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第12話 御堂博士の研究室
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研究所は学校から目と鼻の先にあった。
多くの商業ビルが立ち並ぶ一角に、三階建ての古ぼけたビルがある。ベンツはその前に止まった。
「外観は悪いが、中は最新鋭の研究機材がそろっているから」
そういって、御堂博士は建物に入っていく。ぼくも後に続く。
建物に入る前に振り返ると黒い運転手はせっせと車のウインドウを拭いていた。
はぁーっと息を吹きかけるしぐさをしているが、実際に息が出ているのかを確認することはできなかった。
中は御堂博士の言うとおりだった。
古ぼけた鉄筋コンクリートと思われた建物の内部は近未来的に整えられた廊下が続き、各部屋には指紋認証の装備されたドアがついている。
ぼくが通されたのは、奥まったところにある応接間のような部屋だった。
「疲れただろう、この後ゆっくり案内するから、こちらでちょっと休んでいてくれ」
お尻が包み込まれるように柔らかいソファーに座らされたぼくに、秘書らしい女性がお茶を持ってきてくれた。
始めは黒いストッキングだと思った。
OLさんのようなタイトなスーツ。
かなりスタイルもいい。
ただ、ちょっと色黒だ。
お茶を出す指先まで真っ黒だ!
顔も真っ黒だ!
「!!」
というか、顔が無い!
運転手と同じでつるりとした黒い卵形の顔がぼくの目に飛び込んできた。運転手との違いは肩にかかるほどの長い黒髪。だけど明らかにかつらだ。
「あの、あああああの人は?」
さすがに我慢できず、質問する。
「今のは私の秘書 一河さんだよ。ちなみに運転してくれてたのは二垣君だ」
いや、名前ではなく、あの人たちはなんなのかが聞きたかったのだが、御堂博士は
「ちょっと待っていてくれたまえ」と言い、ぼくを残して部屋を出て行ってしまった。
部屋に取り残されたぼくはテーブルの脇に立つ『一河さん』と二人きりになってしまった。
「あの、一河さん。ちょっとお尋ねしてもいいですか」
恐る恐る話しかけるも、『一河さん』は微動だにしない。今始めてみた人はおそらくマネキンにしか見えないだろう。
仕方なく、出されたお茶を飲んで御堂博士の帰りを待つ。
たまに、ちらちらと『一河さん』を覗き見るが、まったく動く気配は無い。
生気というものを感じないのだ。
ぼくは試しに立ち上がってみる。やはり無反応。
今度は『一河さん』の後ろに回ってみる。やはり無反応。
後ろから軽く押してみる。
ガターン。
『一河さん』は直立不動のまま前に倒れこんだ。
「うわぁああ、ごめんなさい、ごめんなさい」
ぼくはその場から飛びのく。床に倒れた『一河さん』は見事にテーブルの角に頭をぶつけてしまった。
首がおかしな方向に曲がり、緊張に耐えられなくなった骨がきしむ音が聞こえたかと思うと、そのまま首がもげた。
「うあわあああ」
残された体からは赤い血液があふれ出る。
確かこんな状況、以前にも出会ったことがある。あれだけインパクトのある状況だ忘れる方が難しい。
ぼくはころがる『一河さん』の頭を拾い、内部構造を確認する。
中には小さな火花を散らす機械類がつまっている。骨格はカーボン樹脂だ。
間違いない。これは加奈子先輩の造った人造人間と同じものだ。
法子先輩は『この人造人間には最低限のデーターしか搭載できない』といっていた。
きっとぼくにお茶を入れて、ここに立たせておくだけの情報しか与えられていなかったのだろう。
さすがにぼくも、この状況に違和感を感じ始めた。
なぜ、この研究所に加奈子先輩の設計した人造人間がいるのか、本当にぼくを研究員として迎え入れようとしているのだろうか。
そう、ここに入ってからというもの、まともな人間に一人もあっていない。
これだけの大きさの建物だ。ある程度の研究者がいてもおかしくないはずなのに、ここは人の気配が無い。
『一河さん』だけではない『二垣さん』も間違いなく人間ではないだろう。
ぼくは御堂博士が戻る前にこの部屋を出ることに決めた。
よくよく考えればおかしな話だ。
中学時代の研究程度で、世界トップレベルの研究機関にスカウトされるなんて。
あの御堂博士も偽者かもしれない。
何のためにぼくをつれてきたのかは知らないが、あの人には加奈子先輩とおなじ匂いを感じる。
部屋の中を見回り武器になりそうなものを探すが、部屋の中にはテーブルとソファー以外まったくといっていいほど何も物が置かれていない。窓のないこの部屋から出るには正面の扉しかない。ここに入るときはほとんど人気は無かった。うまく行けば逃げ出せるかもしれない。
御堂博士が戻ってこないことを祈り、ゆっくりと扉を開けた。
しかし、廊下には全身が黒い男が二人立っていた。『二垣さん』かと思ったが、今まであった黒い人とは明らかに体のつくりが違う。
二人はぼくが部屋から出るのを阻止するように、扉の前に仁王立ちでぼくの退路をふさいでいた。
顔が無いため表情は読み取れない。
一河さんのように動いていないのでは、と思い、横をすり抜けようとすると。ぼくの前に黒く大きな手が広げられ、行く手をさえぎる。
この二人にはぼくをここから出さないように命令されているようだ。
何とか逃げようと試みるが、そのたびに黒い男たちに捕まって部屋に戻されてしまった。
このままでは御堂が戻ってきてしまう。ぼくは力いっぱい男の体を殴りつけた。
感触は電柱を殴ったかのようだった。ぼくの貧弱なこぶしではびくともせず、逆にぼくのこぶしが赤くなってしまったほどだ。
そのとき廊下の奥から御堂博士が現れた。
「おいおい、森元君待っていてくれって言ったのに、これはどういうことかな」
あわてるでもなく、御堂博士はぼくに話しかける。
「今回の話はなかったことにしてください。今日はもう帰ります」
赤くなったこぶしをさすりながらぼくがいう。
「そうは行かないよ。今日家に帰るのは彼だからね」
そういった御堂博士の後ろからは、見たことのある人影が現れた。見たことがあるのは当たり前だ。あればぼくそのものだ。
『ボクハ、モリモトケンタダヨ』
無表情のまま同じ言葉を繰り返すぼくのコピー。まさか、あんなものでごまかせると思っているのか?
「よくできているだろう。今日からは彼が『森元 堅太』だ。そして君は私とともに来てもらうよ。三村・四ツ柳、彼を地下室に連れて来い」
三村・四ツ柳と呼ばれた黒い大男たちは軽々とぼくを抱え上げ、御堂に続いてエレベーターに乗り込んだ。
多くの商業ビルが立ち並ぶ一角に、三階建ての古ぼけたビルがある。ベンツはその前に止まった。
「外観は悪いが、中は最新鋭の研究機材がそろっているから」
そういって、御堂博士は建物に入っていく。ぼくも後に続く。
建物に入る前に振り返ると黒い運転手はせっせと車のウインドウを拭いていた。
はぁーっと息を吹きかけるしぐさをしているが、実際に息が出ているのかを確認することはできなかった。
中は御堂博士の言うとおりだった。
古ぼけた鉄筋コンクリートと思われた建物の内部は近未来的に整えられた廊下が続き、各部屋には指紋認証の装備されたドアがついている。
ぼくが通されたのは、奥まったところにある応接間のような部屋だった。
「疲れただろう、この後ゆっくり案内するから、こちらでちょっと休んでいてくれ」
お尻が包み込まれるように柔らかいソファーに座らされたぼくに、秘書らしい女性がお茶を持ってきてくれた。
始めは黒いストッキングだと思った。
OLさんのようなタイトなスーツ。
かなりスタイルもいい。
ただ、ちょっと色黒だ。
お茶を出す指先まで真っ黒だ!
顔も真っ黒だ!
「!!」
というか、顔が無い!
運転手と同じでつるりとした黒い卵形の顔がぼくの目に飛び込んできた。運転手との違いは肩にかかるほどの長い黒髪。だけど明らかにかつらだ。
「あの、あああああの人は?」
さすがに我慢できず、質問する。
「今のは私の秘書 一河さんだよ。ちなみに運転してくれてたのは二垣君だ」
いや、名前ではなく、あの人たちはなんなのかが聞きたかったのだが、御堂博士は
「ちょっと待っていてくれたまえ」と言い、ぼくを残して部屋を出て行ってしまった。
部屋に取り残されたぼくはテーブルの脇に立つ『一河さん』と二人きりになってしまった。
「あの、一河さん。ちょっとお尋ねしてもいいですか」
恐る恐る話しかけるも、『一河さん』は微動だにしない。今始めてみた人はおそらくマネキンにしか見えないだろう。
仕方なく、出されたお茶を飲んで御堂博士の帰りを待つ。
たまに、ちらちらと『一河さん』を覗き見るが、まったく動く気配は無い。
生気というものを感じないのだ。
ぼくは試しに立ち上がってみる。やはり無反応。
今度は『一河さん』の後ろに回ってみる。やはり無反応。
後ろから軽く押してみる。
ガターン。
『一河さん』は直立不動のまま前に倒れこんだ。
「うわぁああ、ごめんなさい、ごめんなさい」
ぼくはその場から飛びのく。床に倒れた『一河さん』は見事にテーブルの角に頭をぶつけてしまった。
首がおかしな方向に曲がり、緊張に耐えられなくなった骨がきしむ音が聞こえたかと思うと、そのまま首がもげた。
「うあわあああ」
残された体からは赤い血液があふれ出る。
確かこんな状況、以前にも出会ったことがある。あれだけインパクトのある状況だ忘れる方が難しい。
ぼくはころがる『一河さん』の頭を拾い、内部構造を確認する。
中には小さな火花を散らす機械類がつまっている。骨格はカーボン樹脂だ。
間違いない。これは加奈子先輩の造った人造人間と同じものだ。
法子先輩は『この人造人間には最低限のデーターしか搭載できない』といっていた。
きっとぼくにお茶を入れて、ここに立たせておくだけの情報しか与えられていなかったのだろう。
さすがにぼくも、この状況に違和感を感じ始めた。
なぜ、この研究所に加奈子先輩の設計した人造人間がいるのか、本当にぼくを研究員として迎え入れようとしているのだろうか。
そう、ここに入ってからというもの、まともな人間に一人もあっていない。
これだけの大きさの建物だ。ある程度の研究者がいてもおかしくないはずなのに、ここは人の気配が無い。
『一河さん』だけではない『二垣さん』も間違いなく人間ではないだろう。
ぼくは御堂博士が戻る前にこの部屋を出ることに決めた。
よくよく考えればおかしな話だ。
中学時代の研究程度で、世界トップレベルの研究機関にスカウトされるなんて。
あの御堂博士も偽者かもしれない。
何のためにぼくをつれてきたのかは知らないが、あの人には加奈子先輩とおなじ匂いを感じる。
部屋の中を見回り武器になりそうなものを探すが、部屋の中にはテーブルとソファー以外まったくといっていいほど何も物が置かれていない。窓のないこの部屋から出るには正面の扉しかない。ここに入るときはほとんど人気は無かった。うまく行けば逃げ出せるかもしれない。
御堂博士が戻ってこないことを祈り、ゆっくりと扉を開けた。
しかし、廊下には全身が黒い男が二人立っていた。『二垣さん』かと思ったが、今まであった黒い人とは明らかに体のつくりが違う。
二人はぼくが部屋から出るのを阻止するように、扉の前に仁王立ちでぼくの退路をふさいでいた。
顔が無いため表情は読み取れない。
一河さんのように動いていないのでは、と思い、横をすり抜けようとすると。ぼくの前に黒く大きな手が広げられ、行く手をさえぎる。
この二人にはぼくをここから出さないように命令されているようだ。
何とか逃げようと試みるが、そのたびに黒い男たちに捕まって部屋に戻されてしまった。
このままでは御堂が戻ってきてしまう。ぼくは力いっぱい男の体を殴りつけた。
感触は電柱を殴ったかのようだった。ぼくの貧弱なこぶしではびくともせず、逆にぼくのこぶしが赤くなってしまったほどだ。
そのとき廊下の奥から御堂博士が現れた。
「おいおい、森元君待っていてくれって言ったのに、これはどういうことかな」
あわてるでもなく、御堂博士はぼくに話しかける。
「今回の話はなかったことにしてください。今日はもう帰ります」
赤くなったこぶしをさすりながらぼくがいう。
「そうは行かないよ。今日家に帰るのは彼だからね」
そういった御堂博士の後ろからは、見たことのある人影が現れた。見たことがあるのは当たり前だ。あればぼくそのものだ。
『ボクハ、モリモトケンタダヨ』
無表情のまま同じ言葉を繰り返すぼくのコピー。まさか、あんなものでごまかせると思っているのか?
「よくできているだろう。今日からは彼が『森元 堅太』だ。そして君は私とともに来てもらうよ。三村・四ツ柳、彼を地下室に連れて来い」
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