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その1
しおりを挟む「愛してる。」
何度も何度もそう言い合いながら、
抱き合い、キスをして疲れ切って眠りにつく。
昼過ぎに起きて、午後になり遅い朝食を食べる。
「俺、もう少ししたら昼間の仕事に就くきたいなって考えてる。それで…結婚しよう」
「海……。ありがとう。嬉しい」
「改めてプロポーズはちゃんとするからね」
彼はホストで私はキャバ勤務。
好きでこの仕事をやってきた訳じゃない。
それは、海も私と同じ。
お互い親がいない。顔すら知らない。
甘えるとこも頼れるところもなく、
稼げて何かあった時のために貯金が出来る仕事を探して辿り着いたのが、この仕事だ。
18の時から働き、もう5年。
海と知り合ってから3年になる。
私が働くお店にお客さんとしてやってきたのがきっかけだ。
海が働く店の先輩に連れてこられた彼は終始無愛想で、これでホストとしてやっていけてるのかと思ったぐらいだ。
本当に感じの悪い奴だった。
それから何度かやってきて私を指名したけれど、彼は酒を飲むだけで口もきかない。
何でやって来るのか理解出来ないでいた。
いくら話しかけてもそっけなくて時には返事すらも返ってこなくて、たいした売上にもならないし来ない方がいいと思っていた。
だから、私からもあまり話しかける事も少なくなった。
それから、数週間が経った時に、
仕事が終わり、タクシーを拾おうと大通りに出たときに、彼とばったり会ったのだ。
彼は酔いつぶれていて、ふらふらになりながら歩いてこちらに向かってきた。
「あ」
彼が私の顔を見たその瞬間、
目の前で彼は倒れた。
足がもつれ転んだのだ。
「ちょっと、だらしないなぁ。しっかりしなさいよね」
私は面倒だと思いながらも、
しゃがみ込んでる彼の肩を叩き、二の腕を掴み起き上がらせようとしたとき彼が泣いているのが見えた。
「嘘でしょ。そんな痛かったわけ? 」
立ち上がろうとしながら、彼は口にした。
「ねぇ、なんで夜の仕事してるの?楽しい? 」
「は?何でこのタイミング? 」
「このタイミングしかなかったから」
彼は再び地面に座り込んで、立っている私を下から見上げた。
「飲み過ぎでしょ。酔っ払いの相手は仕事だけで十分なんだけど。悪いけど置いてく」
「待って」
「なに?質問の答えならこう。生活のため。生きるため。それ以上でも以下でもない。わかった?」
私は腹が立っていた。
「だよな。悪かった。変なこと聞いた」
「大変なのは、あんただけとでも?」
甘ったれた男だと、私は感じ苛立っていた。
「違う。君も色々あったんだろうなぁって、ふと思っただけ」
「人間生きてりゃ、色々あるでしょ。何もない人間なんてありえない」
「そりゃ、そうだけど。君の目の奥に孤独を感じたから。最初に会った時からそう思っただけ。そんな怒るなよ。美人が台無しだよ」
何なのだろうか。いつも店に来るときは無愛想に話さないくせに今日に限ってよく話すじゃない。
「うざい。何?お客さんにそう言うと喜ばれるの?私は迷惑なだけ。じゃあね」
私は自分のタクシーを呼ぶため、彼をその場に置いて車道に向かって手を上げた。
1台のタクシーが目の前にとまり、
座席の奥に腰掛けた。
行き先を告げようとすると、
彼が一緒に乗り込んできた。
倒れこむようにして隣に座ってきた。
「ちょ、ちょっとあんた何してんのよ。降りて」
「この時間帯、タクシー少ないの知ってるでしょ?運転手さん、彼女の行くとこの後に俺の家向かってください」
「私、降りる。どいて」
「ねぇ、お互い早く帰りたいでしょ?もう喋らないから、さっさと帰ろうよ」
私はもうくたくたで一刻も早くお風呂に入りたかった。
私はいつも降りる場所より、少し手前を指示した。
よく分からないこの男に家を知られたくないからだ。
本当に彼は窓の外を見つめたまま、何も話さなかった。
その横顔は疲れきった顔だった。
私も反対の窓に視線を向け他の車を見つめていた。
そして、窓にうつる自分の疲れた顔を見たときため息をつき目を閉じた。
「お姉さん、お姉さん、着きましたよ」
声が聞こえ、その隣を見ると彼がこちらを見ていた。
「着いたってば」
私は座り直し、寝ぼけた頭で鞄から財布を取り出そうとした。
「支払いなんていいから、降りてくださいー。俺も帰り道だからいらない」
彼は先に外に出て、私が降りるのを待っていた。
「ここまでの分は支払うから」
降りてから、財布を取り出す。
「いらないって、かわいい寝顔見せてもらったからじゅうぶん。気をつけて帰ってね、んじゃ」
彼はすぐにタクシーに乗り込み車は行ってしまった。
窓から手を振る彼が見えた。
掴み所がなく、よくわからない男。
住んでいるマンションに向かう途中、
何故かあの男の想定外な行動に面を食らっていた。
転んで、泣いて、謎の質問して、
言いたいこと言って、タクシーに勝手に乗り込んできて…意味が分からない。
家にたどり着き、ソファに倒れこみシャワーも浴びず、そのまま眠ってしまう。
疲れた…。今日はよく分からない日だ。
目を覚ますと午後の14時だった。
電話が鳴って起きたのだ。
お客さんからの着信だったけれど、
その時は出る気になれず放置した。
ゆっくりと起き上がり、お風呂に向かう。
化粧も落とさず寝てしまい、顔がべたつく。まずはとにかくすっきりしたい。
お風呂場の前で服は脱ぎ捨て、
バスルームでクレンジングミルクのチューブをしぼり手のひらに出すと両手で顔をこする。
シャワーを頭から浴び、顔を洗い流してからシャンプーをしていく。
ふと昨日の彼を思い出した。
変な奴。
バスタオルのままソファーに腰掛け、
携帯を取り出す。
メールもたまっているし、着歴も数件あった。
とりあえずメールの返信を数件返してから、着替える。
「お腹すいたぁ~」
冷蔵庫から冷凍のドリアを取り出し、
電子レンジで温める。
その間にもメールを返していく。
食事もしながらまたメールをする。
めんどくさい。
どれだけ仕事熱心なのかと自分で呆れながらも、食事が終わるとまた携帯を手にしている自分がいた。
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