8 / 80
7.引き起こされる憂鬱
しおりを挟む
モテる男子が自分の席の後ろに座っているというのは、憂鬱を感じずにはいられない。大輝に目がハートになる女子たちが周りにいなければ、話しかけられても意識せずに返事ができる。でも、自分の背中近くに視線を感じる今は、返事一つに気を配ってしまう。
授業が終わり、先生が教室を出ていく。
千紗は背中がつつかれるのを感じた。頭を抱える。無視していると、何度もつついてくる。
仕方なく振り向いた。大輝が机に両腕を伸ばして、その上に右頬を乗せ、上目遣いで千紗を見ていた。
丸すぎず、切れ長すぎない目に白い肌、柔らかそうな茶色の髪、関わりたくない相手だが見惚れてしまう。少し固まった千紗を見て、大輝は軽く吹き出した。
「昨日、普通に話しただろ。なんで固まってんの」
窓から入ってきた風が2人の髪を乱した。大輝が頭を起こし、手を千紗の頭に伸ばした。目にかかった髪を耳へと流す。思わず千紗はその手を振り払った。
「触んないでって」
睨みつけて前へ向きかける。大輝が小さく息を吐いた。
「ごめん。ね、さっきの授業のノート貸してくんないかな。俺、寝ててさ」
千紗は口をへの字にし、一言も発さずノートを差し出した。引っ込められまいとするかのように、大輝は両手でノートをつかむ。
さっそく自分のノートに書き写し始めた。その姿を横目に、千紗は席を立って教室の入口へと向かう。
休憩時間の廊下は、教室を移動する生徒や別のクラスの友だちのところへ遊びに行く生徒でいっぱいだ。
トイレの個室から出て手を洗う。
手を拭いたハンカチをポケットにしまい、千紗が入り口のドアに手をかけたとき、向こう側から開いた。入ってきたのは、昨日、大輝にまとわりついていた女子たちだった。名前はたしか相田、木野、小川だ。リーダー格っぽい相田が睨みつけてきた。
「松村さん、なんで南くんに髪触らせてんのよ。興味なさそうな顔してイチャイチャしないでよ」
完全な言いがかりだ。千紗は唇をかむ。
「触らせたんじゃなくて、あっちが勝手に触ったの。こっちも迷惑だよ」
静かに、でもまっすぐ相手を見据える。3人はそろって腕組みをして顎を上げ、次々に話し出す。
「開き直んないでよ」
「嬉しそうにノートまで貸したりしてなんなの」
「興味ないなら、南くんと親しくしないで」
言うだけ言って3人は出ていった。千紗はため息しか出てこない。
だからイヤだったのに。なんでノートを貸したりしたんだろう。
せめて、教室に戻ったときには大輝からノートが返っていることを願う。そうすれば目立って会話することもないはずだ。
トイレのドアノブを握る。休憩時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。
走って教室に戻る。教科担当の先生がまだ来ていないようで、生徒たちは席につかずに友だち同士おしゃべりをしていた。
相田たちは千紗のほうを横目でにらむように見ている。素知らぬふりをして自分の席にいき、机の上にノートが置いてあるのをみて胸をなでおろした。盗み見るように見た大輝は肘をついて顎を乗せ、窓の外を見ていた。千紗が制服のスカートに手を沿わせて椅子に座る。背後から声変りを終えた男子にしては少し高めの声が聞こえた。
「松村さん、ノートありがとう。助かった」
千紗は振り向かずに小さくうなずいた。
授業が終わり、先生が教室を出ていく。
千紗は背中がつつかれるのを感じた。頭を抱える。無視していると、何度もつついてくる。
仕方なく振り向いた。大輝が机に両腕を伸ばして、その上に右頬を乗せ、上目遣いで千紗を見ていた。
丸すぎず、切れ長すぎない目に白い肌、柔らかそうな茶色の髪、関わりたくない相手だが見惚れてしまう。少し固まった千紗を見て、大輝は軽く吹き出した。
「昨日、普通に話しただろ。なんで固まってんの」
窓から入ってきた風が2人の髪を乱した。大輝が頭を起こし、手を千紗の頭に伸ばした。目にかかった髪を耳へと流す。思わず千紗はその手を振り払った。
「触んないでって」
睨みつけて前へ向きかける。大輝が小さく息を吐いた。
「ごめん。ね、さっきの授業のノート貸してくんないかな。俺、寝ててさ」
千紗は口をへの字にし、一言も発さずノートを差し出した。引っ込められまいとするかのように、大輝は両手でノートをつかむ。
さっそく自分のノートに書き写し始めた。その姿を横目に、千紗は席を立って教室の入口へと向かう。
休憩時間の廊下は、教室を移動する生徒や別のクラスの友だちのところへ遊びに行く生徒でいっぱいだ。
トイレの個室から出て手を洗う。
手を拭いたハンカチをポケットにしまい、千紗が入り口のドアに手をかけたとき、向こう側から開いた。入ってきたのは、昨日、大輝にまとわりついていた女子たちだった。名前はたしか相田、木野、小川だ。リーダー格っぽい相田が睨みつけてきた。
「松村さん、なんで南くんに髪触らせてんのよ。興味なさそうな顔してイチャイチャしないでよ」
完全な言いがかりだ。千紗は唇をかむ。
「触らせたんじゃなくて、あっちが勝手に触ったの。こっちも迷惑だよ」
静かに、でもまっすぐ相手を見据える。3人はそろって腕組みをして顎を上げ、次々に話し出す。
「開き直んないでよ」
「嬉しそうにノートまで貸したりしてなんなの」
「興味ないなら、南くんと親しくしないで」
言うだけ言って3人は出ていった。千紗はため息しか出てこない。
だからイヤだったのに。なんでノートを貸したりしたんだろう。
せめて、教室に戻ったときには大輝からノートが返っていることを願う。そうすれば目立って会話することもないはずだ。
トイレのドアノブを握る。休憩時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。
走って教室に戻る。教科担当の先生がまだ来ていないようで、生徒たちは席につかずに友だち同士おしゃべりをしていた。
相田たちは千紗のほうを横目でにらむように見ている。素知らぬふりをして自分の席にいき、机の上にノートが置いてあるのをみて胸をなでおろした。盗み見るように見た大輝は肘をついて顎を乗せ、窓の外を見ていた。千紗が制服のスカートに手を沿わせて椅子に座る。背後から声変りを終えた男子にしては少し高めの声が聞こえた。
「松村さん、ノートありがとう。助かった」
千紗は振り向かずに小さくうなずいた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
先生
藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。
町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。
ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。
だけど薫は恋愛初心者。
どうすればいいのかわからなくて……
※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)
イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団の異色男子
ジャスティン・レスターの意外なお話
矢代木の実(23歳)
借金地獄の元カレから身をひそめるため
友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ
今はネットカフェを放浪中
「もしかして、君って、家出少女??」
ある日、ビルの駐車場をうろついてたら
金髪のイケメンの外人さんに
声をかけられました
「寝るとこないないなら、俺ん家に来る?
あ、俺は、ここの27階で働いてる
ジャスティンって言うんだ」
「………あ、でも」
「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
女の子には興味はないから」
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
楠ノ木雫
恋愛
蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる