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片想い編

3.北斗

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ここ数週間柏原の付き合いが悪くてちょっと寂しい。
なんでも、自炊に目覚めたとかで毎日夕飯を作るようになったそうだ。
しかも最近では昼も手作り弁当を持参するようになった。

「檜山先輩、寝不足ですか」
自販機横のベンチで項垂れているところを後輩の杉宮に見つかった。

「んー、いや。ちょっと考え事してた」
「そうですか。先輩もコーヒー飲みますか」
「ああ」
俺の適当な相槌を確認した杉宮は自販機でコーヒーを2本買うと、そのうち1本をこちらに差し出してきた。
「はい、どうぞ」
「え、いいの?サンキュー」
「はい。隣失礼します」

そう言って隣に腰掛ける杉宮は相変わらず無愛想だったが、不器用なりに気遣ってくれたらしい。

この男、杉宮北斗は確か俺より4,5個歳下で入社した当初から何かと面倒を見てやっていた。
しかし、あまりにも表情筋が硬すぎて未だにコイツが何を考えているのか分からないというのが正直な本音だ。
人見知りというわけではないようだし、仕事ぶりは真面目で要領も良いから俺は気に入っているが……どうしてもこのとっつきにくさは拭えなかった。

身長は俺と同じくらいだが、スポーツでもしていたのか全体的にガッシリとしていて隣にいるだけでも威圧感を放っている。
顔はそこそこ整っていて、『線の細い今風のイケメン』というよりは精悍な顔つきの男らしい印象を与えるタイプだ。

(正直、あんま俺の好みじゃないんだよな……)

同じ無愛想なら柏原みたいなら小柄で生意気な男の方が断然好きだ。
なんて失礼な事を考えていると不意に杉宮が口を開いた。

「先輩、今日飲みに行きませんか」
唐突に誘われ、思わず耳を疑った。
普段の杉宮なら絶対に自分からは声をかけてこないし、何より社内では必要最低限の言葉しか交わさない。
「なんだよ急に」
「嫌ですか」
「別に嫌じゃねーけどさ……」
「じゃあ、今日仕事終わった後よろしくお願いします」
そう言って杉宮は深々と頭を下げた。

「お、おう」
なんだかよく分からないまま返事をしてしまったが、今まで杉宮から誘われたことなんてなかったのに一体どういう心境の変化なのだろうか。

何か相談事でもあるのかもしれないし、どうせ今日は柏原も先約があるらしいからちょうどいい。
 
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