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第一話
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まるで深い眠りから覚めるように、意識が少しずつ戻ってきた。
まぶたの向こうから差し込む光が、私を目覚めへと促している。
ゆっくりと目を開けると、真っ白な天井が広がっていた。
四方から降り注ぐ人工的な光が、部屋の中に満ちていた。けれど、その白い光にはまったく温もりがなくて、どこか寂しい感じがした。
首を少し動かして周りを見渡すと、壁も床も全部真っ白なパネルで覆われていて、まるで箱の中にいるみたいだった。とにかく、この部屋には窓がない。だから、外の世界がどうなっているのか想像もできなかった。
私が横になっているのは、病院のベッドみたいなもの。白いシーツの感触は柔らかいけど、何だか落ち着かない。体を起こそうとしたとき、病院特有の消毒液の匂いが鼻をくすぐった。
ベッドの隣には、点滴スタンドが静かに立っていた。てっぺんには見たことのない機械が取り付けられていて、小さな画面にはカラフルな線が踊るように動いていた。
白い壁に掛けられた、大きな鏡が目に入った。
そこに映っているのは、ベッドの上にいる女の子だ。驚くほど白い肌をした少女が、私を見つめ返していた。それは、お人形のように白かった。
その少女は、これまでに見たことがないような青い髪を持っていた。肩のあたりまでゆらゆらと揺れるその髪は、鮮やかな青色で、病室の白い光を受けて輝いている。
そこにある大きな目は、まるでサファイアのような青色で、少し不安そうに自分自身を見つめ返していて。その背は平均的なもの。
それは、紛れもない。私の姿だった。
青い姿を持っている私は、白い患者衣を着ていた。
思わず、私は自分の髪に触れてみる。鏡に映る青い髪が確かに自分のものだと確認できて、でも、なんだかとても不思議な気持ちになった。この白い肌も、この青い目や青い髪も、まるでマンガやアニメに出てくる姿みたいで。
なぜか自分の顔を見ているのに、他人を見ているような不思議な感覚があった。
それはたぶん、記憶がないせいだ。その鏡の中の私は、まるで初めて出会う誰かみたい。その上、この非現実的とも言える容姿に、私はますます戸惑いを感じていた。
一方で、私の頭の中には『アオイ』という名前だけがくっきりと残っていた。だけど、この記憶にない姿。この青い髪や青い目を持つ不思議な少女が鏡には映っていて変な感じだった。
まあ、確かにこの身体は、私のものだった。知らない顔で記憶にない身体であることには変わらないけれども。
だから、どこか自分の体なんだけれど。どこか他人事みたいな、そんな奇妙な感覚があった。
でも、どうして?
私は、こんなところにいるんだろう?
考えれば考えるほど、もやもやした気持ちになった。
普通の病室なら絶対あるはずのナースコールを探してみたけど、見当たらない。
不思議だな。お医者さんや看護師さんは、どこにいるんだろう?
誰かに会えたら、きっといろんなことを教えてもらえるのに。
そう思いながら、このまま横になっているわけにはいかないと、私はゆっくりと体を起こすことにした。
私はベッドから身を捩ってから、そしてベッドから立ち上がった。
その瞬間、世界がメリーゴーラウンドに乗ったかのようにクルクルと回り始めた――。
「うわッ!」
思わずよろめいた。まるで初めて地上に立った子供みたいにふらついていた。私は、とっさにベッドの手すりを掴んで、なんとか転ばずに済んだけど、とってもドキドキした。今の私はまるで生まれたての子鹿みたいに、自分の足で立つことさえままならないみたいだった。
自分の体なのに、まるで自分の身体じゃないみたい。不自然な感覚だった。
一歩進むたびに、足の筋肉が震えているようだ。
だとすると私は、どのくらい眠っていたのだろう?
