4 / 4
美少女鑑賞――結
しおりを挟む
一気呵成に描いたのだろう。
青年が執筆を終えたのとほぼ同時に、目黒美咲のイラストが送られてきた。
セーラー服を着た、少女の絵。
一見儚く見えるが、鋭い視線には力強さも見て取れる。
青年も、少女も、絵の完成度に言葉を失った。
完成だ。完成してしまった。
憧れの作家の表紙。
脚本術、小説術に忠実なプロット。
一流作家をコピーした文体。
理想の美少女をモデルにしたヒロイン描写。
「完成おめでとう」
「ありがとうございます」
「あなたの幸運を祈っているわ」
「お元気で」
「さようなら」
少女と別れたあと、青年は投稿ボタンを押した。
青年は今、好きなモデルを、好きな絵師が、本気で描いた絵の前に立っていた。畳二枚分の大作で、公募展の特賞を受賞した絵だ。
「ああ、僕はこれを見るために、今まで執筆してきたのか」
額縁の中で、黒髪の少女が、神秘的なまなざしをこちらへ向けていた。
目黒美咲は、別作品も某アイドルグループのメンバーの目にとまり、SNSで拡散、ネットニュースに取り上げられ話題になっていた。
目黒美咲は、今や時の人だった。
少女もまた、この絵がきっかけでベテランファッションデザイナーに声をかけられ、モデルとしての一歩を踏み出したらしい。
「ずいぶん、遠くへ行ってしまった」
二人の出会いが、お互いの才能を開花させたのだ。
二人を引き合わせたのは、今回の青年の最大にして、唯一の功績だ。
「夢のような一ヶ月だった」
11
結果は、予想通りだった。
目黒美咲の『お礼絵』のブックマーク数は1万を超え、爆発的に拡散されていた。
一方で、青年の小説のブックマーク数は0だ。
モデルの少女の美しさと、目黒美咲の拡散力を持ってしても、この小説は救えないらしかった。
「まあ、当然の結果だよな」
モチーフへの思い入れのあまり、持てる情報をどんどん使って小説を肉付けしたした結果、ストーリーが薄まり冗長になった。
小説模写で得た文体も、少女の美しさに関する説明文や過剰な形容詞、必要以上に緻密すぎる描写によって瓦解していた。
無理にシナリオ術の手法を取り入れようとした結果、ストーリーと登場人物と世界観が全てちぐはぐ。
肝心のヒロインも酷かった。少女の外面だけを模写してヒロインを作ったため、内面の解像度が致命的に低くなってしまった。仕草や行動を、『プロフィール設定』や『シナリオ上の役割』、『絵的な美しさ』からは説明できても、『ヒロインの過去からは説明できない』のだ。
救いようがない。
どんなに運がよくても、どんなにいいモチーフを得ても、どんなに取材を重ねても、どんなに全力を尽くしても、作者の技術がともなわなければ、駄作になる。
全てを完璧に準備し、実力を100%発揮しても、面白い小説を書けるとは限らない。
100×0=0
辛くなって、アプリの画面をスクロールした。すると、週間ランキングに名を連ねるブックマーク数1000を超える作品が100作表示された。
反射的に閉じ、SNSを見れば、仲間たちが投稿・更新している長編小説群が見えた。年下が大半なのに、どの作品のブックマーク数も10を超えている。
青年は、スマホから目を離し、夜空を見上げた。
「精一杯努力しても、人並み以下の小説しか書けなかった」
そして、ふと気づく。
無意識のうちに周囲を見て、ネタ探ししている自分に。
「何で? 何で、まだ小説を書こうとしているのだろう」
みじめさが極まったとき、脳裏に目黒美咲の言葉が蘇った。
「そうだ。それでも僕は――」
青年は久方ぶりに笑みを浮かべ、スマホに表示された少女の絵へ告げた。
「――好きなものを、好きなように書く、真っ白な時間が愛おしい」
青年が執筆を終えたのとほぼ同時に、目黒美咲のイラストが送られてきた。
セーラー服を着た、少女の絵。
一見儚く見えるが、鋭い視線には力強さも見て取れる。
青年も、少女も、絵の完成度に言葉を失った。
完成だ。完成してしまった。
憧れの作家の表紙。
脚本術、小説術に忠実なプロット。
一流作家をコピーした文体。
理想の美少女をモデルにしたヒロイン描写。
「完成おめでとう」
「ありがとうございます」
「あなたの幸運を祈っているわ」
「お元気で」
「さようなら」
少女と別れたあと、青年は投稿ボタンを押した。
青年は今、好きなモデルを、好きな絵師が、本気で描いた絵の前に立っていた。畳二枚分の大作で、公募展の特賞を受賞した絵だ。
「ああ、僕はこれを見るために、今まで執筆してきたのか」
額縁の中で、黒髪の少女が、神秘的なまなざしをこちらへ向けていた。
目黒美咲は、別作品も某アイドルグループのメンバーの目にとまり、SNSで拡散、ネットニュースに取り上げられ話題になっていた。
目黒美咲は、今や時の人だった。
少女もまた、この絵がきっかけでベテランファッションデザイナーに声をかけられ、モデルとしての一歩を踏み出したらしい。
「ずいぶん、遠くへ行ってしまった」
二人の出会いが、お互いの才能を開花させたのだ。
二人を引き合わせたのは、今回の青年の最大にして、唯一の功績だ。
「夢のような一ヶ月だった」
11
結果は、予想通りだった。
目黒美咲の『お礼絵』のブックマーク数は1万を超え、爆発的に拡散されていた。
一方で、青年の小説のブックマーク数は0だ。
モデルの少女の美しさと、目黒美咲の拡散力を持ってしても、この小説は救えないらしかった。
「まあ、当然の結果だよな」
モチーフへの思い入れのあまり、持てる情報をどんどん使って小説を肉付けしたした結果、ストーリーが薄まり冗長になった。
小説模写で得た文体も、少女の美しさに関する説明文や過剰な形容詞、必要以上に緻密すぎる描写によって瓦解していた。
無理にシナリオ術の手法を取り入れようとした結果、ストーリーと登場人物と世界観が全てちぐはぐ。
肝心のヒロインも酷かった。少女の外面だけを模写してヒロインを作ったため、内面の解像度が致命的に低くなってしまった。仕草や行動を、『プロフィール設定』や『シナリオ上の役割』、『絵的な美しさ』からは説明できても、『ヒロインの過去からは説明できない』のだ。
救いようがない。
どんなに運がよくても、どんなにいいモチーフを得ても、どんなに取材を重ねても、どんなに全力を尽くしても、作者の技術がともなわなければ、駄作になる。
全てを完璧に準備し、実力を100%発揮しても、面白い小説を書けるとは限らない。
100×0=0
辛くなって、アプリの画面をスクロールした。すると、週間ランキングに名を連ねるブックマーク数1000を超える作品が100作表示された。
反射的に閉じ、SNSを見れば、仲間たちが投稿・更新している長編小説群が見えた。年下が大半なのに、どの作品のブックマーク数も10を超えている。
青年は、スマホから目を離し、夜空を見上げた。
「精一杯努力しても、人並み以下の小説しか書けなかった」
そして、ふと気づく。
無意識のうちに周囲を見て、ネタ探ししている自分に。
「何で? 何で、まだ小説を書こうとしているのだろう」
みじめさが極まったとき、脳裏に目黒美咲の言葉が蘇った。
「そうだ。それでも僕は――」
青年は久方ぶりに笑みを浮かべ、スマホに表示された少女の絵へ告げた。
「――好きなものを、好きなように書く、真っ白な時間が愛おしい」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる