運命の人

noraneko

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はじまり

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「もしもし、お姉ちゃん?元気?」

聞き慣れた声。その声はとても優しい。
妹からの電話は1ヶ月ぶりだ。

でも、妹は1ヶ月前に亡くなっている。


「美香子、元気な訳ないじゃない。」


「どうして?私が先に死んじゃったから?」


美香子はいつも笑ってた。
この日も電話口で笑ってた。


「そう。あなたがそばにいないから」


「お姉ちゃんさ、知ってるでしょ。姿は見えなくてもそばにいるって」


「姿も見たいの。」


私達の両親は私が7歳、妹が5歳の時に亡くなった。


「しっかし、我儘な女だなー。でも、心配しないで楽しくやってるから」


「本当に?」


「そう、だってイケメンの彼氏見つけたのよ。すっごくかっこいいけど、顔が見せられないのが残念だわ」


「さすが、あなたらしい」


妹は活発な子だった。
どんな時でも弱音を吐かず、明るくしていた。


色々と我慢していた事もあったろうにそれを見せないようにしていた。
妹ながら逞しいと思う。


「それでね、実はお母さんもお父さんも一緒に居るの。」


「え、本当なの?」


「そう。あの時のままで変わってなかったよ。記憶のままだった。
二人ともまだ一緒にいて仲良くしてたよ。
私にすぐ気づいてくれたの、泣いちゃった。お姉ちゃんの事もよく知ってたの、ハハハ。悪さは出来ないよ。見られてるもん」


「美香子、よかったね。会えたんだ」


両親が亡くなった後、子供のいなかった叔母さんの家で育ててもらったけれど、その叔母さんも3年前に亡くなった。
本当に優しい人だった。

私達姉妹の環境は決して悪いものではなかった。
でも、突然いなくなった両親の死をしばらく受け止められなかったのは事実だ。
 

「叔母さんも元気だよ。
こっちにいるよ。言っとくけど、お姉ちゃんはまだ来なくていいからね。
その時が来たら私が迷わないように迎えにいくから。」


「美香子…」

私は涙が溢れてきておさえることができなかった。
ずっとそばにいた妹がいなくなり、私を育ててくれた両親も叔母さんもいないのだ。
一人は寂しいとつくづく思う。


「ちょっとやめてよね。泣かないで。
また連絡するから安心して。
叔母さんにもお母さん、お父さんにも変わりたいけど、やっぱり私達しか無理みたい。
私も連絡するの最初どうやればいいのか苦戦したんだけど、話せてよかった」


「美香子……」


「大丈夫、絶対連絡するから。     
あ、お姉ちゃんその服いいね、かわいい。  
じゃあ、また連絡するね。」 


突然、電話は切れた。


きっと体力的に難しかったのだろう。


私達は小さい頃から特殊な力があった。


両親もそうかと思っていたけれど、そうではなかったということがわかった。


携帯を見つめたまま、しばらく動けなくなっていた。
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