23 / 80
16.動物園(6)
しおりを挟む
ウサギと触れ合い、ヤギやガチョウと走り回って柵の外に出る。入り口から柵伝いに外回りを歩き、人が少ない位置を見つけて立ち止まる。大輝には隣で待っててもらって、リュックからカメラを取り出した千紗はヤギやガチョウが走り回る姿を撮影した。ウサギは抱かれていることが多いので撮影はあきらめた。
千紗はカメラをリュックに片づけながら、数歩先をスキップするかのように歩く大輝を追って、動物園の入り口ゲートに向かう。
途中、動物たちのグッズやお菓子が売っているショップがあった。大輝は千紗を振り返って立ち止まり、ショップを指さす。追いついた千紗は腕をつかまれて、店の中へと引っ張られた。
入り口を入ってすぐのところに箱入り菓子が数種類並ぶ。
大輝の後を千紗がついていく形で品物を眺めながら奥へと進み、棚に挟まれた通路に入る。動物のイラストが入った文房具やタオルハンカチ、キーホルダーなどの小物類が置かれていて、そこで大輝が足を止めた。千紗の腕をつかんでいた手を離し、小物を手に取って物色を始める。
千紗は歩くのを止めず、小物類の棚から裏へと回って、奥の棚一面に陳列されたぬいぐるみの元へと行く。ぬいぐるみは手のひらサイズから人間の幼児ほどの体格のものまで様々な大きさのものが置かれていた。
3歳くらいの女の子が自分の顔と同じくらいのパンダを持って母親にねだっていたり、小学生らしい兄弟がそれぞれ虎とゴリラの大きさが違うぬいぐるみを持って、どの大きさにするか迷っていたりする。
千紗は、ぬいぐるみが好きなわけではない。なぜか動物園にくると興味を惹かれてしまうのは動物園マジックではないかと思っている。
魔法にかかっていると思いつつも、獰猛なトラが可愛らしいぬいぐるみになっているのを見ると愛おしくなり、思わず手を伸ばす。
抱きかかえられるくらいのものが魅力的だが、金額と持って帰ることを考えると躊躇する。控えめに、片手では持ちにくいが両手だとゆとりある大きさのものを選んだ。手に取って、虎と見つめあいながら頭を撫でる。1人ニヤついていると、横から手が伸びてきて、ぬいぐるみを取られた。
手から持ち上がっていったそれを目で追う。ぬいぐるみを取ったのは大輝だった。虎と目を合わせて目を細めている。
「これ、買ってあげるよ」
千紗は目を見開いて、顔の前で勢いよく手を振る。
「いいよ、自分で買うから大丈夫」
「今日、無理やりついてきたお礼」
「お礼って、入場チケットも買ってくれたじゃない。十分だよ」
「あ、じゃあ代わりにこれ買って」
代わりに差し出されたのは、2つのキーホルダーで1つはウサギ、1つはライオンのモチーフがついている。
金額的に大きな差を感じ、気が引けるけれど提案を受けることにした。
それぞれ会計を済ませて、店外へ出る。
動物園のゲートへと向かって歩きながら、千紗はキーホルダーが入った袋を大輝に渡す。交換のように大輝はぬいぐるみが入った袋を差し出してきた。
「リュックに入れようか」
大輝は千紗の背後へと回ってきて、リュックを後ろに引っ張った。それが合図だったかのように千紗は足を止める。
2人の両脇をゲートから入ってきた子どもたちが走り抜けていく。まだ元気さがある親が軽やかにその後を追っていった。
大輝がリュックを叩く。入れ終わったのだろう、千紗の横へ並んで歩き始めた。千紗もそれにならう。
「お腹空いた。お昼どこかで食べようよ」
キーホルダーが入った袋に手を入れていた大輝がウサギのモチーフの方を取り出し、ライオンが入ったままの袋を千紗の目の前に突き出した。
「これ、松村さんに」
反射的に袋を持ってしまう。
「え、でも」
「いいから、いいから」
戸惑う千紗の反論を抑えるように声をかぶせてくる。
突き返しても、大輝は受け取らなさそうな気がする。千紗はキーホルダーが入った袋を見ながら、礼を言った。自分で払っているのに変な話だけれど、口をついて出てしまった。
太陽がかなり高く昇っていて、大輝の表情はまぶしくて見えない。
「おそろいのような、おそろいでないような」
大輝の冗談めいた口調に、千紗は恨めしそうな目をする。
「おそろいは困るんだけどな」
軽く頭を叩かれた。
「だから、おそろいでないようなって言っただろ。ってか、帽子かぶってるから、髪触れないな」
ふてくされたような声が頭の上から降ってくる。
動物園のゲートを出ようとしたところで、係の人に再入場のスタンプを押すか聞かれた。2人同時にそれを断って、ゲートを出た。
千紗はカメラをリュックに片づけながら、数歩先をスキップするかのように歩く大輝を追って、動物園の入り口ゲートに向かう。
途中、動物たちのグッズやお菓子が売っているショップがあった。大輝は千紗を振り返って立ち止まり、ショップを指さす。追いついた千紗は腕をつかまれて、店の中へと引っ張られた。
入り口を入ってすぐのところに箱入り菓子が数種類並ぶ。
大輝の後を千紗がついていく形で品物を眺めながら奥へと進み、棚に挟まれた通路に入る。動物のイラストが入った文房具やタオルハンカチ、キーホルダーなどの小物類が置かれていて、そこで大輝が足を止めた。千紗の腕をつかんでいた手を離し、小物を手に取って物色を始める。
