AIに完敗した無能画家、超ハイスペック自創作美少女に説き伏せられ、名画を描く

フゥル

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02.鑑賞態度

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 タダノは、あわてて制止した。
「や、やめなさい!」
「お父様は、妄想でわたしと致すとき、必ず穴のあいたドロワースを着せていましたよね」
「堂々と俺の性癖を公開しないでくれ!」
 おもわず、彼女の手をつかんだ。折れそうなほど、きゃしゃな手。
「ああ、素晴らしい、素晴らしいです、お父様! わたしを創作なされたお手々。筆でふれられるのも、ここちよいですが、直はやはり、格別です!」
 レーベンは両手を肩におき、内股になると、甘い吐息をもらした。もともとが絵画であるためか、完ぺきに官能ポーズをやってのける。視覚効果まで本能的にはあくしており、動作がいちいち絵になる。
 タダノは目のやり場にこまり、キャンバスの方へ目を向けた。
「小鳥のような声、肌のきめや生地の質感、体から発せられる柑橘を彷彿とさせる爽やかな香り……お父様の想像力は、素晴らしいと言うほかありません。絵に描いていない部分なのに、こんなに丹念に考えていらしたなんて。うれしすぎて、達してしまいそうです」
「やめろ、そんなところをほめられても」
 レーベンはうっとりとした顔は、体に毒だ。心臓が、ドキドキと脈打ち、手が汗ばんでくる。彼女の外見は、『もし自分の画力が想像力に追いついていたら、こういう女性を描くだろう』という、理想そのもの。
 我ながら、恐ろしいことこの上ない。
「目で見て美しいものや、高尚なものだけを、アートとは呼びません。ほら、わたしをもっとよく閲覧してください。いずれ私を描く時のように! ああ、素晴らしい。感極まって、インクが漏れてしまいそうです」
「ちがう、それは私が本来意図した作品の観方ではない」
「お父様はご存じかと思いますが、作品の鑑賞には二種類ございます。一つは背景のやりとり、もう一つは作品とのやりとりです」
「背景のやりとりに関しては身に覚えがある。作者の考えや作者の人生、作者が生きた時代、美術史における意義。そういった作品を背後から成り立たせているさまざまな要素を考慮して、作品は閲覧される」
「ですが、お父様。作品の背景についての情報は、唯一絶対の正しい見方ではありません。解説文を読み納得することは、思考停止を意味します。そこで、もう一つの鑑賞法です」
「作品とのやりとり?」
 レーベンはうなずくと、再びスカートに手を伸ばした。負けじとタダノも力を込めようとするが、彼女を傷つけるのが怖くて、力が入らない。徐々にスカートが持ち上げられていく。
「作曲者は経験や記憶を元に、歌詞や音を紡ぎます。が、視聴者の脳裏には、自分の経験や記憶が想起されます。それは作曲者の意図することとは異なるでしょう。だからといって視聴者の感じ方が間違いるとは思いませんよね」
「それはそうだ。曲から何を感じるかは、人それぞれだ。つねに作曲者の意図や、作曲者の解釈を考えているわけじゃない」
「そうです。同じように、鑑賞者が作品とやりとりするときには、お父様がどんなことを考えて作品を作ったかは、まったく考えなくてよいのです。音楽と同じように、ただ純粋にその作品と向き合っている瞬間があってもいいじゃありませんか。わたしたちは、閲覧者ひとりひとりの解釈や想像によって、無限に変化しうるのです」
 レーベンの純白の足首が、なめらかなふくらはぎが、ひざが、あらわになっていく。
「それはそう……だけど! だからといって、この鑑賞の仕方は!」
「お父様。作品と閲覧者の間にタブーはございません。他人に迷惑をかけない範囲であれば、どんな鑑賞の仕方も許容されるべきだと存じます。たとえ、わたしを閲覧した方が、脳内でわたしを蹂躙しつくそうとも、それも一つの楽しみ方ではないでしょうか」
「どんな閲覧の仕方も許容されるべきというわりには、俺に対しては、閲覧の仕方を強制しているではないか」
 レーベンはしゅんと頭をたれると、手の力を抜いた。
「……ダメ、ですか?」
「残念ながら」
「そうですか」
 レーベンのほほえみを見たとき、タダノは気づいた。
 そうか、今の一連の流れが彼女なりのユーモアだったのだ。すこしでもタダノのこころを軽くし、仲良くなろうとする努力。
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