11 / 15
第11話 御堂 恭介の誘い
しおりを挟む
自分がいたからと言って、何も役には立たないかもしれないけど、それでも邪魔者扱いされるのは少し寂しかった。
入学以来、いろいろな事件に巻き込まれまともに友達付き合いをしていないぼくに、放課後を一緒に過ごしてくれるような友人はいない。
半ば加奈子先輩に部室を追い出された形になったぼくは、この後の予定もないまま学校をでた。
学校の前の道は交通量も少なく、普段なら車などめったに通らない道だ。
しかし今日は珍しいことに、学校の目の前に銀色のベンツが堂々と路上駐車をしていた。
その車にもたれかかるようにして、サングラスをかけた男性が、校門から出てくる学生たちを一人一人チェックしている。
誰かを待っているのだろうか。そんな雰囲気を感じつつ、ぼくも他の生徒にまぎれてその車の前を横切る。すれ違うときぼくはその男と目が会った気がした。正確にはサングラス越しだったため、相手の目は見えていないが、顔の動きである程度判断がついた。
この男とはどこかであったような気がするが、うまく思い出すことはできない。
「森元 堅太くんだね」
ぼくが思い出すより先に男が話しかけてきた。何か用があるのだろうかと立ち止まって男をじっと観察する。
男はぼくより、こぶし一個分ほど背が高かった。ぼくも決して背が低い方ではないので、かなり高い方に入るだろう。細身の体には似合わない低い声に、ぼくは少し恐怖を感じた。
「そうですけど、何か御用ですか」
警戒心を露にしてぼくが答える。男もぼくの態度を感じ取ったのか、先ほどより少しやさしい口調に代えて話を続けた。
「これはすまない。いきなりで驚かせてしまったようだね。私はこういうものだ」
男の差し出した名刺に目を通し、驚いた。
「御堂科学研究所 所長 御堂 恭介。って、あの御堂博士ですか」
「ぼくのことを知ってくれているのかい、うれしいな」
サングラスをはずしてぼくに向き合う。間違いない。さっき感じたのは昼休みに雑誌でインタビュー記事に載っている写真を見ていたからだったのか。
「い、いったい、ぼくなんかになんのようですか」
緊張して背筋は電信柱よりもまっすぐに伸び、口は震えてうまい言葉が見つからない。
「まあまあ、そんなに緊張しないで。この学校の経営にはぼくも多少かかわっていてね。毎年優秀な学生は卒業後にうちに来てもらったりしているんだ」
そんな人物が直接ぼくのところに来るなんて、スカウト。まさかね。
「君は最新科学研究部に在籍しているそうだね」
ぼくが、はいと頷くと御堂博士は話を続ける。
「あそこにはぼくも期待していてね。かなりの機材も寄付したんだがいまいち良い結果を出してくれないんだ」
なるほど、加奈子先輩は「私物」なんて言っていたけど、こういう裏があったのか。
確かにバックにこれだけの大物がついていれば、学校側としても特別扱いをせざるを得なかったわけだ。
色々なことをぼくが理解している間も、御堂博士の話は続いている。
「私が言うのもなんだが、あの場所では君の可能性が潰されてしまうのではないかと、危惧しているのだよ」
確かに。このままでは3年間ぼくは実験動物としてしか扱ってもらえない可能性が高い。
「君が中学時代、科学部部長として発表した『酸性雨町内検査』はなかなかすばらしいものだったよ。どうかな、今すぐにでも学校を辞めて私の研究室に来ないか」
「え?」
まさかとは思っていたが、本当に誘ってくれるなんて思ってもいなかったので、ぼくはなんと答えていいのか答えに迷った。
確かにこんな誘いはめったに無い。しかし、がんばって難しい受験を乗り越え、希望の高校に入学したばかりだ。それにやはり高校ぐらい卒業しないと親にも悪い。
そんなぼくの葛藤を感じたのか、御堂博士は言葉を付け足した。
「学歴のことなら心配要らないよ。うちの研究所でも中卒を採用するわけには行かないからね。君には研究の手伝いとともにアメリカのハイスクールに通ってもらう。向こうならスキップ制度があるから、君ほどの学力なら二年もあれば大学まで卒業できるよ。そうしたら正式採用って事でどうかな」