千紗は歩くのを止めず、小物類の棚から裏へと回って、奥の棚一面に陳列されたぬいぐるみの元へと行く。ぬいぐるみは手のひらサイズから人間の幼児ほどの体格のものまで様々な大きさのものが置かれていた。
3歳くらいの女の子が自分の顔と同じくらいのパンダを持って母親にねだっていたり、小学生らしい兄弟がそれぞれ虎とゴリラの大きさが違うぬいぐるみを持って、どの大きさにするか迷っていたりする。
千紗は、ぬいぐるみが好きなわけではない。なぜか動物園にくると興味を惹かれてしまうのは動物園マジックではないかと思っている。
魔法にかかっていると思いつつも、獰猛なトラが可愛らしいぬいぐるみになっているのを見ると愛おしくなり、思わず手を伸ばす。
抱きかかえられるくらいのものが魅力的だが、金額と持って帰ることを考えると躊躇する。控えめに、片手では持ちにくいが両手だとゆとりある大きさのものを選んだ。手に取って、虎と見つめあいながら頭を撫でる。1人ニヤついていると、横から手が伸びてきて、ぬいぐるみを取られた。
手から持ち上がっていったそれを目で追う。ぬいぐるみを取ったのは大輝だった。虎と目を合わせて目を細めている。
「これ、買ってあげるよ」
千紗は目を見開いて、顔の前で勢いよく手を振る。
「いいよ、自分で買うから大丈夫」
「今日、無理やりついてきたお礼」
「お礼って、入場チケットも買ってくれたじゃない。十分だよ」
「あ、じゃあ代わりにこれ買って」
代わりに差し出されたのは、2つのキーホルダーで1つはウサギ、1つはライオンのモチーフがついている。
金額的に大きな差を感じ、気が引けるけれど提案を受けることにした。
それぞれ会計を済ませて、店外へ出る。
動物園のゲートへと向かって歩きながら、千紗はキーホルダーが入った袋を大輝に渡す。交換のように大輝はぬいぐるみが入った袋を差し出してきた。
「リュックに入れようか」
大輝は千紗の背後へと回ってきて、リュックを後ろに引っ張った。それが合図だったかのように千紗は足を止める。
2人の両脇をゲートから入ってきた子どもたちが走り抜けていく。まだ元気さがある親が軽やかにその後を追っていった。
大輝がリュックを叩く。入れ終わったのだろう、千紗の横へ並んで歩き始めた。千紗もそれにならう。
「お腹空いた。お昼どこかで食べようよ」
キーホルダーが入った袋に手を入れていた大輝がウサギのモチーフの方を取り出し、ライオンが入ったままの袋を千紗の目の前に突き出した。
「これ、松村さんに」
反射的に袋を持ってしまう。
「え、でも」
「いいから、いいから」
戸惑う千紗の反論を抑えるように声をかぶせてくる。
突き返しても、大輝は受け取らなさそうな気がする。千紗はキーホルダーが入った袋を見ながら、礼を言った。自分で払っているのに変な話だけれど、口をついて出てしまった。
太陽がかなり高く昇っていて、大輝の表情はまぶしくて見えない。
「おそろいのような、おそろいでないような」
大輝の冗談めいた口調に、千紗は恨めしそうな目をする。
「おそろいは困るんだけどな」
軽く頭を叩かれた。
「だから、おそろいでないようなって言っただろ。ってか、帽子かぶってるから、髪触れないな」
ふてくされたような声が頭の上から降ってくる。
動物園のゲートを出ようとしたところで、係の人に再入場のスタンプを押すか聞かれた。2人同時にそれを断って、ゲートを出た。
0
あなたにおすすめの小説
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
先生
藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。
町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。
ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。
だけど薫は恋愛初心者。
どうすればいいのかわからなくて……
※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)
イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団の異色男子
ジャスティン・レスターの意外なお話
矢代木の実(23歳)
借金地獄の元カレから身をひそめるため
友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ
今はネットカフェを放浪中
「もしかして、君って、家出少女??」
ある日、ビルの駐車場をうろついてたら
金髪のイケメンの外人さんに
声をかけられました
「寝るとこないないなら、俺ん家に来る?
あ、俺は、ここの27階で働いてる
ジャスティンって言うんだ」
「………あ、でも」
「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
女の子には興味はないから」
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
楠ノ木雫
恋愛
蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる