黒き魔王のヒストリア~人と魔族となりきりロールプレイヤーの魔王様と使い魔の私~

はんぺん千代丸

文字の大きさ
9 / 13

8.Sランク冒険者とダンジョン探索

しおりを挟む
 シェリィ――、本名シェリンダ・バーミュル。
 赤い髪をした盗賊剣士であり『猛々しい盗人』の異名を持つ、凄腕の冒険者。

 どれほど凄腕かといえば、何とこのロシュディアでも唯一のSランク冒険者とのこと。
 SSランクは名誉等級扱いなため、実質、このSランクが最上位ランクとなる。

 シェリィがギルドにやってきたときの騒がれようも、Sランクなら納得だ。
 そして、マリィこと次女マリオンと、リリィこと三女リリエラ。
 二人もそれぞれがAランクで、ソロでもやっていける実力の持ち主だ。

 この三姉妹との出会いは、冒険者としての名声を求める私達にとって奇貨となりうる。
 そこで我が主はシェリィの誘いに乗り、一度組んでみることにしたのだ。

「でね~、先週で契約が終わって壁役がいなくなっちゃってね~」

 と、街道を歩いているさなか、シェリィが我が主を誘った理由を語ってくれる。
 三姉妹は戦士、魔導士、神官という構成で、これはタンクが欲しくなるのもわかるな。

「で、ギルドに行ってみたらロレンス君がいたワケなのよね~」
「でも姉さん、こいつどう見ても壁役って感じには見えないんだけど……」

 笑って言うシェリィに、マリィはニコリともせず告げる。
 まぁ、そうだな。我が主、全身武器まみれだが防具は真っ黒全身甲冑だけだしな。

「大丈夫大丈夫、何とかなるってぇ~」

 が、シェリィの返答がこれ。その自信は一体どこから来るのか。

「聞こえるか。虚空(ヴォイド)の深淵より響く宿業(フェイト)の鐘の音が」

 そして我が主は誰に何をアピールしようとしているのか。

「ううう、怖いですぅ~……」

 リリィが我が主からスススと離れていく。どうやら恐怖はアピールできたみたいだ。

「未知なるものに恐れを抱く。それもまた人の在り様。人なるもののカタチ――」
「いや、単にあんたがワケわかんなすぎて怖いだけだからね」

 ここでロールに浸る我が主に、マリィがザックリ切り込んだァ――――!
 しかし我が主、これに無反応。全くの無反応。これは無礼! 何たる非礼!

「ちょっとあんた、何か言いなさいよ。何なのよ、その素っ気なさは」

 マリィがムッとした表情になって、さらに突っかかってくる。
 違うんです。
 この人、こういうのがクールでカッコいいと思い込んでるバカなんです!

「関わる者全てに痛みを与える。……生存サバイブ、それ自体が俺の罪、俺の業」
「姉さん、私、こいつ生理的に無理!」
「マリィお姉ちゃん、リリィ、怖いですぅ~」

 ドンビキする次女と、その次女に泣きつく三女。

「うんうん、会話も弾んでるし、仲良きことは美しきかな!」

 妹二人の訴えを前にしてそうのたまえる長女は、間違いなく大物だった。


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 やってきました、ダンジョンに。
 このたびの依頼内容は、新たに見つかったダンジョンの探索と攻略。

 話によれば、数週間前の大嵐で山肌が崩れ、入り口が露わになったという話だ。
 なるほど、山のふもとの抉れた場所にポッカリと穴が空いている。

「誰も入ったことがないダンジョンってさ~、ワクワクするよね~!」

 期待を膨らませて笑うシェリィに、我が主が無言のまま首肯する。

「フン、適当に相槌打ってるんじゃないわよ」

 マリィがきつい顔つきで噛みついてくるが、君は何もわかっていないなぁ。
 三姉妹は気づいていないようだが、今の我が主な、実は瞳がすごくキラキラしているぞ。

 しかも期待に心躍らせてか、すごく微細に震動しています。こいつ。
 肩に乗ってる私までその振動が伝わって、き、気持ちわる……、ヴォエッ。

「入り口に罠がないのは確認、っと。脱出用のアイテムもよし。じゃ、行くぞ~!」

 しばし入り口を調べて、シェリィが先頭に立ってダンジョンの中に入っていく。
 陣形としては、次に我が主、三番手にマリィ、最後にリリィとなる。だが、

 ガコッ。

 何やら硬い音がして、シェリィの次に入ろうとしていた我が主が足を止める。

「ちょっと、あんたの背中の剣の柄、引っかかってるみたいだけど?」

 すぐ後ろから、マリィが咎めるような声で言ってくるが、マジだ。
 ダンジョンの入り口が思ったより小さかったらしく、柄がふちに引っかかっている。

「あんたさぁ、右手の鎌もそうだけど、ダンジョンじゃそんなの邪魔なだけよ?」

 頭を低くして中に入る我が主をマリィがたしなめる。現実はなかなかに過酷だった。

「問題はない」

 しかし我が主がそう返した直後、マリィの目の前で剣と大鎌がフッと消え去った。

「……まさか、収納魔法? あんた、魔法が使えるの!?」

 収納魔法は、異空間にアイテムを収める便利な術だ。ただし、それなりに難しい。
 いかにも戦士でございといった風体の我が主が使えば、驚かれもするか。

「あんた、一体何なのよ。そのナリで魔法まで使えるなんて……」
「俺は何者か。――人はどこから来てどこに行くのか。命とは、愛とは、運命とは」
「誰もそこまで壮大なテーマで話しちゃいないわよ!?」

 お、上手いはぐらかし方。
 とか思ったが、単に自問自答で自己完結しただけだな、これは。

「っていうかぁ~、最初から剣も鎌も、収納しておけばよかったのではぁ~?」

 後ろから、三女リリィが小声で突っ込んでくる。
 それに対し、我が主は完全な無言。だが私は全力で『ですよねー!』と賛同する。
 浪漫を追求するのは勝手だが、それで余計な手間を増やしてどうすんだ。

「ね~! 三人とも、早く行こうよ~!」

 奥からシェリィの声がする。
 彼女が振るたいまつを目印にして、我が主と妹二人はダンジョン内に踏み込んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

処理中です...