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15.駅で
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結局、ジーパンに淡い黄色のオーバーシャツ、ブルーのキャスケットにリュック、紐付きスニーカーというボーイッシュを通り越して、少年のような服装になった。
一眼レフはリュックに詰め込んだ。
待ち合わせ時間が迫っている。
千紗は小走りに駅へ向かった。
背負ったリュックサックのショルダーストラップを左右それぞれ握り、駅の階段を上る。右へ曲がって見えた改札の端、人々の通行の邪魔にならない位置に大輝が立っていた。白のフード付きトレーナーにジーパン、ブラウンの斜めがけボディバッグに同系色のスニーカーという出立ちだ。
近づいて声をかけようとして、大輝が女性と話していることに気づいた。女性は髪を緩くまとめて、グリーンのワンピースを着ている。ふんわりと丸いシルエットがかわいらしい。彼女は大輝の腕を掴んでいる。大輝の彼女かもしれない。
千紗は声をかけようか迷って立ちすくんだ。
2人をじっと見ていると、ふいに大輝の顔がこっちを向いた。右手を上げて大きく振ってくる。大輝の動きに合わせて振り向いた彼女の顔はわかりやすく曇っていった。
千紗は唇を軽く噛み、踏ん張りをきかせて歩き出す。
大輝たちに近づくにつれ、喉が渇いてくる。彼女は機嫌の悪そうな表情のまま大輝に向き直った。
さすがに初対面で嫌がらせされることはないだろうけど、昔のイヤな思い出がよみがえってくる。昨日、話をしたから鮮明に思い出されるのが悲しい。
何を言われるんだろう。どう答えればいいんだろう。
鼓動を速くさせながら一歩ずつ近づく。もう少ししたら、挨拶を交わさなきゃいけない距離だ。
そう思った時、彼女は大輝に肩を軽く押されて立ち去っていった。
何か文句を言われると思って警戒したせいで肩透かしを食らった気分だった。でも安堵のため息が出る。
大輝の手が千紗の頭に伸びてきた。
「おはよう。何、その格好。可愛いけど少年みたい。可愛いけどね」
噴き出すように笑ってくる。千紗はキャスケットの上から軽く頭を叩かれるという大輝の行動に子ども扱いされた気になった。そのうえ、さっきの女性らしい彼女を思い出して、口を尖らせてしまう。
「おはよっ。いいじゃない、別に。女らしいのが良かったら、彼女とデートすればいいでしょ。さっき話してたのって彼女のうちの1人でしょ」
大輝は千紗の頭から手を下ろして、彼女が立ち去った方向を見る。どこか苦々しい表情に見えた。
「あぁそうだよ。でも、デートはしない。彼女たちからの誘いを断るために動物園に行く予定を入れたんだから」
千紗の頭には疑問符が並ぶ。顔に出ていたんだろう。こちらを向いた大輝は右の上唇だけ吊り上げた。
「彼女たちと一緒にいるのに疲れたんだよ。でも、まさかあんな恐い顔をするなんてな。驚いた」
彼女たち、少なくても今の彼女は大輝と軽く遊んでるつもりはないんじゃないだろうか。
大輝が改札の中を指差して改札機にICカードをかざす。千紗も続いた。
ホームで電車を待つ列に並ぶ。
彼女が三股に文句を言わないのは、大輝と付き合っていたいからだと思う。
千紗はその言葉を飲み込んだ。
「まあ、遠目からでも彼女が不機嫌になっているのがわかったから、何も言わずに去ってくれてホッとした」
キャスケット越しに手が乗ったのを感じる。頭ひとつ背が高い大輝を見上げる。大輝は目を細めて千紗を見下ろしていた。
「だから、何も言わせないって言っただろ」
千紗はうなずくと同時に視線を外した。
くすんだ緑色が全面に塗られた電車が入ってくる。中は人が大勢立っている。ホームで並ぶ人たちを見回す。朝のラッシュ時ほどではないが満員電車だ。
千紗は背負っていたリュックを下ろして手に持った。列が進む流れに乗って足を進める。大輝が千紗の背後にくっつくようにして電車に乗り込んできた。
乗り込んだ扉とは反対側の扉にぴったりと寄り添うように立つ。
扉が閉まる音がして、電車がゆっくりと動き出した。
何かの拍子に大きく電車が揺れて、多くの人がバランスを崩してぶつかり合う。
千紗は自分に誰の体も当たらないことに気づいた。首だけ後ろに向けて状況を見る。千紗の周りに少しの空間ができていて、千紗を覆うように立つ大輝が自分の体を支えるように右手を扉に、左手を手すりにかけていた。
「どうした。窮屈だったりする?」
声が降ってくるほうを見上げて、小さく首を振った。
大輝がモテるのは顔だけじゃない。
どうして彼女たちは自分をアクセサリーだと思ってるって言うんだろう。彼女たちは本当に好きかもしれないのに。
