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第1話 悲劇の始まり
しおりを挟む2人の大人がなんとかすれ違える細い川沿いの道を歩いていたら、
向かい側から「斜めの男」がやってきた。
斜めの男?とあなたは顔をしかめるかもしれない。何が斜めなのか。まっすぐ歩いていないわけではない。前髪が斜めにそろえられているわけでもない。ただ、体が斜めなのだ。傾いている。
僕はつい、じろじろ見てしまっていた。
ふいに、叔母の裕子さんが数年前に言っていたことを思い出す。彼女の顔には大きな火傷の痕がある。一生消えない痕だ。
「道ですれ違う人がチラとこちらを見て、一瞬驚いた顔を見せ、一瞬申し訳なさそうな顔を見せ、一瞬こちらを哀れんだ顔を見せ、そして慌てて目をそらす。不自然にドギマギとしちゃってね。それは全部でもたった一秒くらいの短い時間よ。それでもね。いまでも私にとってその刹那は――そのほんの一秒間は――呪いたいくらいに不快な時間なの。」
僕は裕子さんの言葉を思い出し、なんの変哲もない男とすれ違う時のように自然にふるまおうとした。何とか顔に微笑をつくり、会釈する。彼は始終僕の方をボーっと見ていたが、会釈は返ってこなかった。
おまけにこの道は、両者がピシッと正しい姿勢で歩いていなければ通れない。しかし近づいても近づいても、その男は斜めのままだ。
仕方ない。えいやっ。僕は自分の体を彼の体の形に合わせることで、何とかすれ違えるだけのスペースを空けた(僕が川に近い側だったので、首から上は川に乗り出すような形になった)。
すると不思議なことに、彼とすれ違う直前、ぼくの目の前に「あの時」の情景が浮かんできた。
僕は裕子さんと話している。たしか病院で、僕の母(最近亡くなった)のお見舞いに来ているときのことだ。僕と裕子さんは病室の外のソファに並んで腰掛け、なにやら話している。そうだ。僕はそのとき、無遠慮に火傷のことについて聞いていた。
☆
最初はつらかったわ。このやけどを負ったのは17歳の時。残酷だと思わない?これからいよいよオシャレを楽しめるって、わたしワクワクしていたのよ。私の高校は規則が厳しかったから。大学は華やかな有名私立にでも行って、オシャレも勉強も存分に楽しんでやろう(みんなから不思議そうな顔されるけれど、私、勉強が好きだったのよ)、この刑務所みたいに規則の厳しい学校に入ったのはこのモチベーションを作るためだったんだわって、ポジティブにとらえたりしてね。
でも、17歳の最後の日。そう、あれは誕生日の前の日だった。今でも鮮明に覚えているわ。
私、ちょっと浮かれていたのよ。誕生日の前日になると、いや、一週間まえくらいからかしらね。いつもそうなってしまうの。
幸い、私は友達に恵まれていたから、誕生日はとってもとっても盛大にお祝いしてもらっていた。もちろん、それをしっかり返すわけだけどね(馬鹿にできない額だったわ)。
その日も、明日は何がもらえるんだろう、と想像するだけで楽しくて、なかなか寝付けなくてね。私の家族はみんな10時にはベッドに入るんだけど、私はその日、眠れなかった。どうしても眠れないから、しょうがないか、そう思って、私は一度ベッドから出ることにしたの。
そしたらそのとき、「グウウウウウウウ」て、気の抜けるような音がしてね。思わず、私の両親、飛び起きたの。信じられる?隣の部屋にいた2人ともが、私のおなかの音で起きるなんて。
そのとき両親は、私のために何か作ろうって言ってくれた。でも、「私もう18になるのよ。もう大人なんだから!料理くらいできるわ。」って言って、久しぶりに何を作ろうか、眠い目をこすりながら考えていたわね。
「眠い目をこすりながら?」僕は尋ねた。
そう。おかしいでしょ?私はなかなか寝付けなかったはずなのに、なぜか何の料理を作ろうか考え始めたときにはもう眠くなってたの。きっと料理とは縁がないのね。でも相変わらずおなかは減っているし、両親には自分で作るって言ってしまったし、「えいやっ」て気合を振り絞って、何とか起きたわ。今思えば、これが悲劇の始まりね。
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