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もしも君が同じならば
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ノエルは荷物の奥底から出した古びた手帳を見つめていた。
見つけたのは荷物の整理をしていた時だった。
木の皮で包まれたそれには『ノエルへ』と書かれた紙が挟まれていた。
母が書いた自分宛のものだとすぐにわかるそれを開くにはまだ心の整理がついていない。
「ノエルーノエルー?」
シシリィが呼ぶ声に我に帰れば慌てて手帳を荷物の奥底へ戻した。
「あ、いたぁ。ノエル、片付けできた?」
「まだだ…そんなに荷物が多いわけでないのにすまない」
「いいよ。ディディが少し休んだらどうかって」
「……大丈夫だ」
首を振るノエルだがシシリィは唇を尖らせてその手を取った。
顔を上げれば不満そうな色が見えている。
「だめ。俺と一緒にお茶しよう?ノエル、荷物整理って言ってずっと部屋にこもったままでしょ。ディディのお父さんも心配してたし、顔出して。じゃないと呼びに来た俺の顔が立たないでしょ」
「でも…」
「俺ね、ノエルのことちょっとずつ好きになってる気がするんだ。もちろんディディも。番だから惹かれているだけかもしれない。でも、そうじゃないところもあるって信じたい。だから一緒にお茶しておしゃべりして俺たちのこと知って好きになろう」
シシリィに笑いかけられ手を取られる。ノエルは少し戸惑いつつもうなずいた。
部屋を出て歩いていく。時折犬族や猫族が興味深そうにノエルを見上げてきた。
ノエルは己の顔にある鱗を隠すように顔をそむけた。
シシリィはそのしぐさを見つめて足を止めるとノエルの前に回りそっと顔に手を当てた。
ノエルはシシリィを見つめるが眉を下げている。
「ノエル、顔上げて。恥ずかしがらないで。ノエルの鱗はとってもきれいだよ。艶やかで光っていて、だれも持っていない素敵なものだから」
「でも…これがあると半獣だとすぐに…」
「うん、わかっちゃうね。でもノエルが恥ずかしがってると、ノエルを番にした俺たちまで興味津々でみられちゃうから堂々としていて」
「……でも」
「もう…そうやって顔暗くしてる子にはこうだ」
シシリィが笑う。
何をされるのかと思えば唇が重なる。
目を丸くし呆然と、離れていくシシリィの笑顔を見つめた。
満足そうなシシリィはノエルの手を引いてまた歩き出す。
ディディエと使用人たちがお茶会の準備をしているらしい部屋に入れば甘いお菓子の香りが鼻をくすぐった。
「ディディ、ノエル連れてきたよ」
「遅かったな。どうした」
「ノエルが恥ずかしがってるからちょっとチューしちゃった」
「……は?」
「ふふふ、ほら、ノエル座って。ノエルはどんなお茶が好き?甘いもの?少し酸味のあるもの?」
「シシリィ、ノエルが困ってるだろう」
「どうせだからいろんなものを飲んでみようよ」
ディディエの言葉に耳を貸さずノエルのそばに座ったシシリィはカップを手にすれば一つ一つ茶葉を見ていく。
まずは自分のお気に入りのものを、それからノエルが喜んでくれそうなものを探していた。
ノエルはシシリィを見つめてそれからディディエを見た。
シシリィの強引さに半ばあきれた様子ではあるもののディディエもまんざらではないのか茶器を手にしている。そばをとことこと猫族が歩き回り三人のための茶菓子を並べている。
「ノエル、木の実は好きか。この前鼠族が土産に持ってきた。領地で栽培したものらしい」
「ちょっと炒ったやつおいしいんだよね」
「お前は食べすぎると具合を悪くするんだからほどほどにしておけ」
「わかってるよ」
軽口をたたきあう二人を見つめて自分の目の前に置かれた皿を見つめていたノエルだったが胸が苦しいことに気づいた。
手を胸元に寄せてうつむく。目ざとく気づいたのはディディエだった。
茶器を置いてノエルのそばに膝をつく。
「ノエル?」
「どうしたの、ノエル」
シシリィもそばに来ればしゃがみこんでノエルを見つめる。
「苦しい…」
「苦しい…大変!ディディ、お医者さん呼ばないと」
「あぁ。人族の医者だな」
「ちが…違うんだ。そうじゃなくて」
ぽた、と雫が落ちた。
ディディエとシシリィは困惑する。何故ノエルが泣くのかわからないのだ。
ディディエが同じように動きを止めていた猫族へ目くばせをすれば彼らは慌てて部屋を出ていく。少しの間のあと小さめのタオルを一人が持ってきてディディエに渡した。
「ノエル、話せるか」
「無理にとは言わないけど…」
「俺……俺も、人族か獣族ならよかった」
止まらなくなった涙を拭いながら絞り出すようにノエルが告げる。
シシリィがそっと手を握ればディディエが濡れる顔を拭く。
「二人が優しくて、暖かくて…ずっと一緒にいてほしいって思ったのに……俺が、竜の一族の血を引いてるから、二人と一緒にいられないなんて」
