黒き魔王のヒストリア~人と魔族となりきりロールプレイヤーの魔王様と使い魔の私~

はんぺん千代丸

文字の大きさ
10 / 13

9.待ち受けるものと冒険者の決意

しおりを挟む
 地下一階、二階、共に大した収穫なし。ついでに戦闘もなし。
 ここは枯れダンジョンか、などと私が思っていたら、異変は地下三階で起きた。

「あ、ヤバ……」

 地下三階に降りた直後、真っすぐ伸びる通路を前にして先頭のシェリィが呟いた。
 そこに立ち止まった彼女がこっちを振り向く。
 頬に、汗が伝っていた。顔は笑っているが、その笑みからは余裕が消えている。

「……嘘でしょ、やめてよね」

 姉の表情を見て何かを察したか、マリィもめんどくさげに息をついた。
 リリィは自分の杖をギュッと胸に抱いて、

「い、一回、戻った方がぁ……」
「それはできないかな。次に来るまでに外に出てるかもだしね~」

 腰に提げていた長剣を抜き、シェリィが妹の提案を却下する。
 三姉妹の間には、これまでにない緊張感が漂っていた。
 わだかまる闇の先に、高位冒険者三名をして恐れを抱かせる何かがいるのだ。

「――鉄火場か」

 と、我が主も背中の巨大剣に手をかける。だが、

「あんたは帰りなさい」

 マリィが、我が主にそう告げてきた。

「何故だ。俺は壁役のはずだが」
「まぁね~、そうなんだけど、ちょ~っと相手が悪いかなって~」

 尋ねる我が主に、シェリィが苦笑しながら首をひねった。
 このような事態はさすがのSランク冒険者も想定していなかった、ということか。

「新人の出る幕じゃないってことよ。あんたは戻ってこの事態をギルドに報告しなさい」

 マリィの声は鋭く、そして我が主を睨む瞳は冷たかった。
 だが、その奥にこのけったいな変態新人冒険者に対する気遣いが垣間見られた。

「フ。心配は不要だ。俺とて人から『闇夜に堕天せし銀仮面の復讐者』と呼ばれた男だ」

 そうな。そう呼ぶヤツもいるよな。名乗ってる本人とかな。
 まぁ、我が主も今はどこに出ても痛々しい姿だが魔王だ。戦うすべは心得ている。

「――――ッ! リリィ!」

 退こうとしない我が主に目尻を吊り上げて、マリィが妹を呼ぶ。
 するとリリィが「はぃ~!」と言って、我が主へかざした札を握り潰した。

 それは生還符。
 ダンジョン脱出時に用いられる、短距離転移の効果を持つアイテムだ。

「待て、何をする。俺は――」

 我が主の足元に、青白い光の魔法陣が発生する。

「あのね、カッコつけ仮面、よぉ~く聞きなさい!」

 転移の魔法が発動する瞬間、腰に手を当てたマリィが我が主に向かって吼えた。

「仮にあんたが私達より強かったとしても、あんたは新人で私達はベテランで、あんたは後輩で私達は先輩なの。だから帰れ! 帰って、生き残りなさい!」

 その叫びを耳にしながら、私と我が主はダンジョンの入り口に転移した。

「…………」
『我が主……』

 転移してから数分、我が主はずっと入り口の前で立ち尽くしている。
 ショック、だったのだろう。さすがに。

 冒険者として名を上げることが、我が主の目的だ。
 それを考えれば、あの三姉妹の行く末は私達の目的に何ら関わるものではない。
 だから、この結末を受け入れて、言われた通りにギルドに戻ればいい。

 ――なんて、そんな割り切り方、このお人よしにできるはずがないのだ。

 人の紡ぐ物語を愛し、人と魔族が争わないよう尽力し続けてきた魔王がこの男だ。
 そんな男が、決して嫌えない性格をした三姉妹に助けられて、何を思うのか。

 長女は陽気で明るいムードメーカーで、しっかりリーダーシップを発揮していた。
 次女は当たりこそキツかったが最後の最後まで我が主を気遣ってくれた。

 三女だって、一見気弱だが地下三階では次女と共に我が主を逃がす気概を見せた。
 嫌いようのない、実に好ましい性格をした三姉妹だった。
 その彼女達に逃がされて、我が主がショックを受けないワケが――、

「よし、解析・検証・構築、完了!」

 ……え? 何が?

「あれ、ロンちゃん、どうかした?」
『あ、何か久々に我が主の素の口調聞いた気がする。ではなく、何が完了したって?』

「いや、だから、今の転移魔法の構造を解析して、元の場所に転移する魔法をね?」
『この場で組み上げたのか!? 転移魔法ってかなり難易度が高い魔法なのに……』
「そうだね、普通は難しいよね。でもほら、僕、魔王だし」

 顔を銀仮面で覆ったまま、我が主ははにかむように笑って見せる。
 うんうん、険しさには程遠いこの柔和さが、本来の我が主の持ち味なんだよな~。

『だが、我が主よ。もしや、ダンジョンに戻るつもりなのか?』
「そりゃあ、戻るさ。戻らない理由がないよ」

 それは、あの三人を助けることで、冒険者としての名声を得やすくするためか?

「…………あ~」

 我が主、何だその『その手があったか~』ってツラは。

「いやぁ~、さすがロンちゃん、頭が回るね。考えもしなかったよ」
『何だおまえ。つまりは、一切の打算なしであの三人を助けに行こうというのか?』
「だって死んでほしくないでしょ、あんないい人達」

 全く、お人よしめ。
 だがいいぞ、それでこそ我が主だ。やはりおまえはそうでなくては。

「でもね、僕が助けに行く理由はもう一つあるんだよ」
『もう一つの理由?』
「ダンジョンの地下三階にあった気配。あれは多分――、魔族だ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

処理中です...