名医の回復魔術

ogirito

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第一章

決意

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忍び足で村のなかをあちこち見て回る。
村は閑散としている。
村の人々はだいたいが魔物を使役しているが、その魔物は各々の主の家の前にたたずんでいることが多い。
さらに警備がうろうろしていることが多く、なかなか出歩くことは難しい。

そんな厳しい状況下にも抜け穴はある。
まず警備だが、彼らは一日中警備しているわけではない。
この村の掟三条に、《絶食》といって一ヶ月何も食べずじっとしていなければならない期間が存在する。
それは村長や警備員にも当てはまる。
そして、こんなにも絶好の機会はないだろう。
俺はなんの躊躇もなく掟を破った。
そもそも、この掟に従っていれば僕は餓死しているだろう。
村人たちは大昔からこうした生活を暮らしているわけで、内蔵はそれに適応するために進化している。
僕のような王都出身でぬくぬく育ってきた子供が真似すれば、餓死は逃れられない。
もちろんそれは村長たちも知っている。知ったうえで、例外なく僕にもその掟を守らせようとしているのだ。
殺す気である。
なんとしても逃げ延びなければならないだろう。
この《絶食》期間中に。


僕と母と執事にかつて貸し与えられていた小屋は村の南端に在地する。
いまでは僕だけとなっているが、おかげで動きやすい。
もし執事や母が生きてあの小屋にいれば、全力で引き止められていただろう。
それだけ、僕は今危険を冒している。
そしてそれだけのことをしでかすメリットも、自信もあった。
僕は全身くまなく消臭の効果のある薬品(自作)をかけ、自身の魔力を極限まで薄くする薬(自作)を服用している。
この村には優秀な薬師がいて、僕もそこで本などを借りたり、手伝いをしたりして小遣い稼ぎをしていたので、ある程度の知識が蓄えられていたのだ。
そうして自作した薬のおかげで、《絶食》期間中に村人たちの使役魔物にもバレれずに動けている。
ちなみに魔力を極限まで薄くする薬はある猛毒の薬草の汁から作っており、分量が難しかったがなんとか成功させることができた自慢の薬だ。
この村の優秀な薬師でもきっとマネはできないだろうと自負している。




(なるほど……絶食期間中も門番たちはいるわけね)



おそらく特別待遇を受けているのだろう。
門番はちっともやせ細っておらず、目を凝らしてみれば口元に肉の破片かなにかがこびりついている。
彼は眠気に襲われているらしく、うとうとしていて僕には気づいていない。
そばには普段はいないはずの使役魔物であるウォーウルフたちが控えていた。
まぁ、普通に考えれば絶食期間がもっとも脱獄しやすい。
尋常以上の警戒をするのは当然だろう。
彼らに気づかれてはないとはいえ、そろそろ引き返したほうがいいだろう。
まだ《絶食》一日目だ。
これから時間はたっぷりある。


僕はゆっくり引き返し、南方へとすばやく移動する。
村もそこそこ広いので、端から端への移動は徒歩だと十分くらいはかかる。
僕の小屋が見えてきたあたりで、なにかの気配を感じ身を隠す。
物陰からこっそり様子を伺えば、赤茶の髪色で、背丈の高い青年がうろうろしていた。
背中にはなにやら大きな風呂敷を担いでいる。
僕は相手の正体がわかると、おもむろに近づいて声をかけた。

「ったく、こんなところでなにやってるんですか……バンズさん」

それは僕の狩りでのパートナーである、イケメンのバンズだった。

「っ!?……びっくりした。お前どこいってたんだよっ、掟破りは重罪だぞ!?わかってんのか!?」

声をひそめてバンズは僕をしかってくる。
ひどく動揺しているようだった。
いや、それだけじゃないだろう。
ひどく焦っているようでもあった。

「それはバンズさんも同じじゃないですか……」

現在進行形でバンズも同罪だ。
あなたに言われたくない、と声高に叫びたいところだ。

「……まあいい。それより早くなかに入るぞ」

バンズはすばやい身のこなしで僕の小屋へと入っていった。
……それ俺の家なんだけどなぁ。

小屋に入ると、バンズが背負っていた風呂敷を床に下ろしひろげた。
中には果実や草が詰められていた。
食料だ。

「ユリウスは俺たちと違って、絶食なんて無理だろ。だから、毎日の狩りでコツコツ貯めてたんだ。まぁ、保存状態悪いし、悪くなっちまってるものもあるがな」

確かに状態の悪いものもあるが、これだけあれば餓死することはなくなるだろう。
そこに置かれた色とりどりの果実や食べられる草などをじっと見る。
食料はすべて泥が綺麗にふき取られており、本人の想いが伝わる。

僕がこの村に来て半年が過ぎている。
この村で信用できるやつなんて、アイツ以外にはいないと思っていたがー―。
毎日バンズとは一緒にいる。
そしてこの村を出て行くことは、俺一人ではどうにもならないだろう。
仲間がいる。
ーーいいかげん、こいつのことを認めてやってもいいだろう。

「ありがとな、バンズ」

「……へへっ、初めて笑ったな。ユリウス」

「……ああ」

指摘されて初めて、自分が笑っていることに気づいた。

「本当に……。久しぶりだよ、こんなに嬉しいのは」

「ま、相方が死んじまうってのは、いい気分じゃないからな」

バンズも照れながらも、それを隠すことなく笑みを湛えていた。
バンズは以前、あるカップルの一方が恋人を殺そうとしたなんて物騒な話をしてくれたことがある。十年前のことらしく、バンズは他人の事のように語っていたが、おそらく自分の体験談だろう。

そんなバンズだからこそ、本気で相方を失いたくないと考えてくれているのだろう。
実をいうと、他の村人からその話が事実であるか既に裏をとっていた。
バンズが嘘を言っていないと判明したが、それでも僕は《監視役》の存在に怯え、ずっとあることを言い出せないでいた。
だが、僕はこの時点でバンズをある程度信用できる相手と考えていた。

「なあ。バンズ」

「んぁ?なんだ?」

きっと、ここが分水嶺だ。
覚悟を決めるときなんだ。

「僕たち二人で一緒に――――この村を抜け出さないか?」
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