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真実を暴いた結果がこれだよ!!!(後
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軍部の癒着対策は、至極単純なものであった。彼らは、あることを行い癒着予防を行うのではなく、あることをやらないことによって癒着予防を行っていた。その、「あること」とは……。
「……将軍、市ヶ谷は向こうの線でございますが……」
「ん? ……ああ、愛国号の管理登録所は市ヶ谷の参謀本部ではない。こちらの方面で合っている」
「はあ……」
そして、軍部高官と非難演説を行った代議士は、永田町から市ヶ谷ではなくなぜか有楽町で降りた。
「ここは……有楽町ですか」
「ああ、愛国号の管理局はこちらに設置してある」
「しかしまた、なぜ……」
「ん? ……貴公の非難演説が如何に見当外れのものであるかの証明をするためだろう?」
「……は?」
……軍部高官が有楽町の管理局で彼の部下らしき人間に挨拶をしつつ、非難演説を行った代議士を案内したのは、事務官が多数作業をしている場所であった。
「こ、これは……」
「まあ、書類を裁断する専門の機械でもあれば別だが、こういう作業は信頼できる人物による人海戦術しかないのでな、今のところは」
……まあ、つまりは、そういうことだ。
シュレッダーという機械が未だ本朝に存在しない関係上、書類の廃棄並びに不可読化は人力であった。そう、軍部高官、その中でも愛国号の登録管理者は、癒着を防ぐために「あること」をあえて行っていなかった。それは……。
「……考えましたな」
「ああ、これならば、癒着をしようにも証拠がない以上はただの「匿名寄付」として扱われるのでな」
……そう、つまり、愛国号用の寄付の書類を書かせて、額と愛国号に書くべきノーズアートのデザインを登録した後、大蔵省に書類を送信した後に返信として帰ってきた許認可状を、彼らはわざわざ裁断していた。もちろん、事務の将校達が記憶して、その上で金額とデザインだけは一応保存しておいたわけだが、どこから寄付が来て、誰がどんな金額を寄付したのかは、彼らは軍機保持と称してその部分のみ物理的な記録を取らないことにした。
もちろん、バレたら大変なことになるのだが、どの筋の寄付があったのかはそもそも書類を受け取った大蔵省が記録を取っており、軍部は軍部で、大蔵省への要請書類、つまりはこの筋より寄付があったのでそれだけの金額を出しておけ、という書類を送信し、そして許認可状が帰ってきた後に、保存すべき箇所と破棄すべき箇所を人海戦術で行っていた。
それが意味するところとは、つまり。
「……しかし、大変ですな」
「とはいえ、機械的に裁断するわけにもいきませんからな、こればかりは」
……軍部は決して、蒙昧ではない。むしろ、帝国大学すらも滑り止めにするほどの俊英が集う場所が、蒙昧なはずがあろうものか。故に、彼らは彼らで、人海戦術を良きところで使っていた。
その一環が、眼前で行われている愛国号登録のための「作業」であった。
当然ながら、海軍の、ああつまりは報国号登録所では、同じ作業が行われていた。それは、呉ではなく東京市内、場所は錦糸町であった。もちろんそれは、大蔵省との連絡が簡便だから、というのもあったのだが、陸海の確執を少しでも緩和しよう、という意図も存在していた。そして……。
「……理解して、いただけたならばもう帰ってもらってもよろしいな?」
「え、ええ。しかし、どう説明したらいいものか……」
「本当に見せてはならない部分は、見せておりません。ただし、書類を裁断しているということは、伏せていただきたい」
「ええ、それはわかっております。ただ……」
「もちろん、癒着対策が行われている旨は、むしろ喧伝していただきたい。何せ……」
「……皆までおっしゃいますな。何をおっしゃりたいのかは、もう理解しております」
「ああ、では、頼んだぞ」