分からない。
ああ、でも――。
ここで私がずっと。ずっと、ベッドで寝ているだけじゃ、結局は何も分からないままなんだ。
だから、私は壁やベッドの手すりに手を添えながら、少しずつでも、この部屋の中を探検することにした。
この知らない場所への不安。そこから逃れようとする気持ちに後押しされて、私はなんとか部屋の中を進んでいく。
そんな感じで、フラフラと歩いていると。
ふと目に留まったのは、部屋の隅にある腰くらいの高さの台だった。
その上で、何かがキラリと輝いていた。
近づいてみる。
ゆっくりと。一歩一歩、まるで大切な約束の場所に向かうように、慎重に近づく。
それは繊細な金細工が施された青い宝石のネックレスだった。それはまるで何かのおとぎ話に出てくるようにキラキラと輝いていて、本当にキレイだった。
この部屋の光を受けて輝く宝石が、まるで私に話しかけてくるみたいだった。
その宝石を手に取ってみたい。
私はそう思った。だけども、そこまでは僅か数歩の距離なのに、今の私には遠い道のりに感じられた。
私は周囲のものを頼りにネックレスに近づいた。
一歩、一歩。
そして、やっとの思いでネックレスへ手が届いた。
その瞬間、体の中で何かが共鳴するような不思議な感覚が走った。
このネックレスには特別な力が宿っている――そんな確信が、自然と心の中に広がっていった。
迷うことなく、私はネックレスを手に取った。するとその瞬間、体の中から暖かな光が溢れ出してくるような感覚が駆け巡った。それは心の奥底から湧き上がる、不思議な力の予感だった。
この魂が、この身体が、まるで長い間待っていたかのように私に告げる。
――祈りなさい。
「マジカルフォーム・アクティベート!」
まるで誰かに導かれるように、私の口から自然と言葉が溢れ出していた。
私の声に呼応するように、眩い光が私を包み込んでいった。それは心地よい感覚だった。
光は私の全身を優しく包み込んで、私を飾り始めた。
光が消えた時、部屋にあった鏡に映った私の姿はまったく違うものになっていた。
それはまるで違う人のようだった。
ドレスアップ。
白い患者衣は消えていて、代わりに鮮やかな青いドレスが私の体を包んでいた。スカートの部分には、白いレースが何重にも重なって、まるでバラの花びらみたいに広がっている。手には長い白いグローブが、まるで私の一部であるかのようにぴったりとフィットしていて。
そして、私は、魔法の杖をしっかりと持っていた。それは、約一メートルほどの長さで、金属で作られたような杖だ。金メッキなのかな?色合いは金色だ。でも、ギラギラの黄金というよりは、どこか落ち着いたような感じの色合いで、不思議と温かみがあった。それに、金属なのだけれど、私は杖を軽く感じた。その杖の先端には、先ほど触れた青い宝石が埋め込まれていた。
さっきまでの体の不調は、まるで嘘みたいに消えていた。歩けない、なんてことは全くない。むしろ、今までに感じたことのないような力が全身に満ちあふれている。まるで重力なんて存在しないみたいに、体が軽やかに感じた。
でも――これって、いったいどういうこと?
記憶は相変わらずもやもやとしたまま。けれど、この魔法みたいな力の使い方だけは、まるで生まれた時から知っていたことのように、自然と理解できた。
この杖を使って、エネルギーを放出する方法。それは私の身体に、本能として刻み込まれているみたい。
部屋の出口に目を向けると、そこには頑丈そうな電子ドアが立ちはだかっていた。普通に開けようとしても、びくともしない。でも、今の私なら――。
「マジカル・スターダスト・ショット!」
まるでダンスの振り付けを覚えているように、自然な動きで杖を振り上げる。
すると、杖の先端に光が集まり、一気に解き放たれた。美しい光の奔流がドアを直撃する。
物凄い轟音とともに爆発が起き、強烈な衝撃波が部屋中を駆け巡った。でも、私の着ているドレスには不思議な防護力があるらしく、その衝撃は全く感じなかった。
煙が晴れると、そこには大きな穴が空いていた。ドアどころか、周辺の壁まで完全に吹き飛んでしまっていた。
これが私の力――。
その破壊力に、少し恐怖を覚える。
だけど、今の私は進むしかない。私の魔法のような力で出来た穴を通った。
その先には、そこには白い廊下が果てしなく続いていた。
ここにも窓がなかった。
やっぱり、そこも人工的な白い明かりだけが、無機質な空間を照らしていた。空調の音が、まるで誰かの寝息のように響いている。
「誰かいませんかー。」
私は声を張り上げた。
声は廊下を伝って、どこまでも響いていく。返事はない。この施設は、一体どれほど広いのだろう。行き止まりにある扉が、遠すぎて小さく見える。
「誰かいませんかー。」
もう一度叫んでみる。
すると、どこからか機械の動く音が聞こえてきた。私は反射的に魔法の杖を構えた。まるで何かが近づいてくるような、そんな気配。
やがて、奇妙な形のロボットが姿を現した。犬なのか羊なのか、その姿は曖昧だった。胴体からは複数の機械アームが伸びていて、六本もの足で不器用そうにゆっくりと歩いていた。私は杖を構えたまま、その様子をじっと観察した。
しばらく見ていると、そのロボットは周囲をゆっくりと動き回っているだけのようだった。定期的に床や壁にアームを当てては、また動き出す。その動作を何度も繰り返すだけ。
どうやら清掃か修理を行うロボットみたいだ。私に危害を加えてくる様子はまったくない。安心して、私は構えていた杖を下ろした。
そして、私は廊下を進むことにした。歩いていくと、大きな案内板が目に入った。それは複雑な迷路のような施設の見取り図で、たくさんの文字や記号が書き込まれていた。
『中央制御室』『研究所』『実験動物保管区』――。
これらの表示が教えてくれたのは、ここが単なる病院ではないということ。今いる場所は『研究所』の区画らしい。出口を探したけれど見当たらない。ただ、中央制御室の近くに『EV』という表記を見つけた。
……エレベーターかな?
