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8.Sランク冒険者とダンジョン探索
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シェリィ――、本名シェリンダ・バーミュル。
赤い髪をした盗賊剣士であり『猛々しい盗人』の異名を持つ、凄腕の冒険者。
どれほど凄腕かといえば、何とこのロシュディアでも唯一のSランク冒険者とのこと。
SSランクは名誉等級扱いなため、実質、このSランクが最上位ランクとなる。
シェリィがギルドにやってきたときの騒がれようも、Sランクなら納得だ。
そして、マリィこと次女マリオンと、リリィこと三女リリエラ。
二人もそれぞれがAランクで、ソロでもやっていける実力の持ち主だ。
この三姉妹との出会いは、冒険者としての名声を求める私達にとって奇貨となりうる。
そこで我が主はシェリィの誘いに乗り、一度組んでみることにしたのだ。
「でね~、先週で契約が終わって壁役がいなくなっちゃってね~」
と、街道を歩いているさなか、シェリィが我が主を誘った理由を語ってくれる。
三姉妹は戦士、魔導士、神官という構成で、これはタンクが欲しくなるのもわかるな。
「で、ギルドに行ってみたらロレンス君がいたワケなのよね~」
「でも姉さん、こいつどう見ても壁役って感じには見えないんだけど……」
笑って言うシェリィに、マリィはニコリともせず告げる。
まぁ、そうだな。我が主、全身武器まみれだが防具は真っ黒全身甲冑だけだしな。
「大丈夫大丈夫、何とかなるってぇ~」
が、シェリィの返答がこれ。その自信は一体どこから来るのか。
「聞こえるか。虚空(ヴォイド)の深淵より響く宿業(フェイト)の鐘の音が」
そして我が主は誰に何をアピールしようとしているのか。
「ううう、怖いですぅ~……」
リリィが我が主からスススと離れていく。どうやら恐怖はアピールできたみたいだ。
「未知なるものに恐れを抱く。それもまた人の在り様。人なるもののカタチ――」
「いや、単にあんたがワケわかんなすぎて怖いだけだからね」
ここでロールに浸る我が主に、マリィがザックリ切り込んだァ――――!
しかし我が主、これに無反応。全くの無反応。これは無礼! 何たる非礼!
「ちょっとあんた、何か言いなさいよ。何なのよ、その素っ気なさは」
マリィがムッとした表情になって、さらに突っかかってくる。
違うんです。
この人、こういうのがクールでカッコいいと思い込んでるバカなんです!
「関わる者全てに痛みを与える。……生存、それ自体が俺の罪、俺の業」
「姉さん、私、こいつ生理的に無理!」
「マリィお姉ちゃん、リリィ、怖いですぅ~」
ドンビキする次女と、その次女に泣きつく三女。
「うんうん、会話も弾んでるし、仲良きことは美しきかな!」
妹二人の訴えを前にしてそうのたまえる長女は、間違いなく大物だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
やってきました、ダンジョンに。
このたびの依頼内容は、新たに見つかったダンジョンの探索と攻略。
話によれば、数週間前の大嵐で山肌が崩れ、入り口が露わになったという話だ。
なるほど、山のふもとの抉れた場所にポッカリと穴が空いている。
「誰も入ったことがないダンジョンってさ~、ワクワクするよね~!」
期待を膨らませて笑うシェリィに、我が主が無言のまま首肯する。
「フン、適当に相槌打ってるんじゃないわよ」
マリィがきつい顔つきで噛みついてくるが、君は何もわかっていないなぁ。
三姉妹は気づいていないようだが、今の我が主な、実は瞳がすごくキラキラしているぞ。
しかも期待に心躍らせてか、すごく微細に震動しています。こいつ。
肩に乗ってる私までその振動が伝わって、き、気持ちわる……、ヴォエッ。
