「好き」があふれて止まらない!

梶ゆいな

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【29】みんなを信じて

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一週間後の文化祭に向けて、装飾担当のわたしは放課後クラスの女の子たちと最終確認をしていた。

うちのクラスのフォトスポットでは、ペイントされた壁や小道具を使って映え写真が撮れるようになっている。

「最終確認はこんなものかな。みんなお疲れさま」

文化祭実行委員の山田さんからOKをもらって帰ろうとしていたとき、律に呼び止められた。

「咲茉、千里先輩が音楽室に集合だって」

「わたしも⋯⋯?」

近頃のMEBIUSは文化祭で披露する楽曲の練習を毎日遅くまで行っていて、作詞担当のわたしはみんなが練習期間に入ってから一度も音楽室に顔を出していない。

わたしが呼ばれたってことは作詞の関係かな?


「きゃー、律さまよ!」

「律さまー!」

廊下ですれ違った女子生徒が律を見て目をハートにする。

律は整った容姿と華麗にピアノを弾くその姿から一部の女子たちの間で律さまと呼ばれるようになった。

「相変わらずすごい人気だね。私生活に影響は出てない? 大丈夫? 何かあったらすぐに言ってね」

「今のところ平気。咲茉の言ってたとおりMEBIUSのファンが目を光らせてくれてるみたいだから」

「よかった」

「でも、毎週のように告白はされるけど」

「ま、毎週⋯⋯」

現実でもそんなことって起こるんだ。

わたしの小説に出てくるヒーローでも毎週は告白されない。

奏人からはそんな話を聞いたことがないけど言わないだけで似たようなことが起きてるのかな?

そう考えたら胸の奥がざわついた。

「彼女がいたらそういうのも減ると思うんだけど⋯⋯そうだ、咲茉。俺と付き合う気ない?」

旧校舎に着いた途端、真剣な表情でわたしの手を握った律。

わたしと律が付き合う?

話の流れ的にカモフラージュってことだよね。

律が困っているなら力になりたいけど、奏人のことが好きだと気づいた今、中途半端なことはできない。

「ごめんね、律。わたし好きな人が⋯⋯」

「冗談だって。本気で振ろうとするなよ」

「だったら、もうちょっと冗談っぽい口調で言ってよ」

「ごめん、ごめん。ほら、急ごうぜ」

階段を二段飛ばして駆け上がっていく律の背中を追うわたしが彼の晴れない表情に気づくことはなかった。


音楽室には先に奏人と新がいて、わたしと律に続き千里先輩がやってきた。

机を五台くっつけて、それぞれ指定の席に着く。

「おい、千里。急に全員集めるなんて何かあったのかよ」

今すぐにでも練習したいのか、ドラムスティックを握ったまま話を聞く新。

「実はグランツと同じ中学に通う人たちから驚くような話を耳にしたんだ」

「驚くような話って?」

「グランツの奴ら一回戦のオリジナルラブソングを太田原先生に書いてもらったらしい」

奏人は先に知っていたのか千里先輩より先に話の内容を口にした。

「太田原先生ってあの? いや、同姓同名の別人だよな?」

新が驚いているのは太田原先生という有名音楽プロデューサーの名前が出てきたからだ。

太田原先生は音楽に疎いわたしでさえ名前を聞いたことがある。

アイドルから演歌歌手まで幅広いアーティストに楽曲提供を行う音楽界の重鎮だ。


「あの太田原先生であってる。染谷の母さんの知り合いに芸能関係の人がいて繋いでくれたらしい」

同姓同名じゃなくて本物ってことは、グランツのオリジナル曲をあの太田原先生が書くの⋯⋯?


「めちゃくちゃコネじゃん。相手はプロ中のプロだぞ。そんなのありかよ? 俺、抗議して来る」

イスから乱暴に立ち上がった新の腕をつかみ制止する千里先輩。

「待ちなよ、新」

「だけど!」

「座れよ新。俺たちはお前らが当日混乱しないように先に知らせておこうと思っただけだ。オリジナル曲には自作曲ってルールはないし、俺たちだって自分で書いてないんだ。別にルール違反じゃない」

そうだ一回戦目の曲はわたし作詞の『スターライト』。

オリジナルラブソング対決は歌詞も評価対象だからわたしと太田原先生が戦うことになるんだ。

素人のわたしがプロの太田原先生に勝てるの?

そんな不安を吹き飛ばしてくれたのは奏人の言葉だった。

「相手がプロだろうがなんだろうが関係ねぇよ。咲茉が書いてくれた歌詞と最高のメンバーでステージに立つんだ。負ける要素なんてひとつもないだろ」

奏人は自信たっぷりに笑う。

暗闇の中で光るわたしの一等星。

「そうだな。俺のピアノも加わったし」

律の言葉に千里先輩も目を細めて笑った。

「だよな! 俺もそう思う!」

立ち上がったままだった新はドラムスティックを握った手を天井に向かって突き上げる。

「さっきまでグランツのところに乗り込もうとしてたくせに。本当、調子のいい奴」

「か、奏人。それはもういいだろ! あっ、咲茉言っとくけど俺だって咲茉の歌詞は最強だと思ってるから」

「ありがとう、新」

「咲茉の歌詞を俺たちが観客に届けて絶対に勝つ」

奏人はそう言ってわたしの頭をぽんぽんっと優しく撫でた。

「うん。客席から応援してる」

MEBIUSなら大丈夫。きっと勝ってくれる。





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