もしかしたら、そこなら別の場所へ行けるかもしれない。私は、その方向へ向かうことに決めた。
案内板の表記に従って進んでいくと、途中で何度か作業ロボットとすれ違った。最初は警戒していたけど、彼らは私のことなんて全く気にせず、黙々と作業を続けているだけ。そのうち、私もそんな彼らを気にしなくなっていった。
しばらく歩いていると、厳重な金属製の扉に行き当たった。きっとこの先が中央制御室なんだろう。扉の横には認証装置らしきものが設置されている。どうやら、この扉を開くにはカードキーが必要みたい。
でも、今さら引き返してキーを探すなんて無理だ。私は再び魔法の杖を構えた。
「マジカル・スターライト・エクスプロージョン!」
本能的に、先ほどより強い魔法の言葉が口をついて出てきた。杖が放った光は、さっきよりもずっと強烈だった。一回では足りなくて、何度も何度も魔法を放って、ようやく人一人が通れるくらいの穴を開けることができた。
まぶたの向こうから差し込む光が、私を目覚めへと促している。
ゆっくりと目を開けると、真っ白な天井が広がっていた。
四方から降り注ぐ人工的な光が、部屋の中に満ちていた。けれど、その白い光にはまったく温もりがなくて、どこか寂しい感じがした。
首を少し動かして周りを見渡すと、壁も床も全部真っ白なパネルで覆われていて、まるで箱の中にいるみたいだった。とにかく、この部屋には窓がない。だから、外の世界がどうなっているのか想像もできなかった。
私が横になっているのは、病院のベッドみたいなもの。白いシーツの感触は柔らかいけど、何だか落ち着かない。体を起こそうとしたとき、病院特有の消毒液の匂いが鼻をくすぐった。
ベッドの隣には、点滴スタンドが静かに立っていた。てっぺんには見たことのない機械が取り付けられていて、小さな画面にはカラフルな線が踊るように動いていた。
白い壁に掛けられた、大きな鏡が目に入った。
そこに映っているのは、ベッドの上にいる女の子だ。驚くほど白い肌をした少女が、私を見つめ返していた。それは、お人形のように白かった。
その少女は、これまでに見たことがないような青い髪を持っていた。肩のあたりまでゆらゆらと揺れるその髪は、鮮やかな青色で、病室の白い光を受けて輝いている。
そこにある大きな目は、まるでサファイアのような青色で、少し不安そうに自分自身を見つめ返していて。その背は平均的なもの。
それは、紛れもない。私の姿だった。
青い姿を持っている私は、白い患者衣を着ていた。
思わず、私は自分の髪に触れてみる。鏡に映る青い髪が確かに自分のものだと確認できて、でも、なんだかとても不思議な気持ちになった。この白い肌も、この青い目や青い髪も、まるでマンガやアニメに出てくる姿みたいで。
なぜか自分の顔を見ているのに、他人を見ているような不思議な感覚があった。
それはたぶん、記憶がないせいだ。その鏡の中の私は、まるで初めて出会う誰かみたい。その上、この非現実的とも言える容姿に、私はますます戸惑いを感じていた。
一方で、私の頭の中には『アオイ』という名前だけがくっきりと残っていた。だけど、この記憶にない姿。この青い髪や青い目を持つ不思議な少女が鏡には映っていて変な感じだった。
まあ、確かにこの身体は、私のものだった。知らない顔で記憶にない身体であることには変わらないけれども。
だから、どこか自分の体なんだけれど。どこか他人事みたいな、そんな奇妙な感覚があった。
でも、どうして?
