【完結】恋なんてしない、つもりだったのに。

高羽志雨

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6.4人でランチ(2)

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 常連の主婦軍団が来たらしく、普段なら良く話しかけてくるマスターがカウンターにへばりついて、主婦たちと話に興じている。盛り上がりの一瞬のスキを突いて、会計をお願いした。

「ごちそうさまでした」

 大輝が喫茶店の扉に手をかけ、全員でマスターに手を振って外へ出た。
 店の前で蓮がショッピングモールのある方向を指さした。

「俺と悠里、映画、観に行くから」

 悠里が蓮の隣に並んで2人で手を振ってきた。千紗が振り返す。隣に立った大輝も頭の上で大きく手を振っていた。
 歩いていく2人を見送って、大輝を見上げる。

「私もここで」

 立ち去ろうとする千紗の腕を大輝がつかんできた。

「帰るの。まだ昼過ぎじゃん。俺らもどっか行こーよ」

 純真無垢と表現してもいい目で千紗の顔をのぞきこむように見てきた。千紗は大輝から視線を外して、掴まれた腕を振りほどく。

「誰かに見られたらイヤだから行かない。女の嫉妬に巻き込まれるのはイヤなの」

 こんなにも感情が乗るのかと自分でも驚くほどの暗い声になった。あまりにも低すぎて、反射的に大輝に失礼な言い方になったと反省して、外していた目線を大輝に戻した。大輝は口を少しとがらせて、悲しそうな目をしていた。

「そっか。嫉妬な。今日のだけでも面倒くさそうって思うよな」

 今度は大輝が千紗から目線を外して、少し上を見上げる。

「でも、その言い方って、俺がイヤってわけじゃなさそうだな。それだけは良かった」

 大輝を見上げていた千紗の目の前に影ができて、頭の上に何かが乗った。黒目を上にあげてみる。大輝の手が千紗の頭を撫でていた。とっさに後ろに下がって、頭に乗っていた手を振り落とした。心臓が大きく早く動き出す。
 千紗は大輝に挨拶もせず、その場から逃げるように走った。


◇◇◇◇◇

 高1のとき付き合っていた大学生の彼氏に頭を撫でられるのが好きだった。
 でも千紗は浮気相手で、本命の彼女から髪にガムをぬりつけられた。おかげで髪を切る羽目になった。
 
 あれは彼女の強い嫉妬から来たものだと思っている。
 最近、夢にも見るうえに、大輝に頭を撫でられて、鮮明にその時のことが思い出された。
 嫌がらせを受けた日から髪はショートボブのままだ。
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