峻烈のムテ騎士団

いらいあす

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第三話 ガルガレオスの生活 その2「団員たちの部屋」

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「ふう、やっと終わった」

二時間後には作業が完了しいた。
タナカは額の汗を拭いて、自分の仕事の結果を見る。
大した仕事ではないが、それでも彼の中で爽やかな気持ちがが生まれていた。

「これで枯れたら責任とって死刑な」

さっきの爽やかな気持ちは水を差されて今死んだ。

「指導したのはあんただろうが」
「大事なもんだから、そのぐらいの覚悟でやって欲しいってことだ。
それより、要塞の中を案内してやろう。団員がどの部屋にいるかぐらいは把握しておいてもよかろう。
ちなみに我の部屋は食事室の一つ上、つまり最上階だ」

するとまた一人でに足を進めるデーツ。タナカはまたしても慌てて彼女を追った。
最初に案内されたのは、前にアストリアと会った教会であった。

「ここがアストリアの部屋だ」
「ここで寝てたし、そうなんだろうなと思ってたが、なんで教会なんかを部屋に」
「アストリアは教会の出身でな。落ち着く環境なんだ」
「落ち着きある人間は声を上げたりしないと思うが」
「あれでも彼女なりの落ち着きなんだよ。
アストリアーいるかー?」

デーツがドアを静かにノックする。すると、その音を1000倍にして返すかのようにアストリアの声が響く。

「いるぞ!!!!!」
「ドア一枚挟んでるのに耳がキーンってなるんだが、なんだってこんな大きな声で喋る必要が」
「個性だよ個性。入ってもいいか」
「いいぞ!!!!!!!!!!」

ドアを開けると、そこではアストリアがキャンバスに木炭を使って何か珍妙な模様を描いていた。

「今日はお絵描きの日か?」
「ああ!!」
「何? この何? いやなんだよこれ」
「なんか思い浮かんだ!! だから描いた!!」
「アストリアは芸術派なんだ」
「芸術?」

複雑なようで、単に雑なだけのように見える渦巻き模様は、タナカの目には芸術というより、古代人の解読不能な文字のように見えた。
これが芸術なら一生理解できる気がしないと思うタナカであった。

「で! なんの用事だ!!!」
「特に用事はない。タナカに各自の部屋を案内してるだけだ。
用がある時に場所がわかってないと不便だからな」
「そうか!! じゃあ場所をわかりやがれ!!」
「え、あ、うん」


場所がわかったので、次の部屋へと移動する。その場所はタナカのいた牢よりさらに進んだ先にあった。

「ここがローナの部屋だ。ローナいるかー?」
「いるよー」

扉から顔だけすり抜けて出てくるローナにタナカは一瞬ギョッとした。

「タナカ君漏らした?」
「漏らさねえよ」
「それよりもローナ。タナカに今各自の部屋を案内してるんだ」
「へーそうなんだ。じゃあ遊んでく?」

扉が一人でに開く。しかし部屋の中は真っ暗で何も見えない。

「何も見えないが?」
「ごめんごめん、幽霊って暗い中でも目が見えるもんだから」

ローナは部屋の前に設置してあるロウソク一本を念力で動かすと、何やら唸り声を上げてじっと見つめるのであった。

「うーん……よもーん!」
「よもーん?」

謎の掛け声と共に、ロウソクの先に火がついた。

「ふう、念力は動かすだけじゃなくってこうやって自然発火も起こせるんだ」

そう言いながら彼女は部屋を飛び回り、各所に設置してある燭台に火をつけた。
部屋が明るくなるにつれて、部屋の全貌が生者の目に飛び込んでくる。
まずタナカの目に真っ先に映ったのは、刃先が錆たギロチン台であった。

「いいでしょこれ! なんと、ここに血の痕がまだ残ってるんだよ」

お気に入りのおもちゃを自慢するかのように、刃に付着している赤黒いシミを指さすローナ。そしてその周りには様々な処刑道具や拷問器具が置いてあった。

「うわあ、悪趣味!」

思わず本音が漏れるタナカ。

「幽霊だから、死に感する物に親近感が湧いてついつい集めちゃうんだよね。
でもずっと飾ってると可愛く見えてくるんだよ」
「どこが?!」
「ほら、ここの尖り具合とか、この辺の曲がりの角度とか」

めいいっぱい説明してくれるものの、その魅力についてタナカには一切伝わってこない。

「ていうかそもそもこの部屋自体がすごい陰気臭いんから余計に気が滅入るわ」
「ここは昔、処刑部屋だったからな」
「そうだよー。ここで何人もの人間が無惨に死んだんだよ。こんな風に」

ローナはギロチンを念力で操り、その刃を自分の首に落とした。

「ぐえー! て、もちろん私は既に死んでいるーあはははははは」
「つ、次行っていいか?」
「暗殺者の割には、普通の感性がまだ死んでないんだな」

デーツの皮肉を聞きながら、タナカは次の場所を目指す。


「そんなげんなりした顔をするでない。この要塞は滅多に人の入れない秘密の花園なのだぞ、もっと貴重な体験に喜べ」
「大声聞かされて、処刑場で残酷な道具見て、そんなツアーに喜ぶ人間がどこにいんだよ」