私は、こんなところにいるんだろう?
考えれば考えるほど、もやもやした気持ちになった。
普通の病室なら絶対あるはずのナースコールを探してみたけど、見当たらない。
不思議だな。お医者さんや看護師さんは、どこにいるんだろう?
誰かに会えたら、きっといろんなことを教えてもらえるのに。
そう思いながら、このまま横になっているわけにはいかないと、私はゆっくりと体を起こすことにした。
私はベッドから身を捩ってから、そしてベッドから立ち上がった。
その瞬間、世界がメリーゴーラウンドに乗ったかのようにクルクルと回り始めた――。
「うわッ!」
思わずよろめいた。まるで初めて地上に立った子供みたいにふらついていた。私は、とっさにベッドの手すりを掴んで、なんとか転ばずに済んだけど、とってもドキドキした。今の私はまるで生まれたての子鹿みたいに、自分の足で立つことさえままならないみたいだった。
自分の体なのに、まるで自分の身体じゃないみたい。不自然な感覚だった。
一歩進むたびに、足の筋肉が震えているようだ。
だとすると私は、どのくらい眠っていたのだろう?
分からない。
ああ、でも――。
ここで私がずっと。ずっと、ベッドで寝ているだけじゃ、結局は何も分からないままなんだ。
だから、私は壁やベッドの手すりに手を添えながら、少しずつでも、この部屋の中を探検することにした。
この知らない場所への不安。そこから逃れようとする気持ちに後押しされて、私はなんとか部屋の中を進んでいく。
そんな感じで、フラフラと歩いていると。
ふと目に留まったのは、部屋の隅にある腰くらいの高さの台だった。
その上で、何かがキラリと輝いていた。
近づいてみる。
ゆっくりと。一歩一歩、まるで大切な約束の場所に向かうように、慎重に近づく。
それは繊細な金細工が施された青い宝石のネックレスだった。それはまるで何かのおとぎ話に出てくるようにキラキラと輝いていて、本当にキレイだった。
この部屋の光を受けて輝く宝石が、まるで私に話しかけてくるみたいだった。
その宝石を手に取ってみたい。
私はそう思った。だけども、そこまでは僅か数歩の距離なのに、今の私には遠い道のりに感じられた。
私は周囲のものを頼りにネックレスに近づいた。
一歩、一歩。
そして、やっとの思いでネックレスへ手が届いた。
その瞬間、体の中で何かが共鳴するような不思議な感覚が走った。
このネックレスには特別な力が宿っている――そんな確信が、自然と心の中に広がっていった。
迷うことなく、私はネックレスを手に取った。するとその瞬間、体の中から暖かな光が溢れ出してくるような感覚が駆け巡った。それは心の奥底から湧き上がる、不思議な力の予感だった。
この魂が、この身体が、まるで長い間待っていたかのように私に告げる。
――祈りなさい。
「マジカルフォーム・アクティベート!」
まるで誰かに導かれるように、私の口から自然と言葉が溢れ出していた。
私の声に呼応するように、眩い光が私を包み込んでいった。それは心地よい感覚だった。
光は私の全身を優しく包み込んで、私を飾り始めた。
光が消えた時、部屋にあった鏡に映った私の姿はまったく違うものになっていた。
それはまるで違う人のようだった。
ドレスアップ。
白い患者衣は消えていて、代わりに鮮やかな青いドレスが私の体を包んでいた。スカートの部分には、白いレースが何重にも重なって、まるでバラの花びらみたいに広がっている。手には長い白いグローブが、まるで私の一部であるかのようにぴったりとフィットしていて。
そして、私は、魔法の杖をしっかりと持っていた。それは、約一メートルほどの長さで、金属で作られたような杖だ。金メッキなのかな?色合いは金色だ。でも、ギラギラの黄金というよりは、どこか落ち着いたような感じの色合いで、不思議と温かみがあった。それに、金属なのだけれど、私は杖を軽く感じた。その杖の先端には、先ほど触れた青い宝石が埋め込まれていた。
さっきまでの体の不調は、まるで嘘みたいに消えていた。歩けない、なんてことは全くない。むしろ、今までに感じたことのないような力が全身に満ちあふれている。まるで重力なんて存在しないみたいに、体が軽やかに感じた。
でも――これって、いったいどういうこと?
