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2.白金の姫と四天王の反逆
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両開きの大扉が弾かれるようにして開け放たれ、ズカズカと何人かが入ってくる。
本棚の向こう側に見える人数は五人。
一人は、我が主に似た顔立ちをしているが、目つきだけはやけに険しい銀髪の少女。
我が主の妹にあたる『白金の魔女(プラティナム)』ファムティリア・ガレニウス。
そして、彼女が率いているのは魔王軍最高戦力たる地水火風の四天王だった。
怒鳴ったのは『火』を司る四天王。その名をサラマンデ・バニングブラスという。
全身が金属質の真っ赤な鱗に覆われた、屈強な竜人種の雄である。
彼ら四天王を後ろに控えさせ、ファムティリアが執務机の前に立つ。
「ご機嫌麗しゅう、お兄様。相変わらず紙臭い部屋ですわね。ここは」
「今日の分の政務はもう終わらせてある。空いた時間を何に使うかは僕の自由だよ」
普段は温厚な我が主も、妹に対してはこのように態度を硬くする。
すると、ファムティリアはこちらを見下ろしたまま、隠すことなく舌を打った。
「何を寝ぼけているの、お兄様。あるでしょう。私達が達成すべき一大事業が」
「一大事業? 魔族による大陸制覇。人類領への侵攻のことかな?」
「そうですわ。私達がなすべきことはまさにそれでしてよ。なのにあなたと来たら」
言って、ファムティリアが軽く目線を動かす。
合図を受け取ったサラマンデが近くの本棚を殴り砕き、大量の本が床に散らばる。
我が主がファムティリアを見るまなざしに、にわかに険しいものが混ざる。
「何ですか、その生意気な目は? 魔王軍を動かすには最高司令官であるお兄様の勅が必要だというのに、そのあなたが、こんな紙束にうつつを抜かして……」
「お嬢の言う通りだ。やっぱあんたは魔王の器じゃねぇよ、ディギディオン様よォ!」
ファムティリアに加えて、サラマンデまでもが公然と我が主に対して反抗の意を示す。
「昨日も一昨日も説明したはずだよ、サラマンデ。魔族領ガレニオンは十分満ち足りている。必要のない侵攻をすることに何の意味があるっていうんだい?」
「理由なんぞどうでもいい! 俺はいくさがしてぇって言ってんだよ! あんたは一体、俺達を何年我慢させる気なんだ? あぁ!?」
チンピラみたいな言い方をする。よっぽど鬱憤が溜まっているようだ。
我が主が即位してより五十年。前回の大戦より七十年。魔族にしても長い時間ではある。
「って言ってもね、サラマンデ。前回も結局負けたでしょ、魔王軍(こっち)」
「人間如きを相手にそう何度も負けるワケねぇだろう! 次は勝つに決まってる!」
それ、七十年前にも言ってたな。さらに遡って、前々回の戦いのときにも。
魔族は人より強い。それは事実だ。
だが、今まで幾度も起きた人と魔の戦いで、魔族側が勝利したことは一度もない。
人類側を追い詰めながらも最後の最後で逆転されて、手痛い敗北を喫する。
強いだけでは勝てないという、何よりの証左だろうに。全く。
椅子に深く身を沈めて、我が主が再びため息を漏らす。
「群を動かすつもりはない。負けるとわかってる戦争なんて、するだけ無駄だからね」
主が続けたその言葉が、激発のきっかけとなった。
「――腰抜けめが」
ファムティリアが見切りをつけたよう言って、サッと右手を挙げる。
「もういいですわ。おやりなさい、サラマンデ」
「ヒャッハァ、その言葉を待ってたぜ! ファムのお嬢よォ!」
サラマンデが歓喜の声をあげ、その巨躯に灼熱の炎を纏わせる。
さすがに驚いて、我が主が椅子から腰を浮かせかけた。
「ファム、何を――」
「消え去りなさい、愚兄。魔王の重職は、おまえ程度に担えるものではありません」
「ヒャハハハハハハハハ~! 雑魚は俺様の火で浄化されちまいなぁッ!」
