【完結】恋なんてしない、つもりだったのに。

高羽志雨

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9.大輝の思い【大輝視点】

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 大輝は屋上の扉を開けて校舎内に入った。階段を下りはじめてすぐ、並んで下りる蓮に肩を組まれた。

「自分から女子にかかわろうとする大輝、初めて見たかも。何股かかけてる彼女たちも大輝から声かけていったわけじゃないだろ」

 短髪の黒髪、端正な顔立ちの男がニヤついているのは、なかなか見れるものではない気がする。

「それに女子の髪触るって、誤解与えるんじゃないかなあ」

 大輝は踊り場で立ち止まって、自分とほぼ同じ高さにある蓮の頭を撫でて髪を触る。

「髪触るくらい、誰にだってする。何が言いたいんだよ」

 蓮は腕を大きく回して、大輝の手首をつかむ。

「女子とは声かけられたら適当に遊ぶって感じなのにさ。千紗ちゃんは違うのかなって」

 大輝は階段に足を踏み出す。

「蓮の彼女の友だちだから、俺も友だちとして励ましただけだよ」

 昔のイヤな思い出を話す千紗を見ていたら、自然と手が出て今の髪形を褒めていた。階段をゆっくりと下りながら、大輝は手のひらを見る。胸の奥が温かいような、明るくなるような表現しがたい感情が広がるのを感じた。
 蓮からは、ふーん、と含みを持たせた返事が返ってきた。



 午後の授業は、南からの陽気な日差しが空気を温められるせいで、たいてい眠気との戦いだ。
 
 大輝の前の席では千紗の頭が前後に揺れている。時々、揺れが止まって顔が黒板の方へ向く。1分と立たないうちに、今度は左右に揺れ始める。後ろから見ていると面白くて、珍しく眠気が襲ってこない。
 
 手が千紗の方へ伸ばそうとしていることに気づき、慌てて手を引っ込める。何かをしていないと、千紗の髪を触ろうとしてしまいそうで、教師が書く黒板の文字を必死に書き写し始めた。

 授業終わりを示すチャイムが鳴る。
 教師が宿題を提示して教室から出て行った。

 大輝はノートを持った手を千紗の目に触れるところまで伸ばす。
 背中側から出てきたノートに気づいたらしい。触り心地の良さそうなショートボブが大きく揺れた。大輝はその髪に見惚れる。
 
「この授業の貸すよ」
 
 振り返った千紗の目は大きく開いて、唇を強く結んでいる。大輝と合わせた視線は、すぐにノートに落ちていった。

「ありがとう。でもノートは悠里に借りる」

 千紗は席を立ち、悠里の元へと向かった。
 その姿を目で追っていて気づく。相田が机の間を縫って、こちらへ歩いてきている。
 相田が大輝の席の横まで来て足を止めた。

「南くん、自分から女子に声かけることって今までなかったよね。女子から声をかけても受け流す感じだったりするのに、松村さんには話しかけるんだ」

 昼休みの終わり際、蓮から言われた言葉と重なる。心臓が跳ねたのを感じた。
 大輝は首をかしげて、相田には伝わるはずのない鼓動をごまかそうと、しっかりと口角を上げた。

「見るからに寝てたから声かけただけだよ。さっき借りたし、お返し」

 勢いよく教室の引き戸が開けられたのが音でわかった。
 担任が入ってきて、ホームルームを始めるぞ、と声を張った。
 相田をはじめ、席を立っていたクラスメイトが慌ただしく自席へ戻っていった。
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