「入り口に罠がないのは確認、っと。脱出用のアイテムもよし。じゃ、行くぞ~!」
しばし入り口を調べて、シェリィが先頭に立ってダンジョンの中に入っていく。
陣形としては、次に我が主、三番手にマリィ、最後にリリィとなる。だが、
ガコッ。
何やら硬い音がして、シェリィの次に入ろうとしていた我が主が足を止める。
「ちょっと、あんたの背中の剣の柄、引っかかってるみたいだけど?」
すぐ後ろから、マリィが咎めるような声で言ってくるが、マジだ。
ダンジョンの入り口が思ったより小さかったらしく、柄がふちに引っかかっている。
「あんたさぁ、右手の鎌もそうだけど、ダンジョンじゃそんなの邪魔なだけよ?」
頭を低くして中に入る我が主をマリィがたしなめる。現実はなかなかに過酷だった。
「問題はない」
しかし我が主がそう返した直後、マリィの目の前で剣と大鎌がフッと消え去った。
「……まさか、収納魔法? あんた、魔法が使えるの!?」
収納魔法は、異空間にアイテムを収める便利な術だ。ただし、それなりに難しい。
いかにも戦士でございといった風体の我が主が使えば、驚かれもするか。
「あんた、一体何なのよ。そのナリで魔法まで使えるなんて……」
「俺は何者か。――人はどこから来てどこに行くのか。命とは、愛とは、運命とは」
「誰もそこまで壮大なテーマで話しちゃいないわよ!?」
お、上手いはぐらかし方。
とか思ったが、単に自問自答で自己完結しただけだな、これは。
「っていうかぁ~、最初から剣も鎌も、収納しておけばよかったのではぁ~?」
後ろから、三女リリィが小声で突っ込んでくる。
それに対し、我が主は完全な無言。だが私は全力で『ですよねー!』と賛同する。
浪漫を追求するのは勝手だが、それで余計な手間を増やしてどうすんだ。
「ね~! 三人とも、早く行こうよ~!」
奥からシェリィの声がする。
彼女が振るたいまつを目印にして、我が主と妹二人はダンジョン内に踏み込んだ。
赤い髪をした盗賊剣士であり『猛々しい盗人』の異名を持つ、凄腕の冒険者。
どれほど凄腕かといえば、何とこのロシュディアでも唯一のSランク冒険者とのこと。
SSランクは名誉等級扱いなため、実質、このSランクが最上位ランクとなる。
シェリィがギルドにやってきたときの騒がれようも、Sランクなら納得だ。
そして、マリィこと次女マリオンと、リリィこと三女リリエラ。
二人もそれぞれがAランクで、ソロでもやっていける実力の持ち主だ。
この三姉妹との出会いは、冒険者としての名声を求める私達にとって奇貨となりうる。
そこで我が主はシェリィの誘いに乗り、一度組んでみることにしたのだ。
「でね~、先週で契約が終わって壁役がいなくなっちゃってね~」
と、街道を歩いているさなか、シェリィが我が主を誘った理由を語ってくれる。
三姉妹は戦士、魔導士、神官という構成で、これはタンクが欲しくなるのもわかるな。
「で、ギルドに行ってみたらロレンス君がいたワケなのよね~」
「でも姉さん、こいつどう見ても壁役って感じには見えないんだけど……」
笑って言うシェリィに、マリィはニコリともせず告げる。
まぁ、そうだな。我が主、全身武器まみれだが防具は真っ黒全身甲冑だけだしな。
「大丈夫大丈夫、何とかなるってぇ~」
が、シェリィの返答がこれ。その自信は一体どこから来るのか。
「聞こえるか。虚空(ヴォイド)の深淵より響く宿業(フェイト)の鐘の音が」
そして我が主は誰に何をアピールしようとしているのか。
「ううう、怖いですぅ~……」
リリィが我が主からスススと離れていく。どうやら恐怖はアピールできたみたいだ。
「未知なるものに恐れを抱く。それもまた人の在り様。人なるもののカタチ――」
「いや、単にあんたがワケわかんなすぎて怖いだけだからね」
ここでロールに浸る我が主に、マリィがザックリ切り込んだァ――――!