一緒がいい、とノエルはつぶやいた。
見つけたのは荷物の整理をしていた時だった。
木の皮で包まれたそれには『ノエルへ』と書かれた紙が挟まれていた。
母が書いた自分宛のものだとすぐにわかるそれを開くにはまだ心の整理がついていない。
「ノエルーノエルー?」
シシリィが呼ぶ声に我に帰れば慌てて手帳を荷物の奥底へ戻した。
「あ、いたぁ。ノエル、片付けできた?」
「まだだ…そんなに荷物が多いわけでないのにすまない」
「いいよ。ディディが少し休んだらどうかって」
「……大丈夫だ」
首を振るノエルだがシシリィは唇を尖らせてその手を取った。
顔を上げれば不満そうな色が見えている。
「だめ。俺と一緒にお茶しよう?ノエル、荷物整理って言ってずっと部屋にこもったままでしょ。ディディのお父さんも心配してたし、顔出して。じゃないと呼びに来た俺の顔が立たないでしょ」
「でも…」
「俺ね、ノエルのことちょっとずつ好きになってる気がするんだ。もちろんディディも。番だから惹かれているだけかもしれない。でも、そうじゃないところもあるって信じたい。だから一緒にお茶しておしゃべりして俺たちのこと知って好きになろう」
シシリィに笑いかけられ手を取られる。ノエルは少し戸惑いつつもうなずいた。
部屋を出て歩いていく。時折犬族や猫族が興味深そうにノエルを見上げてきた。
ノエルは己の顔にある鱗を隠すように顔をそむけた。
シシリィはそのしぐさを見つめて足を止めるとノエルの前に回りそっと顔に手を当てた。
ノエルはシシリィを見つめるが眉を下げている。
「ノエル、顔上げて。恥ずかしがらないで。ノエルの鱗はとってもきれいだよ。艶やかで光っていて、だれも持っていない素敵なものだから」
「でも…これがあると半獣だとすぐに…」
「うん、わかっちゃうね。でもノエルが恥ずかしがってると、ノエルを番にした俺たちまで興味津々でみられちゃうから堂々としていて」
「……でも」
「もう…そうやって顔暗くしてる子にはこうだ」
シシリィが笑う。
何をされるのかと思えば唇が重なる。
目を丸くし呆然と、離れていくシシリィの笑顔を見つめた。
満足そうなシシリィはノエルの手を引いてまた歩き出す。
ディディエと使用人たちがお茶会の準備をしているらしい部屋に入れば甘いお菓子の香りが鼻をくすぐった。
「ディディ、ノエル連れてきたよ」
「遅かったな。どうした」
「ノエルが恥ずかしがってるからちょっとチューしちゃった」
「……は?」
「ふふふ、ほら、ノエル座って。ノエルはどんなお茶が好き?甘いもの?少し酸味のあるもの?」
「シシリィ、ノエルが困ってるだろう」
「どうせだからいろんなものを飲んでみようよ」
ディディエの言葉に耳を貸さずノエルのそばに座ったシシリィはカップを手にすれば一つ一つ茶葉を見ていく。
まずは自分のお気に入りのものを、それからノエルが喜んでくれそうなものを探していた。
ノエルはシシリィを見つめてそれからディディエを見た。
シシリィの強引さに半ばあきれた様子ではあるもののディディエもまんざらではないのか茶器を手にしている。そばをとことこと猫族が歩き回り三人のための茶菓子を並べている。
「ノエル、木の実は好きか。この前鼠族が土産に持ってきた。領地で栽培したものらしい」
「ちょっと炒ったやつおいしいんだよね」
「お前は食べすぎると具合を悪くするんだからほどほどにしておけ」
「わかってるよ」
軽口をたたきあう二人を見つめて自分の目の前に置かれた皿を見つめていたノエルだったが胸が苦しいことに気づいた。
手を胸元に寄せてうつむく。目ざとく気づいたのはディディエだった。
茶器を置いてノエルのそばに膝をつく。
「ノエル?」
「どうしたの、ノエル」
シシリィもそばに来ればしゃがみこんでノエルを見つめる。
「苦しい…」
「苦しい…大変!ディディ、お医者さん呼ばないと」
「あぁ。人族の医者だな」
「ちが…違うんだ。そうじゃなくて」
ぽた、と雫が落ちた。
ディディエとシシリィは困惑する。何故ノエルが泣くのかわからないのだ。
ディディエが同じように動きを止めていた猫族へ目くばせをすれば彼らは慌てて部屋を出ていく。少しの間のあと小さめのタオルを一人が持ってきてディディエに渡した。
「ノエル、話せるか」
「無理にとは言わないけど…」
「俺……俺も、人族か獣族ならよかった」
止まらなくなった涙を拭いながら絞り出すようにノエルが告げる。
シシリィがそっと手を握ればディディエが濡れる顔を拭く。
「二人が優しくて、暖かくて…ずっと一緒にいてほしいって思ったのに……俺が、竜の一族の血を引いてるから、二人と一緒にいられないなんて」
一緒がいい、とノエルはつぶやいた。
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