【完結】恋なんてしない、つもりだったのに。

高羽志雨

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17.ハンバーガーランチ(1)

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 ゲート前広場で立ち止まっていると、携帯電話を見ていた大輝が左の方向へ歩き出す。

「うまそうなハンバーガーの店、見つけたんだ。そこ行こ」

 5分ほど歩いて、軒先に張り出した黄色いテントに茶色い文字で『Hamburger Shop』と書かれた建物が見えてきた。
 大輝は数歩先に歩き、軒の下にある木でできた2段だけの階段を昇る。千帆も後に続いた。

 太陽の光を多く取り入れる店内は明るく、入り口すぐのカウンター横に千帆の背丈ほどのヤシの木が飾られている。
 カウンターでメニューを注文して会計するシステムらしい。店内を見渡すと、席には余裕があった。先に席取りに行く必要はなさそうだ。

 大輝と千紗はカウンターに置かれたメニューを見て、それぞれ『ベーコンチーズバーガー』と『アボカドバーガー』を注文する。どちらもフライドポテトとミニサラダ、飲み物はセットになっている。飲み物は2人とも『ジンジャーエール』を選ぶ。個別に会計をすませ、料理ができあがったら知らせてくれるベルを店員から受け取る。

 カウンターから振り返って通路をまっすぐ進む。道に面している側は天井から床まで一面ガラス張りになっていて、そのガラスに直角になるように4人掛けのテーブルが3つ置かれている。大輝が先に歩き、一番奥の席を選ぶ。自分は手前の椅子を引いてバッグを置き、腰を下ろし、千紗には奥へ行くように手で促した。

 肩からリュックを下ろし、長椅子に置いて奥へ滑らす。大輝の向かいになる位置に座って、背中側にある壁に頭をもたれかけさせる。
 テーブルや椅子は全て木でできていてゴツゴツしているが、座り心地は悪くない。

 千紗は好奇心旺盛な子どものように店内を見回す。

「いい雰囲気の店だね。ちょっと海外へ来た気分」

 軽快なBGMが流れている。千紗は正面に座ったものの、大輝の顔を見れず、店内を見回した後、ガラス張りの外を眺める。

「あ、今日はごめんね。写真撮るだけに付き合ってもらって」

 千紗がつき合わせたわけではない。大輝もわかっているからチケット代などを払ってくれたのだ。
 ただ沈黙が続くのがイヤで何か話そうとしたら、これしか言葉が出てこなかった。
 
 大輝に視線を向ける。両肘をついて、こちらを見ていた。

「何言ってんだよ。俺がついてきたんだろ。まあ、動物園にくるのなんて小学生以来だったから楽しかった」

「南くん、動物と同じ動きしたりしてたもんね。意外な一面見た気がする」

 千紗は両手を膝と椅子の間にはさんで、膝下をブランコのように揺らす。大輝の目が泳いだように見えた。上目づかいで千紗を見てくる。

「ガキっぽかったかな」

 その様子に自然と口角が上がり、目尻が下がった千紗はゆっくり首を横に振った。
 テーブルの上に置いた2つの呼び出しベルが大きな音を発する。

 荷物があるので、交代で自分が注文したハンバーガーセットを取りに行くことにした。大輝は千紗の分も取ってくると言ってくれた。でも、千紗はこれ以上、彼の好意に甘えると気持ちが持っていかれそうな自分が怖くて力いっぱい断った。

 後から取りに行った大輝が戻ってきて、席に座ったのを合図にしたのか2人の声がそろった。

「いただきます」

 大きく口を開いてかぶりつく。ボリュームがあって、千紗は顎が外れそうな気がした。目の前で大輝は口いっぱいに頬張っている。中性的な美人顔がハンバーガーを頬張る姿は小動物が一生懸命エサを食べているようにしか見えない。

 ハンバーガーを半分ほど食べて、空腹感が落ち着いた千紗は皿にハンバーガーを置いた。

「南くんってさ、なんで3股とか4股とかするの。1人と付き合おうって思わないの」

 大輝が口に含んでいたストローからジンジャーエールを吹き出した。

「いきなり、何」

「あ、ごめん。今日一緒に過ごしてて、気遣いとか優しさとかが何股もかけるような人に思えなくて」

 単に軽い人だったら、自分の気持ちもこれ以上深入りすることがなくなるはずだ。

 大輝が口元をペーパーで拭く。
 顔を窓の外へ向けた。

「俺、人を好きになるの止めたんだ」
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