記憶は相変わらずもやもやとしたまま。けれど、この魔法みたいな力の使い方だけは、まるで生まれた時から知っていたことのように、自然と理解できた。
この杖を使って、エネルギーを放出する方法。それは私の身体に、本能として刻み込まれているみたい。
部屋の出口に目を向けると、そこには頑丈そうな電子ドアが立ちはだかっていた。普通に開けようとしても、びくともしない。でも、今の私なら――。
「マジカル・スターダスト・ショット!」
まるでダンスの振り付けを覚えているように、自然な動きで杖を振り上げる。
すると、杖の先端に光が集まり、一気に解き放たれた。美しい光の奔流がドアを直撃する。
物凄い轟音とともに爆発が起き、強烈な衝撃波が部屋中を駆け巡った。でも、私の着ているドレスには不思議な防護力があるらしく、その衝撃は全く感じなかった。
煙が晴れると、そこには大きな穴が空いていた。ドアどころか、周辺の壁まで完全に吹き飛んでしまっていた。
これが私の力――。
その破壊力に、少し恐怖を覚える。
だけど、今の私は進むしかない。私の魔法のような力で出来た穴を通った。
その先には、そこには白い廊下が果てしなく続いていた。
ここにも窓がなかった。
やっぱり、そこも人工的な白い明かりだけが、無機質な空間を照らしていた。空調の音が、まるで誰かの寝息のように響いている。
「誰かいませんかー。」
私は声を張り上げた。
声は廊下を伝って、どこまでも響いていく。返事はない。この施設は、一体どれほど広いのだろう。行き止まりにある扉が、遠すぎて小さく見える。
「誰かいませんかー。」
もう一度叫んでみる。
すると、どこからか機械の動く音が聞こえてきた。私は反射的に魔法の杖を構えた。まるで何かが近づいてくるような、そんな気配。
やがて、奇妙な形のロボットが姿を現した。犬なのか羊なのか、その姿は曖昧だった。胴体からは複数の機械アームが伸びていて、六本もの足で不器用そうにゆっくりと歩いていた。私は杖を構えたまま、その様子をじっと観察した。
しばらく見ていると、そのロボットは周囲をゆっくりと動き回っているだけのようだった。定期的に床や壁にアームを当てては、また動き出す。その動作を何度も繰り返すだけ。
どうやら清掃か修理を行うロボットみたいだ。私に危害を加えてくる様子はまったくない。安心して、私は構えていた杖を下ろした。
そして、私は廊下を進むことにした。歩いていくと、大きな案内板が目に入った。それは複雑な迷路のような施設の見取り図で、たくさんの文字や記号が書き込まれていた。
『中央制御室』『研究所』『実験動物保管区』――。
これらの表示が教えてくれたのは、ここが単なる病院ではないということ。今いる場所は『研究所』の区画らしい。出口を探したけれど見当たらない。ただ、中央制御室の近くに『EV』という表記を見つけた。
……エレベーターかな?
もしかしたら、そこなら別の場所へ行けるかもしれない。私は、その方向へ向かうことに決めた。
案内板の表記に従って進んでいくと、途中で何度か作業ロボットとすれ違った。最初は警戒していたけど、彼らは私のことなんて全く気にせず、黙々と作業を続けているだけ。そのうち、私もそんな彼らを気にしなくなっていった。
しばらく歩いていると、厳重な金属製の扉に行き当たった。きっとこの先が中央制御室なんだろう。扉の横には認証装置らしきものが設置されている。どうやら、この扉を開くにはカードキーが必要みたい。
でも、今さら引き返してキーを探すなんて無理だ。私は再び魔法の杖を構えた。
「マジカル・スターライト・エクスプロージョン!」
本能的に、先ほどより強い魔法の言葉が口をついて出てきた。杖が放った光は、さっきよりもずっと強烈だった。一回では足りなくて、何度も何度も魔法を放って、ようやく人一人が通れるくらいの穴を開けることができた。
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