峻烈のムテ騎士団

いらいあす

文字の大きさ
33 / 57

第七話 ちびっ子ナイトパーリィ その5「ちびっ子」

しおりを挟む
「マァチダメだよそれは!」

ローナが慌てて電気フィールドまで飛んでいく。
しかし、フィールド内に入った途端にローナの霊体が砂嵐のように乱れだした。

「な、なんだ!?」
「原理はわからないけど幽霊って、電気が強いと体が思うように動かせなくって」
「な、ら、無理し、て、入、るなよ」

タナカは口の動きもおぼつかなくなって、言葉がうまく発せられないようになっている。

「でも、入らないとマァチの体も危険なの!」

タナカはマァチの方を見る。いつも無表情な彼女であるが、苦悶のために顔を歪ませている。彼女にもダメージがあるのは確かであった。

「マァチ! もうやめよう! こんなバカとのバカな戦いにムキになるなんてバカバカしいよ!」

バカを連呼しているローナだが、これでもかなり真剣な表情で訴えている。
そしてマァチの方へ向かうも、体が思うように動けないのか、砂嵐のように体がバラバラになっては戻るを繰り返した。

「団長は渡さない! 渡さない!」
「だ、なんで、だ、で俺」

最早呂律が回らないために言い返す言葉が出てこないタナカ。このまま焼け死んでしまうのか。
そんな時、タナカの目の前に何かが飛んでくる。トイ・レットーだ。

「な!?」

なぜこんなところにトイ・レットーが? と投げられた方を一斉に向く三人。そこには親指を立てて誇らしげな表情をしたアストリアが立っていた。
マァチとローナは呆気に取られたが、タナカだけは何かを察したようで、全身全霊に力を込めてトイ・レットーの元まで歩いていく。
その距離は僅か1メートル程であるが、1センチ足を進めるのにも、今のタナカには困難な状態。
それはまるで、彫像の脚を素手で曲げるが如く、不可能に思える挑戦。
だが、"その挑戦に俺は勝った"と言わんばかりに、彼はトイ・レットーの穴に顔を突っ込むのであった。

「あれは!」

呆気に取られていたマァチもローナもタナカの方に目をやった。それと同時に、タナカは穴に顔を突っ込んだまま逆立ちする。そのピンとした足の張り様は、天空にまでそびえ立つ塔である。

「ぷっ! ふふふ、あははははは」

その光景を見てマァチは膝から崩れ落ちて、腹を抱えて大爆笑をした。そして力が抜けたために、電気のフィールドが崩れていく。

「よし、今だ!」

ローナは空かさずマァチの体に取り憑き、その行動権を掌握した。

「もうこんなことしちゃダメだよー」

マァチ自身の手を使って、彼女の頭を撫でるローナ。

「で、でもあいつがふふふっ」

意識を完全に乗っ取りきれていないのか、時々笑い声混じりのマァチの反抗の声が漏れる。

「大丈夫大丈夫。あのアホ代表みたいな格好を見なよ。あんなことしてる奴を誰が好きになると思う?」

別に自分だって好きでこんなアホ代表みたいな格好をやったわけじゃないと、タナカは穴の中で思ったが、マァチが落ち着くならと、喜んでアホ代表の格好を続けた。そしてあることに気がついた。

「ちょ、あ、待って。抜けなくなった。あ、マジで、あ、ちょ」
「ふひっ!!!!」

その一言にマァチは声にならない声で笑った。そしてひとしきり笑い終えた後で、ローナがマァチの体を借りながら、優しく語りかけ横になる。

「大丈夫もう大丈夫だよ。ゆっくりおやすみ」

そしてマァチが眠りにつくと、ローナは体を抜け出た。

「いやー見事な恥晒しだったねタナカ君」
「俺は日に何度、褒めと侮辱を同時に受けにゃならんのか」

そんなタナカをアストリアが穴の中から引き出す。

「それよりアスティ、いいアイディアだったね。トイ・レットーとタナカ君の組み合わせはマァチのツボだもの」
「なんの話だ!!? 私はもうすぐ朝だから朝ごはんを持ってきただけだぞ!!!」

