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6.4人でランチ(1)
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昔ながらの喫茶店。そういう表現がぴったり合う店は、こげ茶色の木枠の間にレンガの壁が重厚感を醸し出している。今風のカフェとは違って中が見えないからか、一見の人は入りにくい雰囲気がある。特に若者には敬遠されがちなようだ。
高校の最寄り駅にあるのに、高校生が入っているのを見たことがない。
千紗はここの落ち着いた雰囲気が好きだ。初めて悠里と来た時は恐る恐る扉を開けた。中を伺うと、読書をする年配の男性や、いかにも仕事ができそうなサラリーマン、OLが座っていて、扉を閉めそうになった。こちらに気づいたマスターが気さくに話しかけてくれたおかげで、臆することなく店に入ることができたのだ。
以来、悠里と一緒に月に数回は名物のトルコライスを食べに来ている。
蓮が木でできた重めのドアを引く。カランカランとドアベルが鳴り響いた。
「こんにちはー」
「どうもー」
4人はマスターに口々に挨拶をする。床にはえんじ色の絨毯が敷き詰められ、木でできた分厚いカウンター、片手では引けない重みのある椅子、テーブル席には動かしにくい大きめのソファが置かれている。タイムスリップしたかのような空間に、ロマンスグレーが似合うマスターが立っている。
「いらっしゃーい」
マスターは白いのがちらほら見える髭を触りながら、大きく目を見開いて、一番奥の窓際の席を顎で示した。
蓮の隣には悠里が座るので、必然的に大輝の横に座るのは千紗になる。テーブルの上でメニューを開いて、4人とも飲み物を探していると、マスターがやってきて、ニヤニヤしながら、マスターはテーブルに4つの水を置いていく。
「へぇー、トルコライス好きが軍団で来たんだな」
面白がるような声に、4人同時に反応してお互いに顔を見合わせる。
「あー、今まで別々だったもんね。男同士、女同士では来てたけどさ。でも、君たち4人、ほぼ毎回トルコライス頼むんだよね。一緒に来たってことは仲いいんだ。食べ物の趣味が合うと気が合うのか」
マスターは孫を見るおじいちゃんのような温かい表情をしている。
「注文はどうせトルコライスだろ」
マスターは右手をひらひらさせながらカウンダーに戻っていった。その後ろ姿を4人が目で追い、誰からともなくお互いの顔を見合って吹き出した。悠里が水を一口飲んだ。
「マスター好きだわ。店の雰囲気も落ち着くし、トルコライスも最高だしね」
その言葉に3人も大きくうなずく。千紗の隣で大輝がソファにもたれた。
「それにさ、ここ高校生が全然来ないから。それがラク」
蓮が呆れたような表情を浮かべている。
「お前、うるさい女子たちから離れたいときは、たいてい俺をここに誘うよな」
余計なことを言うなとばかりに大輝が、正面から蓮の額を小突いた。千紗はゆっくり瞬きをした。
「ねえ、彼女3人もいるくらいなんだから、女子が好きなんじゃないの。なのに離れたいって思うんだ」
悠里も同じ意見なのか、小刻みにうなずき、蓮は面白がっている風に見える。大輝が面倒くさそうな視線を千紗に投げてきた。
「グループで寄ってたかって、盛り上がられるのはイヤなんだよ」
悠里が身を乗り出した。
「じゃあ、なんで3人も彼女いるの」
大輝は人差し指で頬をかき、3人を見回してきた。
「あれは告白されたから。他にも付き合ってるヤツがいることも、本気で好きにはならないことも、言ってる」
悠里は呆れたのか、前のめりだった体をソファに沈めた。元から仲が良い蓮は特に反応を示さない。千紗は水の入ったコップを持ち上げて光にかざした。
「へぇ、彼女たちには3股してること言ってるんだ。嫉妬とか喧嘩とかないの」
悠里が上目遣いで見てきた。大輝も横目で千紗を見てすぐ、テーブルに視線を置く。
「俺は彼女たちのアクセサリーみたいなもんなんだよ」
蓮がため息をついた。
「大輝、顔立ちが先行してるからな」
蓮の言葉に悠里が付け加える。
「隣にいると自慢できるんだろうね。それに話しやすくてノリが良くて遊んでるイメージ。女子にしたら楽しく遊ばせてくれるって感じかな」
千紗は大きく何度もうなずいた。3人の反応を見回してため息をついた大輝は、顔に少し翳を落としたような気がした。
4人の空間に一瞬だけ静けさが漂った。それを打ち破ったのはカラッと明るいマスターの声だった。
「トルコライス、お待たせ。あとの2つはすぐ持ってくるよ」
千紗と悠里の前に皿を置いてマスターはカウンターに戻っていった。
すぐにトルコライスが乗った皿を両手に持ち、4人の元へとやってくる。
目の前に4つのトルコライスが並ぶ。スプーンを手に持ち、そろって顔をほころばせる。
「いただきまーす」
誰一人としてしゃべることなく、トルコライスを口に運ぶ。スプーンが皿にぶつかる音、咀嚼する音だけが響いた。
高校の最寄り駅にあるのに、高校生が入っているのを見たことがない。
千紗はここの落ち着いた雰囲気が好きだ。初めて悠里と来た時は恐る恐る扉を開けた。中を伺うと、読書をする年配の男性や、いかにも仕事ができそうなサラリーマン、OLが座っていて、扉を閉めそうになった。こちらに気づいたマスターが気さくに話しかけてくれたおかげで、臆することなく店に入ることができたのだ。
以来、悠里と一緒に月に数回は名物のトルコライスを食べに来ている。
蓮が木でできた重めのドアを引く。カランカランとドアベルが鳴り響いた。
「こんにちはー」
「どうもー」
4人はマスターに口々に挨拶をする。床にはえんじ色の絨毯が敷き詰められ、木でできた分厚いカウンター、片手では引けない重みのある椅子、テーブル席には動かしにくい大きめのソファが置かれている。タイムスリップしたかのような空間に、ロマンスグレーが似合うマスターが立っている。
「いらっしゃーい」
マスターは白いのがちらほら見える髭を触りながら、大きく目を見開いて、一番奥の窓際の席を顎で示した。
蓮の隣には悠里が座るので、必然的に大輝の横に座るのは千紗になる。テーブルの上でメニューを開いて、4人とも飲み物を探していると、マスターがやってきて、ニヤニヤしながら、マスターはテーブルに4つの水を置いていく。
「へぇー、トルコライス好きが軍団で来たんだな」
面白がるような声に、4人同時に反応してお互いに顔を見合わせる。
「あー、今まで別々だったもんね。男同士、女同士では来てたけどさ。でも、君たち4人、ほぼ毎回トルコライス頼むんだよね。一緒に来たってことは仲いいんだ。食べ物の趣味が合うと気が合うのか」
マスターは孫を見るおじいちゃんのような温かい表情をしている。
「注文はどうせトルコライスだろ」
マスターは右手をひらひらさせながらカウンダーに戻っていった。その後ろ姿を4人が目で追い、誰からともなくお互いの顔を見合って吹き出した。悠里が水を一口飲んだ。
「マスター好きだわ。店の雰囲気も落ち着くし、トルコライスも最高だしね」
その言葉に3人も大きくうなずく。千紗の隣で大輝がソファにもたれた。
「それにさ、ここ高校生が全然来ないから。それがラク」
蓮が呆れたような表情を浮かべている。
「お前、うるさい女子たちから離れたいときは、たいてい俺をここに誘うよな」
余計なことを言うなとばかりに大輝が、正面から蓮の額を小突いた。千紗はゆっくり瞬きをした。
「ねえ、彼女3人もいるくらいなんだから、女子が好きなんじゃないの。なのに離れたいって思うんだ」
悠里も同じ意見なのか、小刻みにうなずき、蓮は面白がっている風に見える。大輝が面倒くさそうな視線を千紗に投げてきた。
「グループで寄ってたかって、盛り上がられるのはイヤなんだよ」
悠里が身を乗り出した。
「じゃあ、なんで3人も彼女いるの」
大輝は人差し指で頬をかき、3人を見回してきた。
「あれは告白されたから。他にも付き合ってるヤツがいることも、本気で好きにはならないことも、言ってる」
悠里は呆れたのか、前のめりだった体をソファに沈めた。元から仲が良い蓮は特に反応を示さない。千紗は水の入ったコップを持ち上げて光にかざした。
「へぇ、彼女たちには3股してること言ってるんだ。嫉妬とか喧嘩とかないの」
悠里が上目遣いで見てきた。大輝も横目で千紗を見てすぐ、テーブルに視線を置く。
「俺は彼女たちのアクセサリーみたいなもんなんだよ」
蓮がため息をついた。
「大輝、顔立ちが先行してるからな」
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「隣にいると自慢できるんだろうね。それに話しやすくてノリが良くて遊んでるイメージ。女子にしたら楽しく遊ばせてくれるって感じかな」
千紗は大きく何度もうなずいた。3人の反応を見回してため息をついた大輝は、顔に少し翳を落としたような気がした。
4人の空間に一瞬だけ静けさが漂った。それを打ち破ったのはカラッと明るいマスターの声だった。
「トルコライス、お待たせ。あとの2つはすぐ持ってくるよ」
千紗と悠里の前に皿を置いてマスターはカウンターに戻っていった。
すぐにトルコライスが乗った皿を両手に持ち、4人の元へとやってくる。
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