すごい魅力的な話だ。
しかも学費はすべて御堂博士が出してくれるという。こんな美味しい話はない。
この学校では普通の学園生活はもう望めない。たった一週間でぼくのイメージは地に落ちてしまっている。それならいっそう新天地を目指すのもいいかもしれない。ぼくの心は大きく傾きかけていた。
「そうだな、すぐに決めろといっても難しいいだろう。どうだい、時間があるならこれから研究所を見学に来ないか。実際に見てもらうのが、私の考えを理解してもらうのには一番早いと思うのだが」
一流の研究所を見学できるなんてそうあるものではない。部活を追い出されてきたぼくに、この後の予定は全くない。
むしろ、こちらからお願いしたいくらいだ。
「いいんですか。ぜひ見学させてください」
ぼくの答えに優しく微笑むと、御堂博士は止めてあるベンツの後部座席にぼくを案内した。ぼくが乗り込んだ後に続いて、御堂博士も乗り込む。座席は革張りで、二人が座っても、あと二・三人ぐらいは座れるんじゃないかというほどの余裕がある。
「研究所まで戻るぞ」
御堂博士は前の運転手に声をかけた。その運転手さんなんだけど……
「あの、御堂博士。こちらのかたは」
「うちの運転手だが、どうかしたか」
何事もないように返される。ということは、きっとぼくの考えすぎなんだろうけど、明らかにおかしい格好をしている。
頭にはパイロットがかぶるような薄いパイロット帽をかぶっているが、顔は真っ黒だった。いや顔、というより体全体が真っ黒なのだ。
顔には目鼻口の区別は無く、髪も無い。つるんとした黒い卵のようだった。
近いものは全身タイツだが、質感が違う。何かを着ているというより、素材そのものがプラスチックゴムでできている、という感じなのだ。
黒い運転手は軽く頷くと車を発車させた。ベンツは音も無く、静かに動き出す。
ぼくは「これが制服なんだ」と無理やり納得させてその疑問は心の奥に片付けた。
こんな些細なことで、これからのビックイベントをふいにはしたくなかったのだ。
入学以来、いろいろな事件に巻き込まれまともに友達付き合いをしていないぼくに、放課後を一緒に過ごしてくれるような友人はいない。
半ば加奈子先輩に部室を追い出された形になったぼくは、この後の予定もないまま学校をでた。
学校の前の道は交通量も少なく、普段なら車などめったに通らない道だ。
しかし今日は珍しいことに、学校の目の前に銀色のベンツが堂々と路上駐車をしていた。
その車にもたれかかるようにして、サングラスをかけた男性が、校門から出てくる学生たちを一人一人チェックしている。
誰かを待っているのだろうか。そんな雰囲気を感じつつ、ぼくも他の生徒にまぎれてその車の前を横切る。すれ違うときぼくはその男と目が会った気がした。正確にはサングラス越しだったため、相手の目は見えていないが、顔の動きである程度判断がついた。
この男とはどこかであったような気がするが、うまく思い出すことはできない。
「森元 堅太くんだね」
ぼくが思い出すより先に男が話しかけてきた。何か用があるのだろうかと立ち止まって男をじっと観察する。
男はぼくより、こぶし一個分ほど背が高かった。ぼくも決して背が低い方ではないので、かなり高い方に入るだろう。細身の体には似合わない低い声に、ぼくは少し恐怖を感じた。
「そうですけど、何か御用ですか」
警戒心を露にしてぼくが答える。男もぼくの態度を感じ取ったのか、先ほどより少しやさしい口調に代えて話を続けた。
「これはすまない。いきなりで驚かせてしまったようだね。私はこういうものだ」
男の差し出した名刺に目を通し、驚いた。
「御堂科学研究所 所長 御堂 恭介。って、あの御堂博士ですか」
「ぼくのことを知ってくれているのかい、うれしいな」
サングラスをはずしてぼくに向き合う。間違いない。さっき感じたのは昼休みに雑誌でインタビュー記事に載っている写真を見ていたからだったのか。
「い、いったい、ぼくなんかになんのようですか」
