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8.過去の吐露(2)
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息継ぎのタイミングで澄んだ空を見上げる。
「そのときはただ怖かった。でも、今、振り返ると、その彼女が言ったことを思い出した。『私は彼に好きだって告白して、好きになってもらえるように一生懸命頑張ってるのに、どうしてあなたは簡単に彼に好きだって言われるの』って。悲しそうな目をしてた。」
3人とも黙って千紗を見ている。千紗は自嘲気味な笑いをこぼした。
「あー、こんな顔させたのって私なんだなって。私が彼と付き合わなかったら、この人は笑ってられたのかなって。そう思ってたことに、さっき気づいた。だから嫉妬されるのイヤだったんだって。私が人を傷つけたんだって、イヤな思いをさせたんだって思い知らされる感じがして。この1年半、こんな思いしないように生きてきたの。なんで、またこうなるのかな」
自分で口にしておいて、大輝に聞かせていることに申し訳なさを感じてしまう。
入り混じる感情を収拾させようと、荒っぽく弁当箱を閉じてナフキンで包んだ。
いったん離れていた悠里の手がまた自分のほうへ伸びてくるのを察して、顔を上げかけたとき、別の手が千紗の左こめかみ辺りの髪が撫でるようにかきあげた。指が長く大きいその手は、そのまま左頬を触れてくる。刺々しい心を撫でられるような心地よさを感じつつ、千紗は手の持ち主の方へと顔を向けると、目を細めて見つめてくる大輝がいた。
千紗は我に返って、頬に置かれたままになっている大輝の手を振り払う。
「触らないでってば」
いつもの目の大きさを取り戻した大輝は平然と周りを見回す。
「ここ俺らしかいないよ」
そういうことだけじゃない。男性に触られるのは元彼を、その彼女のことも思い出してしまうから。
千紗は声にならなかった。
大輝は凝りもせず、千紗の頭に手を乗せてきた。
「今の話さ、どれだけ傷ついたか俺にはわからない。そりゃ、その彼女も辛かったかもしれないけど、松村さんだって傷ついてるだろ。髪にガムを塗りつけられるっていう暴力も受けたし。傷ついた自分の気持ちを大事にしたほうがいいよ」
千紗は乗せられた手を振りほどこうとは思わなかった。
元彼と彼女のことを上書きされた気がしたせいかもしれない。
蓮も悠里も大輝の言葉に同調してくる。
「千紗ちゃんがその彼と付き合わなくても、そんな男なら別で彼女を傷つけるだろうしね」
「そうよ。千紗は怒るだけでいいの」
次々に届く言葉は、女の嫉妬に巻き込まれないよう気を張ってきた千紗の心を緩めてくれる気がした。
千紗の頭を撫でていた大輝の手が髪をすく。
「今の髪型、かわいいよ。俺は好きだな」
大輝は髪から手を離してビニール袋を持って立ち上がった。一連の動作を千紗は放心したように見ていた。一緒に立ち上がった蓮とドアのほうへ向かって歩き出した大輝が振り返った。
「そうそう、相田さんたちには『松村さんに何か言うのはお門違い。言いたいことがあるなら俺に言え』って言っとくから」
隣に立つ蓮も振り返る。
「俺ら、先に戻る」
座ったままの悠里が返事代わりに大きく手を振って、千紗の顔をのぞきこんできた。
「顔、赤いよ」
千紗は目を見開いて、両手を頬にあてる。赤くなっていることが容易く理解できるほど熱かった。
「悔しいけど、南くんがモテるのわかった気がする。顔だけじゃないんだね」
「なんで悔しいのよ」
悠里はそう言って破顔した。
「そのときはただ怖かった。でも、今、振り返ると、その彼女が言ったことを思い出した。『私は彼に好きだって告白して、好きになってもらえるように一生懸命頑張ってるのに、どうしてあなたは簡単に彼に好きだって言われるの』って。悲しそうな目をしてた。」
3人とも黙って千紗を見ている。千紗は自嘲気味な笑いをこぼした。
「あー、こんな顔させたのって私なんだなって。私が彼と付き合わなかったら、この人は笑ってられたのかなって。そう思ってたことに、さっき気づいた。だから嫉妬されるのイヤだったんだって。私が人を傷つけたんだって、イヤな思いをさせたんだって思い知らされる感じがして。この1年半、こんな思いしないように生きてきたの。なんで、またこうなるのかな」
自分で口にしておいて、大輝に聞かせていることに申し訳なさを感じてしまう。
入り混じる感情を収拾させようと、荒っぽく弁当箱を閉じてナフキンで包んだ。
いったん離れていた悠里の手がまた自分のほうへ伸びてくるのを察して、顔を上げかけたとき、別の手が千紗の左こめかみ辺りの髪が撫でるようにかきあげた。指が長く大きいその手は、そのまま左頬を触れてくる。刺々しい心を撫でられるような心地よさを感じつつ、千紗は手の持ち主の方へと顔を向けると、目を細めて見つめてくる大輝がいた。
千紗は我に返って、頬に置かれたままになっている大輝の手を振り払う。
「触らないでってば」
いつもの目の大きさを取り戻した大輝は平然と周りを見回す。
「ここ俺らしかいないよ」
そういうことだけじゃない。男性に触られるのは元彼を、その彼女のことも思い出してしまうから。
千紗は声にならなかった。
大輝は凝りもせず、千紗の頭に手を乗せてきた。
「今の話さ、どれだけ傷ついたか俺にはわからない。そりゃ、その彼女も辛かったかもしれないけど、松村さんだって傷ついてるだろ。髪にガムを塗りつけられるっていう暴力も受けたし。傷ついた自分の気持ちを大事にしたほうがいいよ」
千紗は乗せられた手を振りほどこうとは思わなかった。
元彼と彼女のことを上書きされた気がしたせいかもしれない。
蓮も悠里も大輝の言葉に同調してくる。
「千紗ちゃんがその彼と付き合わなくても、そんな男なら別で彼女を傷つけるだろうしね」
「そうよ。千紗は怒るだけでいいの」
次々に届く言葉は、女の嫉妬に巻き込まれないよう気を張ってきた千紗の心を緩めてくれる気がした。
千紗の頭を撫でていた大輝の手が髪をすく。
「今の髪型、かわいいよ。俺は好きだな」
大輝は髪から手を離してビニール袋を持って立ち上がった。一連の動作を千紗は放心したように見ていた。一緒に立ち上がった蓮とドアのほうへ向かって歩き出した大輝が振り返った。
「そうそう、相田さんたちには『松村さんに何か言うのはお門違い。言いたいことがあるなら俺に言え』って言っとくから」
隣に立つ蓮も振り返る。
「俺ら、先に戻る」
座ったままの悠里が返事代わりに大きく手を振って、千紗の顔をのぞきこんできた。
「顔、赤いよ」
千紗は目を見開いて、両手を頬にあてる。赤くなっていることが容易く理解できるほど熱かった。
「悔しいけど、南くんがモテるのわかった気がする。顔だけじゃないんだね」
「なんで悔しいのよ」
悠里はそう言って破顔した。
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