【完結】恋なんてしない、つもりだったのに。

高羽志雨

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16.動物園(6)

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 ウサギと触れ合い、ヤギやガチョウと走り回って柵の外に出る。入り口から柵伝いに外回りを歩き、人が少ない位置を見つけて立ち止まる。大輝には隣で待っててもらって、リュックからカメラを取り出した千紗はヤギやガチョウが走り回る姿を撮影した。ウサギは抱かれていることが多いので撮影はあきらめた。

 千紗はカメラをリュックに片づけながら、数歩先をスキップするかのように歩く大輝を追って、動物園の入り口ゲートに向かう。

 途中、動物たちのグッズやお菓子が売っているショップがあった。大輝は千紗を振り返って立ち止まり、ショップを指さす。追いついた千紗は腕をつかまれて、店の中へと引っ張られた。

 入り口を入ってすぐのところに箱入り菓子が数種類並ぶ。
 大輝の後を千紗がついていく形で品物を眺めながら奥へと進み、棚に挟まれた通路に入る。動物のイラストが入った文房具やタオルハンカチ、キーホルダーなどの小物類が置かれていて、そこで大輝が足を止めた。千紗の腕をつかんでいた手を離し、小物を手に取って物色を始める。

 千紗は歩くのを止めず、小物類の棚から裏へと回って、奥の棚一面に陳列されたぬいぐるみの元へと行く。ぬいぐるみは手のひらサイズから人間の幼児ほどの体格のものまで様々な大きさのものが置かれていた。

 3歳くらいの女の子が自分の顔と同じくらいのパンダを持って母親にねだっていたり、小学生らしい兄弟がそれぞれ虎とゴリラの大きさが違うぬいぐるみを持って、どの大きさにするか迷っていたりする。

 千紗は、ぬいぐるみが好きなわけではない。なぜか動物園にくると興味を惹かれてしまうのは動物園マジックではないかと思っている。
 魔法にかかっていると思いつつも、獰猛なトラが可愛らしいぬいぐるみになっているのを見ると愛おしくなり、思わず手を伸ばす。

 抱きかかえられるくらいのものが魅力的だが、金額と持って帰ることを考えると躊躇する。控えめに、片手では持ちにくいが両手だとゆとりある大きさのものを選んだ。手に取って、虎と見つめあいながら頭を撫でる。1人ニヤついていると、横から手が伸びてきて、ぬいぐるみを取られた。
 
 手から持ち上がっていったそれを目で追う。ぬいぐるみを取ったのは大輝だった。虎と目を合わせて目を細めている。

「これ、買ってあげるよ」

 千紗は目を見開いて、顔の前で勢いよく手を振る。

「いいよ、自分で買うから大丈夫」

「今日、無理やりついてきたお礼」

「お礼って、入場チケットも買ってくれたじゃない。十分だよ」

「あ、じゃあ代わりにこれ買って」

 代わりに差し出されたのは、2つのキーホルダーで1つはウサギ、1つはライオンのモチーフがついている。
 金額的に大きな差を感じ、気が引けるけれど提案を受けることにした。
 それぞれ会計を済ませて、店外へ出る。

 動物園のゲートへと向かって歩きながら、千紗はキーホルダーが入った袋を大輝に渡す。交換のように大輝はぬいぐるみが入った袋を差し出してきた。

「リュックに入れようか」

 大輝は千紗の背後へと回ってきて、リュックを後ろに引っ張った。それが合図だったかのように千紗は足を止める。

 2人の両脇をゲートから入ってきた子どもたちが走り抜けていく。まだ元気さがある親が軽やかにその後を追っていった。
 大輝がリュックを叩く。入れ終わったのだろう、千紗の横へ並んで歩き始めた。千紗もそれにならう。

「お腹空いた。お昼どこかで食べようよ」

 キーホルダーが入った袋に手を入れていた大輝がウサギのモチーフの方を取り出し、ライオンが入ったままの袋を千紗の目の前に突き出した。

「これ、松村さんに」

 反射的に袋を持ってしまう。

「え、でも」

「いいから、いいから」

 戸惑う千紗の反論を抑えるように声をかぶせてくる。
 突き返しても、大輝は受け取らなさそうな気がする。千紗はキーホルダーが入った袋を見ながら、礼を言った。自分で払っているのに変な話だけれど、口をついて出てしまった。

 太陽がかなり高く昇っていて、大輝の表情はまぶしくて見えない。

「おそろいのような、おそろいでないような」

 大輝の冗談めいた口調に、千紗は恨めしそうな目をする。

「おそろいは困るんだけどな」

 軽く頭を叩かれた。

「だから、おそろいでないようなって言っただろ。ってか、帽子かぶってるから、髪触れないな」

 ふてくされたような声が頭の上から降ってくる。
 動物園のゲートを出ようとしたところで、係の人に再入場のスタンプを押すか聞かれた。2人同時にそれを断って、ゲートを出た。
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