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竜の婚姻 4
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竜の一族の婚礼衣装は人族や獣族とは異なっている。
人族が白絹でできた特別な服をまとうのに対して、獣族はそれぞれ伝統の衣装がある。
虎族ならば背中の大きく開いた服で体の縞模様を見せるし、鳥族ならばそれぞれの羽根の模様や色合いを引き出す色で染められた布をまとう。
竜の一族は、αであるならば甲冑をまとっていた。
戦闘用に作られたものではなく、あくまでも儀礼用に作られたものであり、華美な装飾が施されていた。
ノエルの黄金の鱗を際立たせるように施された装飾も甲冑そのものの色も暗い。だが美しい。体に沿うように走る植物の紋様や丁寧に磨き上げられたことがわかる輝きも、熟練の職人によるものである。
「ディディ、ノエルがかっこいい」
「そうだな。シシリィ、お前はきれいだ」
「ありがとう。ディディの虎族の婚姻衣装もいいね。かっこいいし、背中のもふもふが触り放題だ」
ノエルは今日竜の一族の長として都市に住まう獣族、人族の前に姿を見せる。
きらきらと輝く黄金の鱗は昨夜から丁寧に手入れをされていた。
シシリィも一度触らせてもらったがなめらかで、硬くて、それでいて美しかった。
ディディエとシシリィの婚礼衣装を見たノエルは顔を真っ赤にしていたことを思い出す。
「人族の婚礼衣装は男女に差がないんだな」
「ないわけじゃないよ。住んでる領によっても若干デザインが違うの。青龍領はこうした裾や袖の長い服が多いかな。ほら、背中もさ、魚の背びれみたいじゃん?ひらひらついてるの」
「白虎領だとそうしたひらつきはないな。どちらかというと体にぴったりしていた。男も女も裾は短めだったが腰回りに何重にも布を巻いていた」
「そうなのか。俺はあまり見たことがないから、いつか見に行けるといい」
ノエルの腕が腰に添えられる。
シシリィは高鳴る胸を抑えながらノエルを見つめた。
「俺は?」
「ディディエは手を組みたい」
大きな手のひらがノエルの手を包む。
三人で目を交わし笑いあえば歩みだした。
ノエルの希望で長としての挨拶は竜の一族が住む塔の中ほどより下、大きなバルコニーがある部分で行われることになっていた。
竜の兵士たちが並び、不測の事態に備える。
シシリィとディディエをそっと放したノエルは一人でバルコニーを進んでいく。
下は広場になっており、今日を待ちわびていた獣族や人族が集まっていた。
また周囲を鳥族が飛んでおり、来ることができない地域へと映像を届けている。
「大丈夫かな…」
「何もおきやしねぇよ」
「そうじゃなくて、ノエル失敗しないかなって」
「…それはあるかもしれない」
ディディエは己の顎に触りながら笑いを含んだ声で告げた。
シシリィははらはらしながらノエルの後ろ姿を見つめる。
今日のためにノエルはたくさん練習していた。どんな挨拶がいいだろうか、何を言うべきだろうか、自分がこの先どうしたいか、時折シシリィやディディエと話しながら詰めていったことを知っている。
「集まってくれてありがとう」
ノエルが口を開いた。
ざわつきが一斉におさまる。
眼下から一斉に視線がノエルへ向く。その圧に飲み込まれそうになりながらもノエルは続けて口を開いた。
人族が白絹でできた特別な服をまとうのに対して、獣族はそれぞれ伝統の衣装がある。
虎族ならば背中の大きく開いた服で体の縞模様を見せるし、鳥族ならばそれぞれの羽根の模様や色合いを引き出す色で染められた布をまとう。
竜の一族は、αであるならば甲冑をまとっていた。
戦闘用に作られたものではなく、あくまでも儀礼用に作られたものであり、華美な装飾が施されていた。
ノエルの黄金の鱗を際立たせるように施された装飾も甲冑そのものの色も暗い。だが美しい。体に沿うように走る植物の紋様や丁寧に磨き上げられたことがわかる輝きも、熟練の職人によるものである。
「ディディ、ノエルがかっこいい」
「そうだな。シシリィ、お前はきれいだ」
「ありがとう。ディディの虎族の婚姻衣装もいいね。かっこいいし、背中のもふもふが触り放題だ」
ノエルは今日竜の一族の長として都市に住まう獣族、人族の前に姿を見せる。
きらきらと輝く黄金の鱗は昨夜から丁寧に手入れをされていた。
シシリィも一度触らせてもらったがなめらかで、硬くて、それでいて美しかった。
ディディエとシシリィの婚礼衣装を見たノエルは顔を真っ赤にしていたことを思い出す。
「人族の婚礼衣装は男女に差がないんだな」
「ないわけじゃないよ。住んでる領によっても若干デザインが違うの。青龍領はこうした裾や袖の長い服が多いかな。ほら、背中もさ、魚の背びれみたいじゃん?ひらひらついてるの」
「白虎領だとそうしたひらつきはないな。どちらかというと体にぴったりしていた。男も女も裾は短めだったが腰回りに何重にも布を巻いていた」
「そうなのか。俺はあまり見たことがないから、いつか見に行けるといい」
ノエルの腕が腰に添えられる。
シシリィは高鳴る胸を抑えながらノエルを見つめた。
「俺は?」
「ディディエは手を組みたい」
大きな手のひらがノエルの手を包む。
三人で目を交わし笑いあえば歩みだした。
ノエルの希望で長としての挨拶は竜の一族が住む塔の中ほどより下、大きなバルコニーがある部分で行われることになっていた。
竜の兵士たちが並び、不測の事態に備える。
シシリィとディディエをそっと放したノエルは一人でバルコニーを進んでいく。
下は広場になっており、今日を待ちわびていた獣族や人族が集まっていた。
また周囲を鳥族が飛んでおり、来ることができない地域へと映像を届けている。
「大丈夫かな…」
「何もおきやしねぇよ」
「そうじゃなくて、ノエル失敗しないかなって」
「…それはあるかもしれない」
ディディエは己の顎に触りながら笑いを含んだ声で告げた。
シシリィははらはらしながらノエルの後ろ姿を見つめる。
今日のためにノエルはたくさん練習していた。どんな挨拶がいいだろうか、何を言うべきだろうか、自分がこの先どうしたいか、時折シシリィやディディエと話しながら詰めていったことを知っている。
「集まってくれてありがとう」
ノエルが口を開いた。
ざわつきが一斉におさまる。
眼下から一斉に視線がノエルへ向く。その圧に飲み込まれそうになりながらもノエルは続けて口を開いた。
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