アストリアはトイ・レットーの中に残ったミートボールを入れて持って来たらしく、タナカの顔にはミートボールがくっついていた。

「なんにせよ助かったぜ」

タナカは今だに動けず、体が伸び切ったままアストリアの脇に抱えられている。そして朝日が彼の顔にさした。

「酷い夜だった・・・・・・」
「ごめんね。だけどマァチのことは許してあげて欲しいの。この子はタナカ君を怖がってるんだよ」
「俺を? 怖がる?」
「なんとなく察してると思うけど、マァチは杖がないと魔法が使えない。
だから杖を奪われたら、ただただ普通の女の子になっちゃう、みんなの足手まといになっちゃう、みんなに捨てられちゃう・・・・・・って本人は思ってる節があってさ」

ローナは眠るマァチの顔を撫でる。もちろんその手で彼女に触れることはできないため無意味な行為ではある。
無意味な行為ではあるけれど、それでもローナはやりたいと思っているからこそその行動をとっている。

「それでタナカ君が褒められてるのを見て、自分の取って代わる存在が現れたと警戒したんだろうね。
いつも不機嫌なのも、口が悪いのも、そういう恐怖心の裏返しなんだと思う」
「安心しろ。俺はお前たちの仲間にはなりたくない」
「安心しろ!! みんな同じこと思ってるぞ!!」
「なら、安心」

そう呟くタナカを見て、ローナは少しだけ笑った。

「要するにさ。ちびっ子なんだよマァチは。怖いという感情そのものに怯えるちびっ子。
だから、今までで一番勝手なお願いだけど聞いて欲しいの。この子が何言ってもちびっ子の戯言だと思って流してあげて」
「それにマァチは寂しがり屋なんだ!!」
「なんか自分達を棚上げしてるようだが、お前らも大概だからな?
そもそも俺が許そうが許すまいがお前らは好き勝手するだろ」

ローナとアストリアは何食わぬ顔で頷く。

「うん、だろうな。とにかく、こいつがちびっ子だってことだけは認めてやるよ。
ただ、デーツが俺の事気に入ってるなんてわけのわかんねえ誤解はもう勘弁だぜ」

その言葉にローナは一瞬考え込むが、すぐに笑顔で返事をする。

「まあそれを抜きにしても、みんながタナカ君の事を嫌いなのは変わらないからさ。身の安全は保証されないのは確実だよ。安心して」
「保証がないの後に、安心してって言葉が続くのおかしくね?
もうなんでもいいや。俺、なんか眠いや」

タナカはダメージのせいもあってか、そのまま眠りに入る。
彼を抱えてるアストリアが、大声で何か言いそうだったので、ローナは口元に指を立てて静観を促す。
流石のアストリアにもその意図がわかったのか、彼女は黙ってタナカを降ろす。

「二人共寝ちゃったし、今日は私達で朝ご飯作ろうか。流石に昨日の残り物出すのも団長達に悪いし」

ローナの言葉にアストリアは黙って頷き、二人は要塞の中に入っていった。
一方みなさんお忘れではないだろうか、タナカが戦いの最中に出した農家さんのことを。

「耕すベー!」

と、今も元気よく土のない場所にクワを下ろしている。
しかし、そのクワが運悪くマァチの杖に当たり音声が流れ始めた。

【「おばさん」「おばさん」「おばさん」】

と、またしてもおばさんコールが大音量で流れる。

「いやー今日はハメにハメを外し過ぎたよ」
「さて、子供たちはいい子に留守番してるだろうかな」

そして運悪く、同じタイミングでバーベラとデーツが帰宅する。
さて、この後どうなったかは省略するが、やはりローナの言う通り、タナカの安全の保証はされていないのは確かであった。

次回へつづく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...