案内された先は、1階の奥にある、縦10メートル程の高い扉のついた大きな部屋であった。

「ここは元々はダンスホールとして使われていた大きな広間でな」
「ダンスホールなんてあるのかここ」
「歴史ある建物だから、家主が変わるたびに使用用途が変わるのだ」

デーツは扉をノックするが、返事がない。

「留守か?」
「いや、ここはバーベラの部屋なのだが、あいつは部屋にいるはず。だとするとおそらくは」

デーツは扉に耳をつけ、聞き耳を立てた。タナカも真似して扉に耳を当ててみた。
すると聴こえてくるのは女性のあえぎ声。タナカはまさかと思ったが、バーベラの部屋と聞いて嫌な予感が頭から離れない。
再度デーツがノックをした。今度はかなり大きな音だ。そしてその音がするや否や、バーベラが扉を開けた。

「ごめんごめん。ちょっと盛り上がっちゃって」

そんな盛り上がっちゃったバーベラは頬を赤らめ息も荒く、またタナカの見知らぬ女性を脇に抱いていた。その女性もバーベラと同様、あるいはそれ以上に赤い頬と荒い息遣いをしており、また、恍惚な表情を浮かべてバーベラの肩に寄り添っていた。
そして二人とも一つのシーツに包まれているが、肩から胸元まで肌が露出していため、裸の状態であることが、誰の目にも明らかだった。
盛り上がるというよりも盛っていたのだ。

「なあ、そいつは」
「ああタナカ。僕の隣の子は所謂お店の女の子であって団員じゃないよ」
「ここは滅多に入れない秘密の花園って、さっき聞いたんだが?」
「ある意味では秘密の花園だろ?」

デーツは先程の自分の発言について、特に詫びれもせずにそう言った。

「しかしこの子は大当たりだったよ。一晩中色々楽しめた」
「そういえば昨日は寝てないとか言ってたがそういうことかよ」
「そういうことだよ。それで、団長」

バーベラはデーツに耳打ちして何か伝えた。

「ふむふむ、なるほどなるほど。つまりそれはピクニック日和ってことか?」
「うん、ピクニック日和だよ」
「ピクニック日和?」

耳打ちした内容が単なるピクニック日和だって情報だったことにタナカは違和感を覚えた。

「じゃあ、第2ラウンドは早めに終わらせて出かける準備しろよ」
「甘いね。今やってるのは12ラウンド目だよ。じゃあ、サクッと済ませるよ」

バーベラが扉を閉めると、また喘ぎ声が聞こえ始めた。

「大丈夫なのかあれ?」
「大丈夫だ。あいつに大広間を与えたのは、いくらでも声を出してもいいようにだ」
「いやそういう意味でなく」
「ああ、アストリアは一人だと意外と大人しいんだ。だからあの部屋を与えなくても充分」
「いや、そういうことでもなく」

話をはぐらかせてるのか、本当に意味がわかってないのかは置いておくとして、この暖簾に腕押し感がタナカをイラつかせた。
しかし、そんなイライラも解さずにデーツは次の部屋に向かう。そこは要塞の中央の階に位置していて、扉はなくただ看板が立てられているだけだった。

「なんだあの看板」

タナカは遠目で看板を確認する。

「誰も入るなっていう看板だ。マァチは人を部屋にあげたがらなくてな」
「まあ、人を好かない性格なのはわかっていたが」
「おーいマァチいるかー」
「いなーい」

いないという返事が返ってきたので確実にいる。

「出てこないなら、お前の部屋にタナカを送り込むぞ。よいな」

よくなかったので慌てた様子でマァチが部屋から飛び出してきた。

「殺すぞ」

しかも、かなり物騒な挨拶のおまけ付き。

「タナカ、私のテリトリーを侵すなら本気で殺す」
「いや、別に俺は行く気なかったんだけどこのおばさんが勝手に」
「殺すぞ」

今度の殺すぞは、このおばさんことデーツの台詞である。

「ええ!? 昨日自分で子供達におばさんって名乗ってただろ!」
「自称と他称の溝は深いのだ。次言ったら本気で殺すぞ」

30秒程の間に殺すぞと三度も言われた暗殺者のタナカ。だが彼の命の危機は今の主題じゃないので次に行こう次。

「で、団長。何の用? 今ボーッとするのに忙しかったんだけど」
「初めて聞くわそんな矛盾した忙しさ」
「実はな。今日はピクニック日和なんだ」

デーツのピクニック日和という単語に、マァチは何かを察したのか、ボーッとしていた顔つきが少しだけ鋭くなった。そのため、何か意味のあるやりとりが行われているのだと、タナカは読み取った。

「つまり……それって……サンドイッチが食べたいってこと?」
「うん、食べたい。卵のやつ」

マァチの顔がまたボーッとし始めた。どうやら自分の読み違いだったと悟るタナカであった。

「じゃあ出来次第出発ってことで。もちろんなるべく早く作ってくれよ」
「はいはい」

また自分の部屋へと帰っていくマァチ。しかし急用を思い出したかのように、踵を返してタナカに近づきこう言った。

「殺すぞ」

そしてまた部屋に戻った。

「なんだよあいつ」
「部屋の奥は厨房と繋がってるから、他人が入るのを料理人のプライドが許さないんだろう」
「いや、そういう意味でなく」
「それより、お前に次の仕事をやろうと思う。今度は外の手入れだ」
「外?」
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