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30.ダブルデート~お化け屋敷~
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右手に懐中電灯を持った大輝が歩き始めた。千紗は引っ張られるようについていく。
最初はただ効果音だけが響き、少し歩くと扉などが動く音が聞こえてくる。そのたびに千紗は小声で悲鳴をあげ、大輝は噴き出していた。
途中、白装束の髪の長い女性が顔から血を流して出てきたり、江戸時代の町人らしい男性が顔をあげたらのっぺらぼうだったり、ゴールに近づくにつれておどろおどろしさが増してくる。千紗は出てくるたびに悲鳴を上げていたけれど、あと少しで出口というところで足がすくんで、両腕で大輝にしがみついて足を止める。頭の上からため息が聞こえた。
「松村さん、そんなにしがみつかれたら歩けないよ。あと少しだから離れて」
千紗は全体重を大輝に預けるような体勢になっていることに気づいた。体を起こして少しだけ離れる。
ただ怖すぎて、手をつないでいる手とは別の手も大輝の腕をつかませてもらった。
出口の扉前で、大輝が懐中電灯を返すと、係の人が扉を開けてくれた。外へ出て、明るい陽射しに目を細めたとき、つないでいた手を離された。千紗は大輝の腕をつかんでいたほうの手を離す。
「ご迷惑おかけしました」
怖かったとはいえ、さすがに自分の行動が恥ずかしくなり、消え入りそうな声で謝る。少し前をいる大輝は振り組むかない。
「いいよ」
普段聞く声よりも低い。不機嫌な感じがしないでもない。
大輝が早足で前の道を横切って生垣のあるほうへ行く。
蓮と悠里が出てくるのを待つつもりなのだろう。
生垣の前で立ち止まった大輝は振り返った。後ろを歩いてついていっていた千紗はぶつかりそうになって、彼を見上げた。一瞬、目が合ったけれど、すぐにそらされる。
大輝の目はお化け屋敷の出口へと向けられた。
蓮が悠里の肩を抱くようにしながら出てきた。千紗と大輝に気づいて、手を振ってくる。
道の真ん中で合流して、言葉を交わさずに意思疎通を図り、同じ方向に向かって歩き出す。悠里は蓮に肩を抱かれたままなので、自然と千紗は大輝と並んで歩くことになった。
うつむいたままの悠里が気になって、後ろから声をかけた。
「悠里、どうしたの」
肩から頭が離れて首が自由に動くようになった蓮が振り返る。
「お化け屋敷が怖かったらしくてさ、泣きじゃくってて。やっと落ち着いてきたみたいだわ」
「えーっ。あんなに乗り気だったのに?」
千紗は大声をあげてしまう。大輝はまた噴き出した。
「入る前から嫌がってた松村さんより怖がってんだ」
蓮の腕を自分の肩から離した悠里は顔を後ろに向けてきた。
少しにらまれている気もする。
「だって、子どもだまし程度だと思ったし。距離縮めるにはいいだろうし」
声を荒げて話し出した悠里の声はだんだんと小さくなった。
蓮と大輝がそろって彼女のほうを見る。
「距離を縮める?」
男2人の声がきれいにそろった。
悠里は2人を交互に見始めた。
「うん。そう」
短い返事だったが、それ以上何も聞くなという圧が込められている感じがした。2人も同じように感じたらしく、何か言いたそうにしていた様子を引っ込めた。
『距離を縮める』というのは、たぶん千紗と大輝のことだろう。
千紗は前へ向き直した悠里と蓮の後ろ姿を見つめてから、隣を歩く大輝を見上げる。彼も千紗を見ていた。
数秒、見つめあった後、大輝は前へと視線を戻す。
「口、開いてる」
千紗は前を向くと同時に、力を入れて口を閉じた。
最初はただ効果音だけが響き、少し歩くと扉などが動く音が聞こえてくる。そのたびに千紗は小声で悲鳴をあげ、大輝は噴き出していた。
途中、白装束の髪の長い女性が顔から血を流して出てきたり、江戸時代の町人らしい男性が顔をあげたらのっぺらぼうだったり、ゴールに近づくにつれておどろおどろしさが増してくる。千紗は出てくるたびに悲鳴を上げていたけれど、あと少しで出口というところで足がすくんで、両腕で大輝にしがみついて足を止める。頭の上からため息が聞こえた。
「松村さん、そんなにしがみつかれたら歩けないよ。あと少しだから離れて」
千紗は全体重を大輝に預けるような体勢になっていることに気づいた。体を起こして少しだけ離れる。
ただ怖すぎて、手をつないでいる手とは別の手も大輝の腕をつかませてもらった。
出口の扉前で、大輝が懐中電灯を返すと、係の人が扉を開けてくれた。外へ出て、明るい陽射しに目を細めたとき、つないでいた手を離された。千紗は大輝の腕をつかんでいたほうの手を離す。
「ご迷惑おかけしました」
怖かったとはいえ、さすがに自分の行動が恥ずかしくなり、消え入りそうな声で謝る。少し前をいる大輝は振り組むかない。
「いいよ」
普段聞く声よりも低い。不機嫌な感じがしないでもない。
大輝が早足で前の道を横切って生垣のあるほうへ行く。
蓮と悠里が出てくるのを待つつもりなのだろう。
生垣の前で立ち止まった大輝は振り返った。後ろを歩いてついていっていた千紗はぶつかりそうになって、彼を見上げた。一瞬、目が合ったけれど、すぐにそらされる。
大輝の目はお化け屋敷の出口へと向けられた。
蓮が悠里の肩を抱くようにしながら出てきた。千紗と大輝に気づいて、手を振ってくる。
道の真ん中で合流して、言葉を交わさずに意思疎通を図り、同じ方向に向かって歩き出す。悠里は蓮に肩を抱かれたままなので、自然と千紗は大輝と並んで歩くことになった。
うつむいたままの悠里が気になって、後ろから声をかけた。
「悠里、どうしたの」
肩から頭が離れて首が自由に動くようになった蓮が振り返る。
「お化け屋敷が怖かったらしくてさ、泣きじゃくってて。やっと落ち着いてきたみたいだわ」
「えーっ。あんなに乗り気だったのに?」
千紗は大声をあげてしまう。大輝はまた噴き出した。
「入る前から嫌がってた松村さんより怖がってんだ」
蓮の腕を自分の肩から離した悠里は顔を後ろに向けてきた。
少しにらまれている気もする。
「だって、子どもだまし程度だと思ったし。距離縮めるにはいいだろうし」
声を荒げて話し出した悠里の声はだんだんと小さくなった。
蓮と大輝がそろって彼女のほうを見る。
「距離を縮める?」
男2人の声がきれいにそろった。
悠里は2人を交互に見始めた。
「うん。そう」
短い返事だったが、それ以上何も聞くなという圧が込められている感じがした。2人も同じように感じたらしく、何か言いたそうにしていた様子を引っ込めた。
『距離を縮める』というのは、たぶん千紗と大輝のことだろう。
千紗は前へ向き直した悠里と蓮の後ろ姿を見つめてから、隣を歩く大輝を見上げる。彼も千紗を見ていた。
数秒、見つめあった後、大輝は前へと視線を戻す。
「口、開いてる」
千紗は前を向くと同時に、力を入れて口を閉じた。
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