音色(おと)のある世界

noraneko

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戸惑い

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「…」
私は躊躇した。

「あ、忙しい?」

彼は私の戸惑った姿に気がついたのであろう。

「……うん。ちょっと……」


嘘をついた。急な展開に混乱していたからだ。

「ごめん。そうだよね。急すぎたよね。そしたら、メアドだけでも教えて。」


メアドならば、別にいいか。
私は彼に伝え、その場を去った。


「忙しいのにごめんね。また」


彼は少し寂しそうな表情をした。
眉が八の字になるのを見て、私は彼だと確信した。
昔も悲しい時に彼は八の字眉をして私がそれをからかったのを思い出したからだ。

でも、口には出さずにその場を後にした。

家に着くと私はソファに倒れこんだ。


「みっちゃん……かぁ」

その名前で呼ばれたのは13歳までだった。

道子だから、みっちゃん。
懐かしい。

私は昔を思い出した。
小学校からの記憶にはすべてまこちゃんがいる。


親の都合で突然東京に引越しになった。
それは両親の離婚で、父親に引き取られ、父、姉、私の3人での生活が始まったのだ。


慣れない生活の中でまこちゃんの手紙に支えられた時期があった。


私は田舎の学校から東京の学校に転校してからというもの、うまく馴染むことが出来なかった。 


手紙は1年近く続いたけれど、まこちゃんに友達が出来たと手紙に書いてあり、新しい友達が出来なかった私はそれが辛くて一方的に手紙を書くのをやめてしまった。


その後も手紙は来ていたけれど、返事も書かぬままだった。


父にも恋人が出来、姉は仕事で家を出て行き、私も高校卒業と同時に一人暮らしを始めバイトで生活している。


まさか、バイトの帰り道にまこちゃんが現れるとは思ってもいなかった。

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