そして『火』の四天王がその場に炎を炸裂させ、大書庫兼執務室が紅蓮に染まった。
本棚の向こう側に見える人数は五人。
一人は、我が主に似た顔立ちをしているが、目つきだけはやけに険しい銀髪の少女。
我が主の妹にあたる『白金の魔女(プラティナム)』ファムティリア・ガレニウス。
そして、彼女が率いているのは魔王軍最高戦力たる地水火風の四天王だった。
怒鳴ったのは『火』を司る四天王。その名をサラマンデ・バニングブラスという。
全身が金属質の真っ赤な鱗に覆われた、屈強な竜人種の雄である。
彼ら四天王を後ろに控えさせ、ファムティリアが執務机の前に立つ。
「ご機嫌麗しゅう、お兄様。相変わらず紙臭い部屋ですわね。ここは」
「今日の分の政務はもう終わらせてある。空いた時間を何に使うかは僕の自由だよ」
普段は温厚な我が主も、妹に対してはこのように態度を硬くする。
すると、ファムティリアはこちらを見下ろしたまま、隠すことなく舌を打った。
「何を寝ぼけているの、お兄様。あるでしょう。私達が達成すべき一大事業が」
「一大事業? 魔族による大陸制覇。人類領への侵攻のことかな?」
「そうですわ。私達がなすべきことはまさにそれでしてよ。なのにあなたと来たら」
言って、ファムティリアが軽く目線を動かす。
合図を受け取ったサラマンデが近くの本棚を殴り砕き、大量の本が床に散らばる。
我が主がファムティリアを見るまなざしに、にわかに険しいものが混ざる。
「何ですか、その生意気な目は? 魔王軍を動かすには最高司令官であるお兄様の勅が必要だというのに、そのあなたが、こんな紙束にうつつを抜かして……」
「お嬢の言う通りだ。やっぱあんたは魔王の器じゃねぇよ、ディギディオン様よォ!」
ファムティリアに加えて、サラマンデまでもが公然と我が主に対して反抗の意を示す。
「昨日も一昨日も説明したはずだよ、サラマンデ。魔族領ガレニオンは十分満ち足りている。必要のない侵攻をすることに何の意味があるっていうんだい?」
「理由なんぞどうでもいい! 俺はいくさがしてぇって言ってんだよ! あんたは一体、俺達を何年我慢させる気なんだ? あぁ!?」
チンピラみたいな言い方をする。よっぽど鬱憤が溜まっているようだ。
我が主が即位してより五十年。前回の大戦より七十年。魔族にしても長い時間ではある。
「って言ってもね、サラマンデ。前回も結局負けたでしょ、魔王軍(こっち)」
「人間如きを相手にそう何度も負けるワケねぇだろう! 次は勝つに決まってる!」
それ、七十年前にも言ってたな。さらに遡って、前々回の戦いのときにも。
魔族は人より強い。それは事実だ。
だが、今まで幾度も起きた人と魔の戦いで、魔族側が勝利したことは一度もない。
人類側を追い詰めながらも最後の最後で逆転されて、手痛い敗北を喫する。
強いだけでは勝てないという、何よりの証左だろうに。全く。
椅子に深く身を沈めて、我が主が再びため息を漏らす。
「群を動かすつもりはない。負けるとわかってる戦争なんて、するだけ無駄だからね」
主が続けたその言葉が、激発のきっかけとなった。
「――腰抜けめが」
ファムティリアが見切りをつけたよう言って、サッと右手を挙げる。
「もういいですわ。おやりなさい、サラマンデ」
「ヒャッハァ、その言葉を待ってたぜ! ファムのお嬢よォ!」
サラマンデが歓喜の声をあげ、その巨躯に灼熱の炎を纏わせる。
さすがに驚いて、我が主が椅子から腰を浮かせかけた。
「ファム、何を――」
「消え去りなさい、愚兄。魔王の重職は、おまえ程度に担えるものではありません」
「ヒャハハハハハハハハ~! 雑魚は俺様の火で浄化されちまいなぁッ!」
そして『火』の四天王がその場に炎を炸裂させ、大書庫兼執務室が紅蓮に染まった。
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