しかし我が主、これに無反応。全くの無反応。これは無礼! 何たる非礼!
「ちょっとあんた、何か言いなさいよ。何なのよ、その素っ気なさは」
マリィがムッとした表情になって、さらに突っかかってくる。
違うんです。
この人、こういうのがクールでカッコいいと思い込んでるバカなんです!
「関わる者全てに痛みを与える。……生存、それ自体が俺の罪、俺の業」
「姉さん、私、こいつ生理的に無理!」
「マリィお姉ちゃん、リリィ、怖いですぅ~」
ドンビキする次女と、その次女に泣きつく三女。
「うんうん、会話も弾んでるし、仲良きことは美しきかな!」
妹二人の訴えを前にしてそうのたまえる長女は、間違いなく大物だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
やってきました、ダンジョンに。
このたびの依頼内容は、新たに見つかったダンジョンの探索と攻略。
話によれば、数週間前の大嵐で山肌が崩れ、入り口が露わになったという話だ。
なるほど、山のふもとの抉れた場所にポッカリと穴が空いている。
「誰も入ったことがないダンジョンってさ~、ワクワクするよね~!」
期待を膨らませて笑うシェリィに、我が主が無言のまま首肯する。
「フン、適当に相槌打ってるんじゃないわよ」
マリィがきつい顔つきで噛みついてくるが、君は何もわかっていないなぁ。
三姉妹は気づいていないようだが、今の我が主な、実は瞳がすごくキラキラしているぞ。
しかも期待に心躍らせてか、すごく微細に震動しています。こいつ。
肩に乗ってる私までその振動が伝わって、き、気持ちわる……、ヴォエッ。
「入り口に罠がないのは確認、っと。脱出用のアイテムもよし。じゃ、行くぞ~!」
しばし入り口を調べて、シェリィが先頭に立ってダンジョンの中に入っていく。
陣形としては、次に我が主、三番手にマリィ、最後にリリィとなる。だが、
ガコッ。
何やら硬い音がして、シェリィの次に入ろうとしていた我が主が足を止める。
「ちょっと、あんたの背中の剣の柄、引っかかってるみたいだけど?」
すぐ後ろから、マリィが咎めるような声で言ってくるが、マジだ。
ダンジョンの入り口が思ったより小さかったらしく、柄がふちに引っかかっている。
「あんたさぁ、右手の鎌もそうだけど、ダンジョンじゃそんなの邪魔なだけよ?」
頭を低くして中に入る我が主をマリィがたしなめる。現実はなかなかに過酷だった。
「問題はない」
しかし我が主がそう返した直後、マリィの目の前で剣と大鎌がフッと消え去った。
「……まさか、収納魔法? あんた、魔法が使えるの!?」
収納魔法は、異空間にアイテムを収める便利な術だ。ただし、それなりに難しい。
いかにも戦士でございといった風体の我が主が使えば、驚かれもするか。
「あんた、一体何なのよ。そのナリで魔法まで使えるなんて……」
「俺は何者か。――人はどこから来てどこに行くのか。命とは、愛とは、運命とは」
「誰もそこまで壮大なテーマで話しちゃいないわよ!?」
お、上手いはぐらかし方。
とか思ったが、単に自問自答で自己完結しただけだな、これは。
「っていうかぁ~、最初から剣も鎌も、収納しておけばよかったのではぁ~?」
後ろから、三女リリィが小声で突っ込んでくる。
それに対し、我が主は完全な無言。だが私は全力で『ですよねー!』と賛同する。
浪漫を追求するのは勝手だが、それで余計な手間を増やしてどうすんだ。
「ね~! 三人とも、早く行こうよ~!」
奥からシェリィの声がする。
彼女が振るたいまつを目印にして、我が主と妹二人はダンジョン内に踏み込んだ。
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