【完結】恋なんてしない、つもりだったのに。

高羽志雨

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21.大輝の変化(2)

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 蓮が紙パックのコーヒー牛乳を飲み干し、パックを握りつぶした。

「大輝、何か変だったよな。何かと絡んでた千紗ちゃんに全然話しかけないし」

 太陽を隠すように広がる雲のおかげで、夏に向かっていく季節の日差しが遮られて真昼間の屋上でも過ごしやすい。髪を揺らさない程度に吹く風も心地いい。
 悠里が食べ終えたお弁当箱の蓋を閉め、千紗の肩に手を乗せてきた。

「何か心当たりとかあるの」

 千紗はお弁当箱に残った最後の玉子焼きを箸でつかみながら、2人の顔を見る。
 
 土曜日に2人で動物園に行ったこと、夕方に相田と会ったこと、先に自分が帰ってからは一切連絡がなかったことを話す。大輝と話した内容には触れず、ただ事実だけを。
 瞬きもなく2人から見つめられて、千紗はバツが悪くなる。

「イヤ、別に南くんと特別親しくなろうって思ってたわけじゃないよ。一緒に行くって言われて一回は断ったけど、それでもってなったから、まあいいかなって。でも、駅で彼女らしき人と鉢合わせて睨まれて、強く断れば良かったって反省して、夕方に相田さんに2人でいるとこ見られて、相田さんが南くんに告白するとこに立ち会う羽目になって」

 苦笑いが浮かぶ。

「私、何やってんだろって思ったよ」

 表情なく話を聞いていた悠里が何かを思い出したのか、声もなく口を開けた。

「そういえば、今朝、相田さんに待ち伏せされて何か言われてたよね。謝られたって言ってたけど、本当になんのことかわからない?南くんに告白するところに居合わせちゃったわけだし」

 悠里の話に蓮が声を漏らした。

「あ、それ、俺も見た。大輝と一緒に千紗ちゃんの後ろを歩いててさ。で、相田が千紗ちゃんに話しかけたのを見た大輝が走り出しそうになったから、肩をつかんで抑えたんだよ。生徒がいっぱい歩いてるなかで目立つアイツが走って近寄ったら、話がややこしくなりそうだろ」

 3人とも苦笑する。頬を掻く者、声を漏らす者、ため息に変わる者それぞれだ。
 千紗はお弁当箱を巾着袋に入れた。

「あれ、私もよくわからないんだよね。朝、悠里に言ったとおり、ただ謝られたんだよ。だから私のほうが悪いって謝り返したんだけど、そうじゃないって言われて、謝ったからねって念押しされて、なんのことか言ってくれなかった。」

 ふーっと息を吐く。
 悠里もお弁当箱を片付ける。

「千紗の方が悪いって何」

「あ、それは、前に相田さんに言われたんだ。南くんに興味がないなら近づかないでって。なのに、学校が休みの日に2人で出かけたからさ。だから、相田さんにしたら私の行動のほうが謝ることかなって。それにさっきも言ったけど、南くんに告白して振られるところに居合わせちゃったし」

 蓮が空に向かって両手を伸ばす。

「ははっ、相田のけん制だな。千紗ちゃんだけじゃなくて誰にでも言ってんだろ。謝る内容じゃないよ。あ、そういうヤキモチには過敏になるかもしれないけどさ。告白のことだって、千紗ちゃんがいるのわかってて、相田がしたことなんだから」

 千紗は唇に力を入れて目線を床に落とす。
 思い出すことがあって、蓮の顔を見た。

「そういえば、蓮くん、南くんが私と相田さんを見て走り出しそうになったって言ったけど、なんで南くんは走りかけたの」

 風が止んだ。中庭やグラウンドから生徒たちの声が聞こえてくる。
 蓮は首をかしげた。悠里も同じ仕草だ。

「わかんないんだよ。大輝に『何か気になる事でもあるのか』って聞いたんだけど、『だって相田さんが松村さんに話しかけてるから。俺、行かなきゃ』って言うだけでさ」

 蓮が体より少し後ろの床に手をつく。

「大輝が千紗ちゃんと相田の話に関係してるってわかんないのに、話に割って入るっておかしいだろ。だって話してることは聞こえてきてないんだから」

 手に体重をかけるように上向きで体を伸ばしている。

「だから言ってやったんだよ。『お前、千紗ちゃんのこと、かまいすぎじゃないか』って。『そうやって他の女子から庇ったり、頭撫でたり。1年のころからお前のこと知ってるけど、千紗ちゃん以外にそんなことしてるの見たことねえよ』って。そしたら黙りやがった」

 千紗がペットボトルのお茶を飲んで、細く息を吐いた。

「私だけなんだ」

「少なくても俺は千紗ちゃん以外で見たことない」

 千紗が大きく溜め息をついた。

「同じようなこと南くんに言ったかも。私だけにしてるって思ってなかったから、『そんなに人のこと褒めたり、スキンシップしたりしたら女子は南くんに好意持たれてるみたいに勘違いするよ』って」

 3人で顔を見合わせて首をかしげる。

「どの話も、大輝が千紗ちゃんへの態度を変える理由にならないよな」

「うん、たぶん」

「蓮、聞けそうなら南くんに聞いてみてよ」

 予鈴が聞こえて、3人は慌ただしく立ち上がり、スカートやズボンのほこりをはらった。
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