、この甘露なる蜜の色をした髪を。夕焼けにも似た紅玉の瞳を。
豊満たる我が肢体は艶に濡れ、肩や太ももをさらけ出すドレスは見る者の色情を煽る。
眼前の英雄のようなますらおでもない限り、誰もが我が美貌の前に屈しひれ伏すだろう。
私はそれをよしとする。
何故なら、美は人の目に触れてこその美なのだから。
穢れなき私は美しい。そして、血の匂いと鋼を纏う彼もまた、美しい。
「英雄よ、私の血も浴びてみるか?」
軽く挑発すると、英雄は腰の剣を引き抜いて、鈍い光沢を宿す切っ先を私に向けた。
そこに放たれる濃密な殺気を身に受けて、もう、私は堪えきれなかった。
「クククク、ハハハハハハハ!」
私は勢いよく玉座から立ち上がり、剣を構える英雄へと指を突きつける。
「この空気、まさに一触即発! たまらんな、英雄! その佇まいは冷静沈着なれど心の内は意気軒高! 今の貴様とわたしはまさしく互いに気炎万丈であろうよ! ならば始めようではないか、我らの竜虎相搏たる戦いを! そして命を賭した力戦奮闘の中で私は有頂天外にも達し、手舞足踏の歓天喜地、狂喜乱舞の欣喜にゃくにゃ……、あ」
噛んだ。
私は止まる。目の前の黒い男も、止まる。
「「…………」」
お互いに沈黙し、そして流れるちょっと気まずい空気。
私はスゥ~ハァ~と深呼吸をして、英雄に向かって勢い任せに声を張り上げる
「――狂喜乱舞の欣喜じゃくじゃくの境地に至るのだ!」
『ロンちゃん、そこはじゃくじゃくじゃなくてじゃくやく。欣喜雀躍だよ』
だが、頑張ってやり直した私の意識に届いたのは、目の前の男からのダメ出しだった。
私がそれでまた硬直すると、今度は魔力を介した念話での激励が届いた。
『大丈夫、ロンちゃんならできるって! ほら、頑張って! ここからがクライマックスだから! いけるいける、ロンちゃんなら台本通りできるって!』
その能天気な応援が、私の中の羞恥心ゲージを一瞬にして限界突破させた。
「うがぁぁぁぁぁ~~~~! これ以上、やってられるかぁぁぁぁぁぁ~~~~!」
私はキレた。
そして近くにあった玉座を全力で蹴り倒した。
「ああ! 三十年ぶりに物置から引っ張り出してきた玉座が!?」
「何で使い魔の私が魔王役なんかやらなきゃならんのだッ! 本物の魔王はおまえではないか、我が主ィィィィィィィィィィィィ~~~~ッ!」
そう、私はただの使い魔で、玉座の心配をするこの男こそが本当の魔王。
人が紡ぐ物語をこよなく愛し、己の使い魔に自作台本を押しつける大バカ野郎。
その名を、ディギディオン・ガレニウスといった。
え?
ラングリッド・エヴァン?
それは我が主の最新オリジナルキャラの名前だよ!
黒髪を無造作に伸ばし、その顔をボロ布で半ば覆い隠した、褐色の肌の男。
纏う甲冑は傷だらけで、腰には長剣を携え、擦り切れたマントを羽織っている。
私を睨みつけるその視線にあるのは闘志、そして殺意。何と単純で獰猛な光だろう。
「よくぞ来た、英雄よ」
玉座にて、私は彼を歓待する。
石畳と太い柱だけがある冷たく広い玉座の間に、久々に訪れた熱の塊である彼を。
「貴様が、白き魔王ロンヴェルディアか」
私を誰何するその声は、さながら地獄に吹きすさぶ乾き切った風の音色。
「いかにも。私こそがロンヴェルディアだ。黒き英雄ラングリッド・エヴァンよ」
口角を吊り上げて、私は英雄ラングリッドにそう返す。
「その全身より漂い新鮮なる血の匂い。実にかぐわしい。この城にいる魔族を全て屠り、我がもとに辿り着いたと見える。素晴らしい。我が城に死屍累々たる屍山血河を築いたことで貴様は己の強さを私に証明したのだ。容貌魁偉とはまさに貴様のことだな、英雄よ」
血に汚れた彼を、穢れなき私が笑う。
黒き彼とは対照的に、私は白い。どこまでも白い。穢れなき白こそが、この私だ。
見るがいい、この甘露なる蜜の色をした髪を。夕焼けにも似た紅玉の瞳を。
豊満たる我が肢体は艶に濡れ、肩や太ももをさらけ出すドレスは見る者の色情を煽る。
眼前の英雄のようなますらおでもない限り、誰もが我が美貌の前に屈しひれ伏すだろう。
私はそれをよしとする。
何故なら、美は人の目に触れてこその美なのだから。
穢れなき私は美しい。そして、血の匂いと鋼を纏う彼もまた、美しい。
「英雄よ、私の血も浴びてみるか?」
軽く挑発すると、英雄は腰の剣を引き抜いて、鈍い光沢を宿す切っ先を私に向けた。
そこに放たれる濃密な殺気を身に受けて、もう、私は堪えきれなかった。
「クククク、ハハハハハハハ!」
私は勢いよく玉座から立ち上がり、剣を構える英雄へと指を突きつける。
「この空気、まさに一触即発! たまらんな、英雄! その佇まいは冷静沈着なれど心の内は意気軒高! 今の貴様とわたしはまさしく互いに気炎万丈であろうよ! ならば始めようではないか、我らの竜虎相搏たる戦いを! そして命を賭した力戦奮闘の中で私は有頂天外にも達し、手舞足踏の歓天喜地、狂喜乱舞の欣喜にゃくにゃ……、あ」
噛んだ。
私は止まる。目の前の黒い男も、止まる。
「「…………」」
お互いに沈黙し、そして流れるちょっと気まずい空気。
私はスゥ~ハァ~と深呼吸をして、英雄に向かって勢い任せに声を張り上げる
「――狂喜乱舞の欣喜じゃくじゃくの境地に至るのだ!」
『ロンちゃん、そこはじゃくじゃくじゃなくてじゃくやく。欣喜雀躍だよ』
だが、頑張ってやり直した私の意識に届いたのは、目の前の男からのダメ出しだった。
私がそれでまた硬直すると、今度は魔力を介した念話での激励が届いた。
『大丈夫、ロンちゃんならできるって! ほら、頑張って! ここからがクライマックスだから! いけるいける、ロンちゃんなら台本通りできるって!』
その能天気な応援が、私の中の羞恥心ゲージを一瞬にして限界突破させた。
「うがぁぁぁぁぁ~~~~! これ以上、やってられるかぁぁぁぁぁぁ~~~~!」
私はキレた。
そして近くにあった玉座を全力で蹴り倒した。
「ああ! 三十年ぶりに物置から引っ張り出してきた玉座が!?」
「何で使い魔の私が魔王役なんかやらなきゃならんのだッ! 本物の魔王はおまえではないか、我が主ィィィィィィィィィィィィ~~~~ッ!」
そう、私はただの使い魔で、玉座の心配をするこの男こそが本当の魔王。
人が紡ぐ物語をこよなく愛し、己の使い魔に自作台本を押しつける大バカ野郎。
その名を、ディギディオン・ガレニウスといった。
え?
ラングリッド・エヴァン?
それは我が主の最新オリジナルキャラの名前だよ!
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