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第3章 〜転校生〜

(13) 佐伯は実は甘党でした。

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 ショーケースの中には可愛らしい自家製チョコレートや焼き菓子が、お行儀よく並べられて…穏やかな時間が流れる店内。
そんな場所に、穏やかとは対極的な存在が来店する。

「ここが俺のお気に入りの場所だぜェェ」

「「「!?」」」

「なんだよお前らァァ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔しやがって、そんなに俺がこの場所に来ることが意外かァァ?」

 ここで咄嗟にアネッサが弁明する。

「い、いやそういうつもりじゃないんだけど、佐伯さんがこんな素敵なところ知ってるんだなー。と思って…」

「まァァ、人に紹介するのはこれが初めてだからなァァ、驚くのも無理はねェェ。とりあえず奥の席まで移動するぞ」

 そう言って慣れた足取りで店内を歩く辺り、本当に佐伯はこの店を気に入って通い詰めているらしい。
意外と言えば意外だが、こんな可愛らしい一面も持ち合わせているのは女子ウケ抜群だろう。
 ただし、"ヤンキー属性がなければ"の話だが…

 奥まった席に着いたアネッサと佐伯、ついでにリサと保護者の僕が着席する。

「それで、大事な話なんだがァァ、実はこの前商店街のガラガラ抽選会でこんなのが当たっちまってよぉ」

 そう言いながら、佐伯が丸テーブルの上に細長い紙を1枚差し出す。

「団体旅行チケットらしいが、一緒に行く相手が居なくてよぉ、どうせなら司とアネッサも一緒に連れて行こうかと思ったんだが……そこのお前も一緒に来るかァァ?」

「私は王女様の従者ですよ?無論着いていきます!」

「そうかァァ、なら決まりだなァァ。日程は再来週の土曜日と日曜日の一泊2日だァァ。お前ら予定開けとけよォォ?」

「「ちょ、ちょっと待って!私(僕)の意見は聞かないの!?」」

 ここでアネッサと僕の言動がシンクロする。
すると、佐伯がキョトン…とした顔で僕たちの顔を交互に二度三度ぱちくりと見つめながらこう言った。

「なんだよ、お前ら来ないのかァァ?」

「「………行く(行きます)」」

「なら決まりだ、こっからは堅っ苦しい話は抜きにしてケーキでも食おうぜェェ」

 どうやら、佐伯は僕という人間を深く理解しているらしい…コイツには嘘は付けないな…
などと考えながら飲むアイスコーヒーは、冷たいはずなのに僕の心をじんわりと暖かくしていった…
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