「はい」
……くだんの代議士が、非難演説を引っ込めるのではなく軍部に許可され市ヶ谷に取材のため潜ったことにしたのは、まだ1942年も暑いさなかのことであった。
「……将軍、市ヶ谷は向こうの線でございますが……」
「ん? ……ああ、愛国号の管理登録所は市ヶ谷の参謀本部ではない。こちらの方面で合っている」
「はあ……」
そして、軍部高官と非難演説を行った代議士は、永田町から市ヶ谷ではなくなぜか有楽町で降りた。
「ここは……有楽町ですか」
「ああ、愛国号の管理局はこちらに設置してある」
「しかしまた、なぜ……」
「ん? ……貴公の非難演説が如何に見当外れのものであるかの証明をするためだろう?」
「……は?」
……軍部高官が有楽町の管理局で彼の部下らしき人間に挨拶をしつつ、非難演説を行った代議士を案内したのは、事務官が多数作業をしている場所であった。
「こ、これは……」
「まあ、書類を裁断する専門の機械でもあれば別だが、こういう作業は信頼できる人物による人海戦術しかないのでな、今のところは」
……まあ、つまりは、そういうことだ。
シュレッダーという機械が未だ本朝に存在しない関係上、書類の廃棄並びに不可読化は人力であった。そう、軍部高官、その中でも愛国号の登録管理者は、癒着を防ぐために「あること」をあえて行っていなかった。それは……。
「……考えましたな」
「ああ、これならば、癒着をしようにも証拠がない以上はただの「匿名寄付」として扱われるのでな」
……そう、つまり、愛国号用の寄付の書類を書かせて、額と愛国号に書くべきノーズアートのデザインを登録した後、大蔵省に書類を送信した後に返信として帰ってきた許認可状を、彼らはわざわざ裁断していた。もちろん、事務の将校達が記憶して、その上で金額とデザインだけは一応保存しておいたわけだが、どこから寄付が来て、誰がどんな金額を寄付したのかは、彼らは軍機保持と称してその部分のみ物理的な記録を取らないことにした。
もちろん、バレたら大変なことになるのだが、どの筋の寄付があったのかはそもそも書類を受け取った大蔵省が記録を取っており、軍部は軍部で、大蔵省への要請書類、つまりはこの筋より寄付があったのでそれだけの金額を出しておけ、という書類を送信し、そして許認可状が帰ってきた後に、保存すべき箇所と破棄すべき箇所を人海戦術で行っていた。
それが意味するところとは、つまり。
「……しかし、大変ですな」
「とはいえ、機械的に裁断するわけにもいきませんからな、こればかりは」
……軍部は決して、蒙昧ではない。むしろ、帝国大学すらも滑り止めにするほどの俊英が集う場所が、蒙昧なはずがあろうものか。故に、彼らは彼らで、人海戦術を良きところで使っていた。
その一環が、眼前で行われている愛国号登録のための「作業」であった。
当然ながら、海軍の、ああつまりは報国号登録所では、同じ作業が行われていた。それは、呉ではなく東京市内、場所は錦糸町であった。もちろんそれは、大蔵省との連絡が簡便だから、というのもあったのだが、陸海の確執を少しでも緩和しよう、という意図も存在していた。そして……。
「……理解して、いただけたならばもう帰ってもらってもよろしいな?」
「え、ええ。しかし、どう説明したらいいものか……」
「本当に見せてはならない部分は、見せておりません。ただし、書類を裁断しているということは、伏せていただきたい」
「ええ、それはわかっております。ただ……」
「もちろん、癒着対策が行われている旨は、むしろ喧伝していただきたい。何せ……」
「……皆までおっしゃいますな。何をおっしゃりたいのかは、もう理解しております」
「ああ、では、頼んだぞ」
「はい」
……くだんの代議士が、非難演説を引っ込めるのではなく軍部に許可され市ヶ谷に取材のため潜ったことにしたのは、まだ1942年も暑いさなかのことであった。
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