【完結】恋なんてしない、つもりだったのに。

高羽志雨

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7.引き起こされる憂鬱

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 モテる男子が自分の席の後ろに座っているというのは、憂鬱を感じずにはいられない。大輝に目がハートになる女子たちが周りにいなければ、話しかけられても意識せずに返事ができる。でも、自分の背中近くに視線を感じる今は、返事一つに気を配ってしまう。

 授業が終わり、先生が教室を出ていく。
 千紗は背中がつつかれるのを感じた。頭を抱える。無視していると、何度もつついてくる。

 仕方なく振り向いた。大輝が机に両腕を伸ばして、その上に右頬を乗せ、上目遣いで千紗を見ていた。
丸すぎず、切れ長すぎない目に白い肌、柔らかそうな茶色の髪、関わりたくない相手だが見惚れてしまう。少し固まった千紗を見て、大輝は軽く吹き出した。

「昨日、普通に話しただろ。なんで固まってんの」

 窓から入ってきた風が2人の髪を乱した。大輝が頭を起こし、手を千紗の頭に伸ばした。目にかかった髪を耳へと流す。思わず千紗はその手を振り払った。

「触んないでって」

 睨みつけて前へ向きかける。大輝が小さく息を吐いた。

「ごめん。ね、さっきの授業のノート貸してくんないかな。俺、寝ててさ」

 千紗は口をへの字にし、一言も発さずノートを差し出した。引っ込められまいとするかのように、大輝は両手でノートをつかむ。

 さっそく自分のノートに書き写し始めた。その姿を横目に、千紗は席を立って教室の入口へと向かう。
 休憩時間の廊下は、教室を移動する生徒や別のクラスの友だちのところへ遊びに行く生徒でいっぱいだ。

 トイレの個室から出て手を洗う。
 手を拭いたハンカチをポケットにしまい、千紗が入り口のドアに手をかけたとき、向こう側から開いた。入ってきたのは、昨日、大輝にまとわりついていた女子たちだった。名前はたしか相田、木野、小川だ。リーダー格っぽい相田が睨みつけてきた。

「松村さん、なんで南くんに髪触らせてんのよ。興味なさそうな顔してイチャイチャしないでよ」

 完全な言いがかりだ。千紗は唇をかむ。

「触らせたんじゃなくて、あっちが勝手に触ったの。こっちも迷惑だよ」

 静かに、でもまっすぐ相手を見据える。3人はそろって腕組みをして顎を上げ、次々に話し出す。

「開き直んないでよ」

「嬉しそうにノートまで貸したりしてなんなの」

「興味ないなら、南くんと親しくしないで」

 言うだけ言って3人は出ていった。千紗はため息しか出てこない。
 だからイヤだったのに。なんでノートを貸したりしたんだろう。
 せめて、教室に戻ったときには大輝からノートが返っていることを願う。そうすれば目立って会話することもないはずだ。

 トイレのドアノブを握る。休憩時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。
 走って教室に戻る。教科担当の先生がまだ来ていないようで、生徒たちは席につかずに友だち同士おしゃべりをしていた。

 相田たちは千紗のほうを横目でにらむように見ている。素知らぬふりをして自分の席にいき、机の上にノートが置いてあるのをみて胸をなでおろした。盗み見るように見た大輝は肘をついて顎を乗せ、窓の外を見ていた。千紗が制服のスカートに手を沿わせて椅子に座る。背後から声変りを終えた男子にしては少し高めの声が聞こえた。

「松村さん、ノートありがとう。助かった」

 千紗は振り向かずに小さくうなずいた。
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