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第3章 〜転校生〜

(19)転校生と登校デート?

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「金元様~!早く行きますよ~!」

 そう僕に催促してくるのは、高校生らしい制服に身を包んだアイボリーブラックの髪が良く似合う美人ことリサだ。
 そんな美人に催促されてる時点で僕は幸せ者なのかもしれないが、あの美人のせいで僕のクマが広がってしまったのを鑑みると、やはり僕は不幸者なのかもしれない。

「あ、あぁ。ちょっと待ってくれ、昨日は誰かさんのせいでよく眠れなかったんだ…」

「むむ!誰かさんって誰なんです?もしかして私…?」

 どうやら自覚症状すら危ういようだ。

 リサはひとまず置いておくとして、アネッサがこの時間になっても玄関に居ないのは何故だろう。
いつもならリサと同じくこの時間帯は目を擦る僕を無理矢理学校へ連れて行くのに、どこか体調が悪いのだろうか…?
 そんな心配をしつつも、そろそろ行かねば遅刻してしまうので、仕方なくリサと共に家を出る。

「---王女様はどうしたのでしょうね?一応家を出る前に声を掛けたのですが、返事すらなく…心配です!」

「君は人の心配をする前に自分を心配した方が良いんじゃないか?」

「な、何故です!?私は人に心配されるようなことをした覚えはないのですが…」

 そう言いながら必死で過去の自分の行動を思い返そうとしているリサを見て、僕は思わず笑ってしまいそうになる。

「むむ!?人が必死に考え込んでるのにニヤニヤするなんて失礼だと思いますよ!」

 そう僕に真剣に諭してくるのて、僕はとうとう我慢できずに吹き出してしまった。

「悪い悪い。ほんの冗談のつもりだったんだ。そこまで悩むとは思ってなくてな(笑)」

「冗談だったんですか!?む~。金元様もお人が悪い…」

 俯きながら歩くリサを見て、少々罪悪感を感じてしまったので、どうにかご機嫌を取ろうと僕は悪魔の単語を口に出す。

「また今度"ケーキ"買ってあげるからそんなにしょげないでくれよ。な?」

 そう言った瞬間、リサの口がニヤリと歪む。

「言いましたね?ケーキですよ?言質取ったどー!」

 どうやら僕はまんまとリサの策にハメられたようだ。まったく、流石侍女長とでも言うべきだろうか、抜け目がない。

 こんなくだらない会話を続けていると、あっという間に学校に着いた。
校門では体育の教師が寝ぼけながら登校する生徒に向かって大声で挨拶して喝を入れている。

「「おはようございま~す」」

「うむ!おはよう!今日も一日気合いを入れて頑張ろうじゃないか!」

 今の時代、ここまで気合いが入っている熱血教師は少ないのではないだろうか。僕は若干先生の挨拶の声量にビビりながらも校門を潜り、靴を下駄箱に入れ、教室までリサと共に向かう。

「あの先生、凄い声量でしたね。騎士団長にも劣らない気合いがひしひしと伝わってきましたよ」

「ははは、騎士団長と同格だなんて、あの教師も大したもんだな(笑)」

 そんなやり取りを2度3度続けていると、教室の目の前まで来てしまった。
 だが、ここで僕は前回の過ちを2度も繰り返さないように、リサと共に教室に入るようなバカな真似はしない。
一旦リサを先に入らせて、僕は時間差で入るのだ。
こんなことをしてもあの空気読めないマンはどうせ何かしら爆弾発言をするのだろうが、とりあえず今は難を逃れられる策なので、良しとしよう。

 ガラガラガラ……
既に教室に居る生徒の視線が引き戸の人物へと注目される。

「皆さんおはようございます!今日もいい天気ですね」

「あ!リサさんだ~!おはよ~。分かんないことあったら私にも色々聞いてくれてオッケーだよ~」 

「あら、本当ですか!?助かります!」

 どうやらリサはもうクラスに馴染みだしているようだ。流石のコミュ力に僕も驚きを隠せない。
 リサがクラスメイト達と楽しく会話してる隙に、僕は引き戸を静かに開け、そそくさと自分の席へ着席する。これでもう昼休みに大勢のクラスメイトが僕の席へ群がることはないだろう。
 自分の席へ着き、ホッとしていると、ふと隣の席に人が座っていないのが目に映った。
無論、隣の席はアネッサなので僕は心配する。
この1ヶ月休むことは一度たりともなかったアネッサが病欠とは、大丈夫だろうか…
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