千紗は扉のほうに顔を戻して、ガラス窓の向こうで流れていく景色を見つめる。ふと目を上げて、ガラスに映る大輝の顔を盗み見た。
一眼レフはリュックに詰め込んだ。
待ち合わせ時間が迫っている。
千紗は小走りに駅へ向かった。
背負ったリュックサックのショルダーストラップを左右それぞれ握り、駅の階段を上る。右へ曲がって見えた改札の端、人々の通行の邪魔にならない位置に大輝が立っていた。白のフード付きトレーナーにジーパン、ブラウンの斜めがけボディバッグに同系色のスニーカーという出立ちだ。
近づいて声をかけようとして、大輝が女性と話していることに気づいた。女性は髪を緩くまとめて、グリーンのワンピースを着ている。ふんわりと丸いシルエットがかわいらしい。彼女は大輝の腕を掴んでいる。大輝の彼女かもしれない。
千紗は声をかけようか迷って立ちすくんだ。
2人をじっと見ていると、ふいに大輝の顔がこっちを向いた。右手を上げて大きく振ってくる。大輝の動きに合わせて振り向いた彼女の顔はわかりやすく曇っていった。
千紗は唇を軽く噛み、踏ん張りをきかせて歩き出す。
大輝たちに近づくにつれ、喉が渇いてくる。彼女は機嫌の悪そうな表情のまま大輝に向き直った。
さすがに初対面で嫌がらせされることはないだろうけど、昔のイヤな思い出がよみがえってくる。昨日、話をしたから鮮明に思い出されるのが悲しい。
何を言われるんだろう。どう答えればいいんだろう。
鼓動を速くさせながら一歩ずつ近づく。もう少ししたら、挨拶を交わさなきゃいけない距離だ。
そう思った時、彼女は大輝に肩を軽く押されて立ち去っていった。
何か文句を言われると思って警戒したせいで肩透かしを食らった気分だった。でも安堵のため息が出る。
大輝の手が千紗の頭に伸びてきた。
「おはよう。何、その格好。可愛いけど少年みたい。可愛いけどね」
噴き出すように笑ってくる。千紗はキャスケットの上から軽く頭を叩かれるという大輝の行動に子ども扱いされた気になった。そのうえ、さっきの女性らしい彼女を思い出して、口を尖らせてしまう。
「おはよっ。いいじゃない、別に。女らしいのが良かったら、彼女とデートすればいいでしょ。さっき話してたのって彼女のうちの1人でしょ」
大輝は千紗の頭から手を下ろして、彼女が立ち去った方向を見る。どこか苦々しい表情に見えた。
「あぁそうだよ。でも、デートはしない。彼女たちからの誘いを断るために動物園に行く予定を入れたんだから」
千紗の頭には疑問符が並ぶ。顔に出ていたんだろう。こちらを向いた大輝は右の上唇だけ吊り上げた。
「彼女たちと一緒にいるのに疲れたんだよ。でも、まさかあんな恐い顔をするなんてな。驚いた」
彼女たち、少なくても今の彼女は大輝と軽く遊んでるつもりはないんじゃないだろうか。
大輝が改札の中を指差して改札機にICカードをかざす。千紗も続いた。
ホームで電車を待つ列に並ぶ。
彼女が三股に文句を言わないのは、大輝と付き合っていたいからだと思う。
千紗はその言葉を飲み込んだ。
「まあ、遠目からでも彼女が不機嫌になっているのがわかったから、何も言わずに去ってくれてホッとした」
キャスケット越しに手が乗ったのを感じる。頭ひとつ背が高い大輝を見上げる。大輝は目を細めて千紗を見下ろしていた。
「だから、何も言わせないって言っただろ」
千紗はうなずくと同時に視線を外した。
くすんだ緑色が全面に塗られた電車が入ってくる。中は人が大勢立っている。ホームで並ぶ人たちを見回す。朝のラッシュ時ほどではないが満員電車だ。
千紗は背負っていたリュックを下ろして手に持った。列が進む流れに乗って足を進める。大輝が千紗の背後にくっつくようにして電車に乗り込んできた。
乗り込んだ扉とは反対側の扉にぴったりと寄り添うように立つ。
扉が閉まる音がして、電車がゆっくりと動き出した。
何かの拍子に大きく電車が揺れて、多くの人がバランスを崩してぶつかり合う。
千紗は自分に誰の体も当たらないことに気づいた。首だけ後ろに向けて状況を見る。千紗の周りに少しの空間ができていて、千紗を覆うように立つ大輝が自分の体を支えるように右手を扉に、左手を手すりにかけていた。
「どうした。窮屈だったりする?」
声が降ってくるほうを見上げて、小さく首を振った。
大輝がモテるのは顔だけじゃない。
どうして彼女たちは自分をアクセサリーだと思ってるって言うんだろう。彼女たちは本当に好きかもしれないのに。
千紗は扉のほうに顔を戻して、ガラス窓の向こうで流れていく景色を見つめる。ふと目を上げて、ガラスに映る大輝の顔を盗み見た。
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