緊張して背筋は電信柱よりもまっすぐに伸び、口は震えてうまい言葉が見つからない。
「まあまあ、そんなに緊張しないで。この学校の経営にはぼくも多少かかわっていてね。毎年優秀な学生は卒業後にうちに来てもらったりしているんだ」
そんな人物が直接ぼくのところに来るなんて、スカウト。まさかね。
「君は最新科学研究部に在籍しているそうだね」
ぼくが、はいと頷くと御堂博士は話を続ける。
「あそこにはぼくも期待していてね。かなりの機材も寄付したんだがいまいち良い結果を出してくれないんだ」
なるほど、加奈子先輩は「私物」なんて言っていたけど、こういう裏があったのか。
確かにバックにこれだけの大物がついていれば、学校側としても特別扱いをせざるを得なかったわけだ。
色々なことをぼくが理解している間も、御堂博士の話は続いている。
「私が言うのもなんだが、あの場所では君の可能性が潰されてしまうのではないかと、危惧しているのだよ」
確かに。このままでは3年間ぼくは実験動物としてしか扱ってもらえない可能性が高い。
「君が中学時代、科学部部長として発表した『酸性雨町内検査』はなかなかすばらしいものだったよ。どうかな、今すぐにでも学校を辞めて私の研究室に来ないか」
「え?」
まさかとは思っていたが、本当に誘ってくれるなんて思ってもいなかったので、ぼくはなんと答えていいのか答えに迷った。
確かにこんな誘いはめったに無い。しかし、がんばって難しい受験を乗り越え、希望の高校に入学したばかりだ。それにやはり高校ぐらい卒業しないと親にも悪い。
そんなぼくの葛藤を感じたのか、御堂博士は言葉を付け足した。
「学歴のことなら心配要らないよ。うちの研究所でも中卒を採用するわけには行かないからね。君には研究の手伝いとともにアメリカのハイスクールに通ってもらう。向こうならスキップ制度があるから、君ほどの学力なら二年もあれば大学まで卒業できるよ。そうしたら正式採用って事でどうかな」
すごい魅力的な話だ。
しかも学費はすべて御堂博士が出してくれるという。こんな美味しい話はない。
この学校では普通の学園生活はもう望めない。たった一週間でぼくのイメージは地に落ちてしまっている。それならいっそう新天地を目指すのもいいかもしれない。ぼくの心は大きく傾きかけていた。
「そうだな、すぐに決めろといっても難しいいだろう。どうだい、時間があるならこれから研究所を見学に来ないか。実際に見てもらうのが、私の考えを理解してもらうのには一番早いと思うのだが」
一流の研究所を見学できるなんてそうあるものではない。部活を追い出されてきたぼくに、この後の予定は全くない。
むしろ、こちらからお願いしたいくらいだ。
「いいんですか。ぜひ見学させてください」
ぼくの答えに優しく微笑むと、御堂博士は止めてあるベンツの後部座席にぼくを案内した。ぼくが乗り込んだ後に続いて、御堂博士も乗り込む。座席は革張りで、二人が座っても、あと二・三人ぐらいは座れるんじゃないかというほどの余裕がある。
「研究所まで戻るぞ」
御堂博士は前の運転手に声をかけた。その運転手さんなんだけど……
「あの、御堂博士。こちらのかたは」
「うちの運転手だが、どうかしたか」
何事もないように返される。ということは、きっとぼくの考えすぎなんだろうけど、明らかにおかしい格好をしている。
頭にはパイロットがかぶるような薄いパイロット帽をかぶっているが、顔は真っ黒だった。いや顔、というより体全体が真っ黒なのだ。
顔には目鼻口の区別は無く、髪も無い。つるんとした黒い卵のようだった。
近いものは全身タイツだが、質感が違う。何かを着ているというより、素材そのものがプラスチックゴムでできている、という感じなのだ。
黒い運転手は軽く頷くと車を発車させた。ベンツは音も無く、静かに動き出す。
ぼくは「これが制服なんだ」と無理やり納得させてその疑問は心の奥に片付けた。
こんな些細なことで、これからのビックイベントをふいにはしたくなかったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる