【完結】恋なんてしない、つもりだったのに。

高羽志雨

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5.始業式の後

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「はい、今日はここまで。始業式で早く終わったからって遊びに出かけてハメはずすなよ」

 そう言い残して、担任は教室を後にした。

「ねえ、千紗。今日は部活休みなんでしょ。一緒にお昼食べにいこーよ。」

 悠里が帰り支度を整えて、まだ座っている千紗の元へやってくる。

「えっ、蓮くんとは行かないの?」

「俺も一緒だよ。サッカー部も休みなんだよね。」

 爽やかなスポーツマンを絵にかいたような蓮が声をかけてくる。

「もちろん大輝も行くだろ」

 千紗の後ろの席で3人の話を聞いていた大輝が話に飛びついてきた。花が開いたような笑顔を見せる。

「おっ。いいの?行く行く!俺、駅前のトルコライス食べたいって思ってたんだよね」

 じゃ、行くかと4人が教室を出ようとしたところで女子数人から声がかかった。

「えーっ。南くん、さっき一緒にランチしよって約束したじゃん」

「そうだよー」

 朝、教室の入り口に集まっていた女子たちが、また同じ位置に集まっていて口々に言っている。
 千紗はあきれた表情で大輝の顔を見る。蓮は苦笑い、悠里は興味なさそうな表情だ。
 
 3人は女子たちの合間をくぐりぬけて廊下に出た。大輝はケロッとした表情をしたまま、声をかけてきた女子たちの肩を順番に軽くたたいている。

「いやいや、自分たちが勝手に言ってただけだろ。俺、返事してないし。俺は蓮とメシ食いたいの」

 蓮と悠里がゆっくりと歩き始める。千紗も後を追いつつ、振り返りながら大輝と女子たちのやりとりを見ていた。女子たちは大輝の行く手を阻むように廊下に横並びに立っている。その奥で大輝が頭を掻いていた。
 1人の女子が大輝のブレザーの裾を掴んだのが見えた。

「っていうけど、石川くんだけじゃなくて、田中さんや松村さんも一緒じゃない」

 ブレザーの裾をつかんで話す女子の手を振りほどいた。

「そんなの仕方ないじゃん。蓮の彼女と、その友だちなんだからさ」

 そう言い捨てて、女子たちの間を強行突破して3人の元へと走ってきた。
 大輝が背中側から蓮の肩に両手を置き、もたれかかるようにして歩いている。
 千紗は取り残された女子たちの様子を見る。

「ねえ、南くんの周りの女子たちって、あんな感じなの」

 大輝が、少しだけ後ろを歩く千紗を振り返る。目を丸くしている。
 蓮と並んで歩いていた悠里が、歩を緩めて後ろに下がってきた。

「大輝くんと少し親し気に話すだけで睨まれるんだよ。ま、私は蓮と付き合ってるって知られてるから、あんまり文句言ってこないけどね。彼氏のいない女子が大輝くんと話してたら、女子側にその気はなくても、『抜け駆けした』とか『大輝くんの何なの』とか、すっごい絡まれたりするよ」

 悠里が大輝を取り巻く女子たちの口真似をして話す。女の恐ろしさを改めて感じさせられた気がした千紗は、眉間にシワを寄せる。
 蓮と肩を組んだまま先に階段を下りていく大輝に声をかけた。

「ねえ、南くん。席、前後だけどさ、必要最低限以外、話しかけてこないでね」

 振り返った大輝の顔は愉快そうにゆがんでいる。

「それはわかんない。俺は俺の話したい奴と話したいときに話したいネタを話すだけ」

 眉間のしわをより深くさせた千紗は、自分より少しだけ背の高い悠里を見上げる。気持ちを察したらしい悠里が頭を撫でてくれた。
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